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【130】俺と征士と子猫物語

冬木まれさんが、Twitterで呟いていらした設定をお借りして。
征当です。





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大学もアパートもそう遠くはないので、お互いの部屋をしばしば行き来しているのだが、征士が試験前で俺が訪問を遠慮したり、しばらく大阪に帰っていたりしたので、征士の部屋を尋ねるのはおよそ半月ぶりだった。

「おー。お前が『ずんだ』か」

同じ大学の実家住まいの友達の家で六匹も生まれたので、征士がもらってきたと聞いていた子猫は、座布団の上にちんまりと丸まっていた。
ちんまりのくせに、面倒臭そうに頭を上げて、俺に偉そうな一瞥をくれる。

何の変哲もない茶トラ模様。

「ずんだというより、チャトランだな」

俺は買ってきた缶ビールを小さな卓袱台に置き、子猫の隣に胡座をかくと、二本のうちの一本を開ける。

プシュッという缶の開く音が不快だったのか、子猫はようやく起き上がると俺を睨む。
向かいに座る征士のところまでとことこと行き、膝に手をかけて、ニャーと鳴いた。
声には出さないが「よしよし」とでも言うような顔で、征士は小さな猫を抱き上げると、俺の方に向けて突き出した。

「目の色を見てみろ」

言われた通りに覗いてみれば、なるほど子猫の目玉は淡い緑色だ。

「ははぁ。目の色が、ずんだか」

「そうだ。これが気に入ってな。こいつを選んだのだ 」

「なるほど。仙台名物ずんだ餅。お前の地元愛には感心するよ。よろしくな、ずんだ」

俺が征士から受け取って抱いてやろうと手を出すと、ずんだは征士に両脇を抱えられたまま、シャーッと歯をむき出して、俺を威嚇した。

「お? やるのか? 生意気なヤツだな」

とりあえず手を引っ込めて軽く睨んでやると、ずんだは負けじと歯をむきだしたまま、ずんだ色の目で俺を睨み返す。

「ずんだはお前が気に入らんようだな。まぁ、私にだってここまで慣れるのには何日かかかった。お前にもそのうち慣れるだろう」

征士はずんだを俺に手渡すのを諦め、自分の胸に抱いた。
ずんだはまだ、俺を睨んでいる。
どうもそんなに簡単には、仲良くなれなさそうな気がする。

「ずんだ。あれは当麻と言ってな。私の相棒なのだぞ?」

「相棒……」

征士が俺のことを、そんなふうに言ったのを聞くのは初めてだ。
悪くない。

「不満か?やはり、恋人がいいか?」

俺に問いながら、征士はずんだを畳の上に下ろす。
ずんだはひらりと征士の胡座の膝に飛び乗ると、そこにまた、ちんまりと丸くなった。

「いや、いいな。相棒。気に入った。そうだぞ、ずんだ。お前のご主人様の相棒なんだぞ、俺は」

自分で言うと少し面映ゆく、俺はテーブルの上のビールを手に取って、ぐびりと飲んだ。

ずんだはまた俺に首を向けたが、すぐにふい、と俺から目をそらし、丸まった。
まるで「お前なんか認めない」と言っているようだ。

「俺の征士だぞ」

ビールのせいで、ついそんな恥ずかしすぎる台詞が口から転がり出そうになったのを、グッと堪える。
征士が俺を見て、僅かにニヤリとしたような気がする。
馬鹿馬鹿しい。
俺は猫の子相手に、嫉妬なんかしない。
と、言うより、俺様は嫉妬なんかしないのだからな。

えへん、おほん、と咳払いをして、俺は残りのビールを喉に流し込んだ。



おわり

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