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タンザニア日記8

ムカ当です。
まだ終わらなかった。





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十月十日 火曜日

天気 曇り

朝起きて、今日は俺の誕生日だと言うと、生まれた日付けを覚えているのことにムカラが驚いていた。
日本では家族で誕生日を祝うのだと教えたら、それならイノシシ狩りに行こうと言う。

この辺りのイノシシは、日本のイノシシの優に倍はある巨体だ。
狩りはイバダを連れて三人でも難しいので、タリク、ズベリ、ヌルの三バカにも声をかけた。
首尾は上々で、丸々肥えたのを一頭仕留めた。

今日の狩りで、イノシシにトドメの致命傷を与えたのは俺だ。
苦しめることなく、なかなか上手く射抜くことができた。
動物を狩って殺すことに、当初かなり感じていた罪悪感を、最近は感じなくなってきている。
罪悪感とは反比例で、食べる時の感謝はひしひしと感じる。
本来の、あるべき姿勢だと思う。

ムカラが村のみんなに「当麻が仕留めたイノシシだ」と振舞ったので、ムカラはいい妻をもらったとか、男の妻でよかったとか言われていた。

家に戻り、アファアファとイバダと四人でイノシシフルコースを拵えて食べた。

食べながらムカラが俺に、親に会いたいかと聞いた。
家族でする誕生日の祝いのことを話したので、気にしたのだろう。
ムカラは赤ん坊の頃に、両親を病気で亡くしていて、親族はいない。
イバダも両親がなく、村に祖母はいるが、イバダがここに住み込んでいるので、家族とはあまり縁がない。
大家族が基本のこの村では珍しい、身寄りのない二人だ。
そんな二人を前に、俺はどう答えていいものかとも思ったが、率直に、そんなに会いたいわけではないが、両親は俺のことをもしかすると心配しているかもしれないから、連絡は取りたい気持ちはあると話した。
ナリアが立つ時に託した手紙が上手く秀に届いていれば、そういうことには気の利く秀だから、親には連絡を入れてくれそうだが。

イバダが、家に帰りたいかと訊くので、俺はここが気に入っているから、今すぐに帰りたいとは思わないと話した。
ただ、言葉をまとめるのにコンピュータがあると抜群に捗るはずなので、そんなものを取りに一度戻れたらいいとは思うという話をした。

ムカラが日本に来た時の黒い鎧の力は、ムカラが何時でも自由に制御できるものではないらしいことは、前に聞いていた。
だいだい、たかが物を取りに行くだけの里帰りで、新宿の街をあんな騒ぎにしてしまうわけにはいかない。

アファアファは、少しくらい日本に行ってきたらいいのではと軽く言う。
イバダも連れて行ってもらえとアファアファが言えば、イバダもそれはいいと嬉しそうだった。

ムカラはしばらく黙って考えて、妻は村から出てはいけないというルールは古くからの言い伝えで、その理由がわからない。
理由がわからないものを、自分の一存で破っていいとは言えないと言った。
俺が日本に帰らなくても、日本から持ってきてもらえるものなら、そうしてもらいたいと。
ムカラは村から離れるわけにはいかないし、俺とは一日でも離れてはいたくない、と言った。

どうして離れたくないのかと訊ねると、結婚したからだと言う。

イバダとアファアファがいるところだったが、立ち合ってもらった方が意図のすれ違いも少ないかもしれないと考えて、思い切って訊ねてみた。
なぜ、ナリアではなく、男の俺と結婚したのかと。

俺は、自分で考えていた仮定を話した。

青い髪の人間はこの村では滅多に生まれることはなく、この村に暮らしていたのでは村外の言語を話すようになることはない。
青い髪で異国の言葉を話す嫁というのは、本来、村の外からやってくることが前提だったのではないか。
もしかすると、ここからそう遠くはない他の村に、青い髪がよく生まれる民族があるのかもしれない。

それが、ナリアは滅多に生まれない青い髪で生まれてきた。
とても賢かったので、村の人達は余所者を嫁に迎えるより、ナリアをムカラの嫁にしようと育ててきた。
しかし当然、外国語や世界のことを学ぶほどに、村から出られないムカラの嫁ではなく、村の外に生きる道を見出したくなるものだろう。

そこに俺が現れたわけだ。

ただ気になるのは、青い髪の民族を迎えようとするのは、村に新しい血が入ることを期待するからではないかと思うのだが、それならば男の俺では用をなさないのではないかということだ。
男同士では、子供はできないのだから。

俺の話に、ムカラもアファアファも、なるほどという顔をした。
ナリアは確かに外に出たがっていたが、村の人達の期待に縛られていたとムカラは言った。
ただ、それでも他に嫁はいないのだから、ナリアと結婚するのは仕方がないことだと思っていたと。
しかし、俺が現れた。
それでも、ムカラはナリアを解放したいと思ったのではなく、ナリアより俺と結婚したいと思ったのだと言う。
男か女かは、たいした問題ではないと。
だいたい、ムカラに子供ができたとしても、その子供が跡継ぎになることはないのだそうだ。
シャーマンの跡継ぎは、代々違う家から出されるきまりなのだということを、今日、初めて聞いた。

結婚の儀式のときにも、結婚相手の俺が男であることに何か異議の出た様子はなかった。
確かにこの村の約八十の世帯の中に、同性カップルが三組あり、余所者の俺の調査ごときでその事実が分かるくらいオープンになっているということは、村全体が同性同士の結婚に寛容なのだろう。

それにしてもムカラが俺個人を気に入って結婚しようとしたとは、今まで思いもよらなかった。
あの日、俺がここに残りたいと言わなかったらどうしたのかと訊ねたら、作戦としては力ずくやむなしということだったらしい。

そんなことになっていたら、また全員が巻き込まれて大層な騒ぎになっていたことだろう。


今日はいろいろなことがあってとても疲れたが、取り急ぎ新たに分かった事実として、ここまでは記録しておく。



つづく

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