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タンザニア日記9 [完]

ムカ当。
ひとまず最終回。





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十二月十九日 火曜日

天気 雨

今日も昼からトカナの加工作業場へ。
来週辺りに行商人が来るということで、トカナの実の加工は佳境に入っている。
用意された五十枚の麻袋は、今日で四十枚がいっぱいになった。

相変わらず村の女性たちに教わりながらの作業だが、先週よりずっと上手くなった、筋があると褒められた。

電化すれば能率は上がると考えたこともあった。
しかし三ヶ月近くこの村で暮らし、地図を作り、人々の暮らしを見てきて、下手な近代化はこの村の豊かさを台無しにすると、今は考えている。
村の様々な風習は、絶妙なバランスで保たれている村の環境を守るための知恵が多い。

村一帯がほぼ完全な形で循環している。
人が増えすぎず、減りすぎないように、そして、血が偏ってしまわないための風習。
狩り過ぎないためのルール。
資源を最大限有効に使い、ゴミを出したり環境を汚したりしない工夫。
僅かに必要な国の通貨は、寒さにも日照りにも強く、農業と採集の間のような、トカナの実の生産と加工でまかなっている。
加工方法は村外不出だ。

これまでの調査でわかっただけでも、村に蓄積されてきた知恵は挙げればきりがない。

シャーマンの妻が村を出てはいけない理由は、妻や妻についてきた、外の村からきた従者たちが、確実に村に根付くためなのではないかと、今のところは考えている。

今日の作業が終わった後、ムカラとまた話し合った。
必ず帰ってくるから、一度日本へ帰りたいと。
隣村までは三日かかるが、そこから首都までは二日で着く。
うまく飛行機が取れれば、そこから日本まで二日。
半月で戻って来ると約束をして。
今度来る行商人に、その次に来る時に手配をしてもらえるよう依頼する。
必ず帰れと言いながら、ムカラは泣いた。
俺も少し、心が傷んだ。

ムカラがそれを許してくれたのは、俺がこの村や、ムカラやイバダ、アファアファとの暮らしを愛していることを、この村の皆が信じてくれているからだ。
この村は、日本のどこにいても自分の居場所ではないように感じていた俺が、新宿で共に戦ったあの仲間たちの他に初めて、俺がここにいてもいいのだと思えた、俺の大切な場所だ。

できればついでに、毎年、年が明ける祭りで行われるという、村人の集まった目の前でアレをする儀式を廃止にしてもらえないかと頼んでいる。
これはおそらく、シャーマンの威厳を保ったり、神に捧げたりというよりは、この村の大人たちの、数少ないストレス発散のための娯楽なのだ。

これは、ムカラが俺に惚れているらしいことを利用し、お前以外にあんな姿を見せたくないのだとも言ってみたが、当麻は美しく可愛らしいから大丈夫だという噛み合わない答えが返ってきた。
何度も交渉するつもりだが、直ぐにはいい答えをもらえそうもない。
まもなく来る正月には、仕方がないのでストリッパーにでもなったつもりで、薬を多めに盛ってもらって凌ぐしかないかと諦めている。
村の皆に、世話になっている恩返しだ。

明日はトカナの加工作業は休ませてもらい、ムカラとイバダ、三バカのいつものメンバーで、初めてのワニ退治に行く予定。




おわり

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