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タンザニア日記7

ムカ当。



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九月二十二日 金曜日


天気 曇りのち晴れ

「神の仕事」の期間が終わり、ムカラが早く帰って毎日家で夕食をとるようになって半月。

期間中は家にいる間もずっと黙って厳しい表情をしていた。
今はその険しさがとれ、笑顔とまではいかないが、これまで得体の知れない超人だと思っていたムカラが、俺と変わらない普通の青年だと思える場面も増えてきた。

口の中で呟くようにしか話さなかったのが、半月の間には小さいながらも意識して傾聴しなくても聞こえる声になってきている。
俺に話しかけてくることも、さほど珍しく感じなくなった。

これらの変化は、終わりの日を境に急に変わったのではない。
あくまでも半月後の今だからわかる、徐々に起きている変化だ。

神の仕事期間終了を機に劇的に変わったのは、夜の夫婦生活だ。
期間中は毎晩欠かさず数時間。
かなり激しい運動で、夫婦の営みというよりは、快楽を伴う果てしない拷問のようだった。
ムカラが使っていた潤滑剤には、おそらく麻酔薬、麻薬の類が含まれていて、毎日使うものだから身体への悪影響も心配していた。
しかし、あれがなければ精神的にも肉体的にも、とても耐えられなかっただろう。

期間後は、男同士であるということ以外は普通に近くなった。
薬剤も違うものを使うようになり、潤滑の役割以外の作用は感じられない。
二週間の間には、何もしないで朝まで眠る日もあった。
この手の普通というのは人種や文化によってもかなり違うものだが、日本の感覚ではかなり頻繁でも、原始的な生活に近いこの村では普通か少し多めくらいの類なのではないかと想像する。
断ることなど不可能な狂気の期間に散々慣らされてしまったので、今も何となくそのまま付き合ってしまっている。

この神の仕事の期間がどのくらいの長さで、それ以外の今の平和がどのくらい続くものなのか、ムカラに訊ねてみると、それは神が決めることで、その年によって違うという答え。

神の仕事の時期が、一年の中のごく限られた期間であってほしいと願うが、少なくともこの後一年くらいは、ここでムカラやイバダと共に過ごし、シャーマンの妻としての生活を体験したい。
イバダが優秀な助手に育ってきたので雨季に入る前に地図作りは済みそうだ。
それを使って、人の分布や風習、作物や狩猟で得ているものなど、できるかぎり調査してまとめたい。
今の生活は毎日が想像を超えた発見の連続で、俺の知的好奇心を十分に満たしてくれるし、居心地も決して悪くはない。

ひとつ、気になっていることがある。
国の公用語のスワヒリ語さえ話せる者がほとんどいないこの村で英語を話せるナリアは、かなり特別に勉学を重ねてきたのだろう。
ある程度才能があったとしても、幾度か海外に、少なくとも首都に出た経験があるはずだ。
この村の中だけで、あの教養は身につかない。
貧富の差のほとんどない素朴で貧しいこの村で、様々な協力を得ながら努力をしたことだろう。

それは「青い髪で、異国の言葉を話す」のが条件らしい、ムカラの嫁になるための努力だったのだろうか。
それならば、それだけ苦労もしたのに、なぜ突然現れた縁もゆかりもない俺なんかに、あっさりとこの座を明け渡したのだろう。
あの儀式は、一般の教養を身につけた女性の身では耐え難いとは想像ができるが。

そろそろムカラに、ナリアのことを訊ねてもいいだろうか。
具体的で現在的な話はかなり通じるようになってきたが、抽象的な話、心情や過去や未来の込み入った話は、文化の壁と相まって俺の語彙力ではまだまだ難しい。



昨日の晩、明日は鹿狩に一緒に行こうとムカラから誘ってくれた。
弓を使うから、得意だろうと。

ムカラが俺の個性をそんなふうに覚えていて、気にかけてくれていることに驚いた。

ふと思いついて、俺のことを「青い髪の嫁」ではなく、当麻という名前で呼ばないかと提案したところ、すぐにそう呼んでくれるようになった。
もっと早く言えばよかった。

鹿狩りは何人かで出かけるのかと思っていたら、イバダも連れずに二人だけだった。
南の森の、かなり深いところまで入り、ブーメランと弓で若い鹿を二頭狩った。

茂っている森の中ではブーメランより弓の方が有利だ。
ムカラの弓の引き方に、いくらかアドバイスをした。
ムカラのブーメランも貸してくれたが、重くてとても投げられなかった。
村にブーメラン作りをする人がいるので、俺用のブーメランを頼んでくれるとムカラは言った。

鹿を二頭、両肩に軽々と担いで平気で歩くのだから、ムカラの筋力は凄まじい。
俺は弓を二張とムカラのブーメランを持って道なき道を歩くだけで、正直なところかなり疲れた。
ムカラはこれまで、例の夜の運動以外のことで俺に負担をかけることを嫌がり、神経を使っているようだったが、今日は「疲れているか?」「重いか?」と始終俺を気遣いながらも、俺にあの重いブーメランを任せた。
一緒に暮らす上で、ありがたい変化だ。

鹿は村の貯蔵小屋で血抜きだけして吊るしておいた。
鹿の血はアファアファが夕飯の汁に混ぜていた。
肉は明日捌いて、村人に配る予定。
地図作りのまとめ作業は、明後日に持ち越しか。



つづく
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