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タンザニア便り1

ムカラ×当麻。
当麻のおつきの少年サイドの話。
しばらく続きます。






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「十二になったら、お前はムカラのお嫁さんのお世話をするんだよ」

イバダは村の大人たちから、そう言われて育った。
「ムカラ」は百二十年に一度、この村に生まれる村の守り人。神の言葉を聴き村人に伝える、神の子だ。
何より、ムカラの身体能力の高さは村でも抜群で、素手で獅子を倒し、ごま粒のようにしか見えない遠くのインパラを大きなブーメランで仕留める、村の子供たちの憧れ。
その「ムカラ」の傍で働く者に選ばれたことは、イバダの誇りだった。

ムカラの許嫁はサリの家の長女、ナリアだ。
「ムカラ」と結婚する者には、言い伝えによる条件があった。
一つは、青い髪をしていること。
もう一つは、異国の言葉を話すこと。
ナリアはムカラの幼馴染で、妻の条件である、珍しい青い髪をしていた。
そしてもう一つの妻になる条件、「異国の言葉を話す人」に相応しくなるよう、文字文化のないこの村から幾度も首都に出かけ、学び続けていた。
ムカラと時おり仲睦まじく語らう、美しく聡明なナリアもまた、イバダにとって憧れの存在だった。

イバダはナリアの身の回りの世話をし、守ることができる男になるために、煮炊きの腕を磨き、簡単な医術の心得や、護身術を身につけた。

イバダが十二になった冬、いよいよムカラが結婚することになった。
しかし驚いたことに、相手はナリアではなかったのだ。
それどころか「嫁」であるのに女性ですらない、青い髪をした異国の青年だった。

その青年は、他の四人の戦士と一緒に遠い異国から突然現れて、ムカラと勝負をした。
神の鎧を纏ったムカラは、ただ一人で五人の鎧戦士と戦い、その力はまったくの互角だった。
勝負の後、四人の戦士は祖国へと帰っていったが、その青年だけが一人残ったのだった。

十六にならなければ参加できない、ムカラが嫁を迎える儀式が夜通し行われている間、イバダは祭りの喧騒が僅かに届く、祭事場からは少し離れた家でムカラの来るのを待った。
その家には小さな子どもがたくさんいて、その母親が祭りには出かけずに、子守りで留守番をしていたのだ。

「ああ、祭りに行きたかった」

と、若い母親は何度も呟いてはため息をついていた。
いつもの祭りより賑やかな音楽が、異様に熱を帯びた人々の気配とともに、夜風とともに流れてくる。


そのうちに、ムカラが大きな荷物を担いでイバダを迎えに来た。
イバダが僅かばかりな自分の身の回りのものを携えて外に出て、よくよく見るとムカラがまるで狩ってきた獲物のように肩に担いでいるのは、今しがた結婚したばかりの「嫁」だった。
月明かりに青い髪が艶めいて見える。
そんな体勢でも、その人はぐっすりと眠っているようだった。

イバダが昼間に整えておいたムカラの家までの道を、イバダはムカラと黙って歩いた。

ムカラに尋ねたいことは山ほどあったが、今が神の時期で、神の時期にはムカラはほとんど口をきかないということを、イバダは知っていた。

ムカラの肩に担がれている青年は、途中、二、三度目を開けた。
まだ夢の中のようなその瞳は髪と同じ、美しく濡れた青い色をしていた。

イバダの部屋は、ムカラの家の入口を入ったすぐ脇。
奥には居間があり、最奥にムカラと嫁の寝室がある。
イバダは自分の部屋で、すぐに横になった。
明日からは、ムカラの嫁のための飯炊きをするのだ。
ナリアの好きな食べものは把握してあったのだが、あの異国の青年が何を食べるのか、明日は聞かなくてはならない。

家の奥から聞きなれない声が聞こえてきた。
あの青年が、目を覚ましたのだろう。
その声がよく聞きたくて、イバダは目を閉じて耳をすませてみたが、すぐに眠りに落ちてしまった。



つづく

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