たいいくのひ

「引越し、お疲れ様。乾杯」

「かんぱーい！疲れたー！とうとう二人暮らしが始まったな」

「そうだな。……どうだろう、当麻。私たちは、うまくやっていけるのだろうか」

「何だよ、征士。いきなり不安か」

「まぁ、な。これからしばらくは二人で暮らすのだ。心に留め置かず、こういうことは伝えておいた方がいいだろう」

「へえ、なるほど。しばらくねぇ。……具体的には？ 不安要因」

「具体的……。ふむ。お前の心づもり、か」

「俺の」

「そうだ」

「んー……どうだろうな。俺はとにかく、お前と一緒にいたいと思っているんだがなぁ」

「ああ。それはわかっている。だが……きっと最後は、私が振られるのではないかな」

「もう酔ってるのか？ 今日は、やけに後ろ向きだな」

「そうだな。引越し疲れというやつかもしれん」

「うーん。先のことはなぁ……とりあえず、一緒にいてみるしかないんじゃないですかネ」

「……浮気をしても、私には言ってくれるなよ」

「俺ってそんなに信用ない？」

「今までが今までだからな。完全に信用しているとは言えん」

「まぁねぇ……」

「しかも、私が無理にお前を説き伏せて、こうなっているキライも無きにしも非ず」

「ふぅん」

「とにかく、知らなければ余計な感情を掻き立てられずに済むには違いない。浮気は黙ってやってくれ」

「…………まず言っておくが、無理にじゃない。俺は俺なりに、お前に真っ直ぐに向かい合いたいと思ってる」

「…………」

「晴れて二人暮らしになったんだ。これから毎日、誰にも邪魔されずに手を繋いで、キスをして、抱き合って、俺はそれを思い出しちゃ、毎日ニヤニヤするつもりだ」

「…………そうか」

「そりゃ、たまには喧嘩くらいするだろうけどさ。俺、ちゃんとお前に謝るから。……たぶん」

「…………」

「あ。今ちょっと笑ったな」

「笑ってない」

「笑えよ、征士。二人暮らしですよ？ 一日中二人で裸でいたってさ、誰にも何も言われないんだぞ」

「そうだな」

「お前を不安にさせてしまうのは、俺の不徳の致すところだが」

「わかっているのか」

「ああ。でもな、俺は征士、お前と朝も夜も一緒にいたいから、こんな面倒なこと…………、俺、今日、頑張っただろう？」

「ああ。そうだな」

「お前の要求は飲めない。俺は、もう浮気はしないつもりだし、しないつもりだから、したら、お前に言う」

「…………わかった」

「そして、これは俺がもう酔っているから言うんだがな」

「なんだ」

「俺は、お前が好きだよ、征士」







おわり