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【124】想いは仮想空間を超えて

年末のお話。
征当です。



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*****

二、三日に一度くらいの頻度で、自分の部屋のパソコンに届いたメールをチェックする。
そのついでの徒然なるネットサーフィン中に、伊達征士は古ぼけた一枚の扉にたどり着いた。

ピッ、とひとつ電子音が鳴り、モニターの右下にコマンドウィンドウが現れる。

------------
▶ ドアをあける
  あけない
------------

二度ほど瞬きをして考えた征士が「 あける」を選択すると、音もなくゆっくりとドアが開き、景色はその奥の小さな部屋の中に変わった。
そこにはコンピュータグラフィックスで形作られた、一人の青年がいた。

青いセーターを着て、髪も青いその青年は、明るく暖かそうな部屋の中で征士に背を向け、何やら熱心にパソコンに向かっていた。
少し丸まった肩のあたりが妙に気にかかって、征士は青年が自分の方に振り返るのを待つ。
そのうち、部屋に入ってきた征士に気がついたように、モニターの中の青年は掛けていた椅子を回し、身体ごと征士の方を向いた。

『こんばんは』

征士が後ろ姿から想像していたとおり、その人物は征士と同じ年頃の青年だった。
その青年が征士の方を見ると、口を動かして自分に向かって声で語りかけたことに、征士は驚く。
目の前にあるパソコンの両脇に置いたスピーカーから音はしているのだが、その声はまるで青年の口元から聞こえてくるよう。
おそらく合成音声だが、柔らかな、少し高めの声。
征士は慌てて返事をしようと口を開きかけたが、思い直して手元のキーボードで入力した。

《こんばんは》

文字は、ドアを開けるために現れたコマンドと同じ窓に映し出される。
征士はエンターキーを押す。
するとまた青年は口を動かし、音声で返事をした。

『こんばんは。初めまして、ですよね。俺はash_T(アッシュ・ティ)。あなたは?』

パソコンモニターの中の青年は耳に心地よい声でそう言って、目じりの少し下がった大きな目で征士を見た。
何と名乗ろうか。
気の利いた名前などすぐには思いつかない。
咄嗟に浮かんだのは「政宗」だったが、若輩の分際で高名過ぎる御先祖様の名を語るのも気が引けた。

《masa》

このくらいなら、公も許してくださるだろうか。
征士はアルファベット四文字を入力し、再びエンターキーをたたいた。

『そうですか。マサ、俺のことはアッシュと呼んでください。よろしく』

モニターの中の青年アッシュは垂れた目を細めて征士の仮の名を呼ぶと、見ている征士に向けて手を伸ばした。
と、同時に、またピッという電子音がして、画面の右下に

------------
▶ あくしゅを する
  しない
------------

と、二度目の選択コマンドが現れた。
征士が慌てて「握手をする」を選ぶと、青年アッシュは嬉しそうに、握手をする仕草をした。



半月ぶりに中米から東京に帰ってきた羽柴当麻は、一人暮らしの部屋に所狭しと並べられているコンピュータに、片っ端から電源を入れていく。

「あ。アッシュに誰か来ていたのか」

「ash_T」は、当麻が趣味で作成しているコンピュータ・プログラムだ。
当麻は世界中のマイナーな言語を使う地域を回って研究と通訳の仕事をする傍ら、趣味でネット上に生きる仮想人物を作る実験をしていた。
アクセスしてきた相手からの働きかけを受けて自ら思考して行動するash_T、通称「アッシュ」は、基本は創造主である当麻に似せて作られている。
アッシュはただプログラム通りの反応をするだけではなく、相手と話した経験から様々なことを学び、自分の感情をもって自己を形成していく人工知能の先駆けだった。

プログラムは開発が進み、目下実験段階。
当麻が管理する旅行サイト内の検索機能で、とある条件の検索をすると、一度だけこのアッシュの扉に飛ばされる仕掛けになっている。
飛ばされた人にとっては、キーの押し間違えか、取るに足らない何かしらのバグに引っかかったように感じられ、何の気なしにブラウザで元に戻れば二度とアッシュの扉に飛ぶことはない。
戻らなかったとしても、何の説明があるでもなく、アクセスしてきた相手にとっては、誰が何のために作ったものなのかもわからないため、大抵は部屋への扉を警戒して開かないか、開いても背中を向けているアッシュと会話をするまでには至らずに、サイトを去ることになる。
そこで自分であえてどこかに番地を控えていればよいが、同じ偶然ではたどり着くことができないアッシュには、同じ人物から二回目のアクセスがあることは稀だった。

人々の話題にはなり過ぎず、それでも不特定の何人かには興味をもってもらうための仕組み。
それを乗り越えて同じ人物が数回に渡ってアクセスしてはじめて、当麻はその内容を確認するようにしていた。

「一見さんだな」

だから初めてアクセスしてきたこの「masa」のことを、当麻はこの時は気に留めることもなく、その名前を確認しただけだった。





朝九時頃にはできるはずの交代が、この日は夕方近くになり、交番勤務の征士が家にたどり着いた途端、出迎えた母に「お夕飯にしますから、すぐに降りてきてくださいね」と言われる始末。
それでも征士は二階の自室に入るなり、パソコンのスイッチを入れた。
おととい再訪問のためにパソコンに記憶させておいたURLにアクセスすると、あの時と同じ古ぼけたドアが現れた。

------------
▶ ドアをあける
  あけない
------------

征士はドアの向こうに今日もアッシュがいて、あの声で自分に語りかけてくれることを願いながら「あける」を選ぶ。
その期待どおりにアッシュは、初めての時と同じように征士に背を向け、パソコンに向かっていた。

《こんにちは。アッシュ》

声を掛けるとしばらくして、アッシュはまたゆっくりと椅子を回して振り返った。
そして征士を見ると、ふっと表情をほころばせた。
それだけで、アッシュが征士を認識してくれているのがわかる。

『二回目の訪問ですね。マサ』

《もう一度会えるか、ずっと気になっていた。だが今日は時間がなくて》

階下から、妹の呼ぶ声が聞こえてくる。

『忙しいんですね』

アッシュが答える。
征士は部屋の外に向かって大きな声で返事を返しながら、急いでキーボードを叩いた。

《非番のはずなのだが、事案が立て込んでしまった。昨夜は寝ていないので、夕飯を食べるとおそらく寝てしまうだろうから》

『マサは、警察官なんですね』

《そうです。明日は休みだから、またゆっくり来させてもらっていいだろうか》

『もちろん。では、また』

アッシュは涼しい顔でそう言うと、くるりと椅子を回して向こうを向いてしまった。





『やあ、マサ。また来てくれたんだな』

アッシュは微笑んで、ほんの少し首を傾げた。
終始丁寧に話していた今までよりも、口調が砕けているようだ。

征士がアッシュにアクセスするのは、これが六回目。
一度の訪問時間はそれほど長くはないが、当番勤務の日以外は毎日通いつめていた。

《話し方が変わったな》

キーボードに指を走らせてそう伝えると、アッシュは驚いた顔をした。

『悪い。失礼に感じるか?』

《そんなことはない。嬉しい》

征士は慌てて文字を綴り、率直な気持ちを伝えた。
そのことに、征士自身が驚く。
自分は家庭でも職場でも、いつもどこかでコントロールし、感情をそのまま露わにするタイプではないと思っていた。
思ったことを率直にぶつけられるのは、征士にとって特別な、古い四人の親友に対してくらいだ。

アッシュは自分のことを自動で動くプログラムだと言っていた。
生身の人間ではないから。
だからアッシュは付き合いやすいのだろうか。
征士は考えた。

アッシュは征士の答えに安心した顔をした。

『これまでにいろいろと話してくれただろう? マサのことを。たぶん俺とは歳が近いんじゃないかと思うんだが、どうだ?』

征士からはアッシュの姿や表情、仕草が見えているが、アッシュのプログラムには、征士がキーボードで入力する文字列からしか伝わらない。
征士は自分のことをたくさんアッシュに伝えたいと感じ、また、このプログラムで動く仮想の青年のことを、もっともっと知りたいと思った。

《ashは何歳?》

『俺の歳? 俺は……この世界に生まれて半年だが、設定上の歳は、二十代半ばくらいかな』

《私も同年代だ》

『だろう? 当たりだ』

嬉しそうな顔をするアッシュに、征士は自分まで嬉しくなる。

《私も、このように話してもいいか?》

『このようにって?』

《親しい友人に、話すように》

『もちろん、かまわない』

そう言って、アッシュは征士の前で初めて立ち上がった。
征士はその姿にハッとする。
アッシュは画面の端まで歩き、画面には映らないところでしばらくカチャカチャと物音を立てていたかと思うと、何かが入ったカップを持って戻り、また椅子に腰掛けた。

《カップの中は何だ?》

『これか? これはカフェオレ』

アッシュはカップを差し出して、カップの中身を見せた。
コーヒーの溶け込んだ乳白の液体が、湯気を立てている。

《甘いのか?》

『ああ。俺は大の甘党だからな。マサも何か飲むか? ここからごちそうするわけにはいかないが』

アッシュは笑って脚を組み、少し背を丸めてカフェオレを啜った。
征士はそれを見て、何かを確信した。
ひとつ小さく息をついて、また文字を打ち込んだ。

《私もコーヒーをいれてこよう》

『ああ。待っている』

自室を出て、征士はコーヒーをいれに冷たい廊下を歩く。
階下から、姉と妹の話し声が聞こえてくる。

(あれは……)

広い二階屋の階段を降りながら、征士はだんだんと胸の鼓動が抑えられなくなるのを感じていた。

(アッシュは当麻に似ているのだ。私の思い込みもあるかもしれないが。私があまりに、当麻に想いを寄せているから……)





『やあ、マサ』

《こんばんは。アッシュ》

八度目のmasaの訪問は、こんな風に始まっていた。
当麻が大学の調査に通訳で同行しタンザニアに行っていた十日の間に、masaはアッシュのもとに七回も訪問していた。
当麻は最新の会話を再生する。

挨拶のやりとりの後、masaはその日の仕事で先輩に叱られたことをアッシュ相手に話していた。

《アッシュは、本当に生きているようだな》

ひとしきりの話が片付いた後の、masaの発言。

『生きている、か。生きているのかもしれん。少なくとも今、マサと話している時は、俺は生きていると思う』

それに対するアッシュの返事に、へえ、と当麻は驚きの声を上げた。
たったの十日で、アッシュは随分とこの相手に打ち解けている。
これまでにも何人か常連の話し相手がいるが、こんなことは初めてだった。
いつだって相手の出方を探りながら、一定の距離を保つ。
そんな人付き合いのやり方が、さすが自分の分身だと感心し、簡単には腹を割らない自分の性質も筋金入りなのだと半ば呆れていたのに。

アッシュは、このmasaに対しては、まるで長い付き合いの仲間相手のように砕けた話し方をし、感じたことを素直に話しているようだ。

当麻は俄然、masaに興味をもった。
少し前のやり取りも見返してみる。
一人称は「私」で、警察官らしい。
まず脳裏に浮かんだのは可愛いミニスカポリスだったが、それにしては物言いが女性らしくないと思い直す。

ん?

当麻の心臓が跳ね上がった。

……まさか?

頭に浮かんだのは、悪友の顔。
今から十年ちょっと前に、人にはとても話せない奇想天外で最悪な出来事に、一緒に巻き込まれた男。

一人称は、私。
武士か!と突っ込みたくなる時代がかった物言い。
そして、今は仙台で警察官をしている。

…………伊達征士。

マサはもしかして、マサムネのマサ?

羽柴当麻は激しく狼狽していた。
別に征士がアッシュにアクセスすることは、特段問題のあることではない。
当麻にとって問題なのは、アッシュにとって征士が特別な存在かもしれないということだ。

masaが本当に征士なのか。

確認しなくては。
当麻はmasaの最初のアクセスから、やりとりの履歴を見直していった。



最近、アッシュのことを考えすぎている、と伊達征士は自分を省みる。
自宅にいるときならともかく、気がつけば勤務中にも、何かいつもと変わったことがあれば、今夜アッシュに話そうなんて思い浮かべていたりする。

よくない傾向だ。

羽柴当麻は十年ほど前に、誰に話しても信じてはもらえないだろう、荒唐無稽で過酷な試練を、共にくぐり抜けた腐れ縁の男。
征士は、その当麻に密かに恋心を抱いていた。

実際のところ共に戦い一緒に寝起きしていたときには、ただモヤモヤとした、よくわからない感情だった。
気持ちのやり場に困り、意味もなくぶつかることもよくあった。
それが恋とか愛とかいうものだと確信をしたのは、一件落着ののち、当麻を含めた当時の仲間たちと離れ、仙台に戻ってから。
高校に入り、友人たちの惚れた腫れたを見聞きしたり、自分に向けられた女生徒からの好意に手を焼くようになって、ようやく自覚したのだ。

これまで十余年の間、年に数回は五人の仲間で集まって、当麻と顔を合わせる機会もあった。
友人として信頼関係のあることは間違いない。
だが好意を伝えたところで受け入れてもらえるどころか、友人でさえいられなくなってしまう可能性の方が大きい。
それはとても耐えられないと、募る思いは固く胸にしまっていた。

ここしばらくは、諦められていたつもりだったのに。
当麻によく似たアッシュと会話するようになって、タチの悪い風邪のように、恋はまた、ぶり返してしまった。
一体どうしたらいいのだろうか。

征士は呟いた。

「……アッシュに、きいてみようか」





全ての履歴を見直して、羽柴当麻は焦っていた。

明らかに、アッシュはmasaに……いや、征士に、特別な感情を抱いている。

「くそっ」

自分が同性を好きになる質だということは、中学生になる頃には何となく気づいていた。
しかし、ただでさえ明晰すぎる頭脳のことで周囲から特別視されがちだった当麻は、自分が他とは異質な存在であることを示す条件を、これ以上増やしたくはなかったのだ。

なかったことにしたい。
でも恋愛感情とはままならないもの。
だからできるだけ、人を好きにならずに済むように、自分の性質を誰にも打ち明けることなく、人に心を許すことを極力避けて生きてきた。

それなのに。
寝食を共にしていた十余年前の一年間、はじめはいけ好かないやつだと思っていたルームメイトの征士に、当麻はだんだんと惹かれていってしまった。
人間世界の崩壊や仲間の死と隣り合わせの戦いの中で軍師の立場を預かっている自分が、そんな無駄な感情を抱いていてはいけないと自らを戒めれば戒めるほど、想いに蓋をできない現実に打ちのめされた。
せめて征士にこの思いを気づかれないように。
せめて、よき友人ではいられるように。

一件が片付き、各々の故郷へ帰って、これでもう楽になれたのだと。
あの征士への苦しい、自分らしからぬ激情は、生死をかけたあの戦いで生まれた錯覚だったのだと。
十年もかけて最近は、そう上手く思い込めていたのに。

ここでも征士と出会い、征士に惹かれてしまうなんて。
当麻は運命とも思える偶然を恨んだ。
そのとき。

```
A conversation with the guest has begun.
```

当麻が見ていたパソコンの画面にアラートが現れた。
アッシュが誰かと会話をはじめたのだ。

当麻はいっときの逡巡の後、画面をライブに切り替えた。





『こんばんは、アッシュ』

「マサ」

はじめは声をかけなくては振り返ってくれなかったアッシュは、征士がドアを開けるとすでに、モニターの方をを向いて待っていてくれるようになっていた。
その変化に、征士の心は浮き立ってしまう。

『仕事は、どうだった?』

(尻尾振ってるのが見えるみたいだな……)

初めて見た人にはそうは見えなくても、自分にはよくわかってしまうアッシュのはしゃぎっぷりに、モニターの前で当麻は一人、苦笑いをする。

征士がアッシュに興味を持つということと、自分に関心があるかどうかは、まったく別の問題だ。
自分まで舞い上がることがないようにと、当麻は自らに釘を刺す。

征士はアッシュに、昨日の仕事の話をした。
そして今朝からの姉と妹のことを。
祖父の剣道の道場のことを。

masaは征士に間違いない、と当麻は確信し、大きな大きなため息をついた。

どうしたらいいのだろう。

《どうしたらいいのだろう》

同時に征士が、そうアッシュに語りかけた。
当麻の目が画面に釘付けになる。

『何が?』

心配顔でアッシュが征士に尋ね返す。

征士は額にかかる髪をかき上げ、少し考えてから、またキーボードに向かった。

《こんなに毎日のように、アッシュに会いに来るのは、実はアッシュが私の友人に似ているからなのだ》

『友人?』

《そう。古い友人で、私は昔からずっと、その友人のことが好きなのだ》

『…………』

アッシュは曖昧な表情で黙り込んだ。

征士に好きな女か。
そんなの……いて当然だよな。
当麻は自分もショックを受けながら、アッシュの反応に、半月に満たない期間で随分と人間らしくなったものだと感心する。
アッシュも今、自分と同じ気持ちなのだろう。
そして自分も昔、こうやって征士に心を掴まれ揺り動かされて、人間らしさを学んだのかもしれない。

(それで、アッシュと雁首並べて一度に失恋していては、世話はないな。とんだお笑い種だ)

いたたまれない。
後はアッシュに任せて、当麻がモニター前から立ち上がると、また征士の言葉が届く。
当麻はそのまま、画面を追った。

《アッシュと話せば話すほど、忘れようとしていたその男への気持ちが募ってしまうのだ》

『男?』

アッシュと同時に、当麻は声を上げていた。

《そうなのだ。だからその友人に、私の気持ちを伝えることもはばかられてな》

『……それは、どんな人?』

アッシュが征士に尋ねた。
当麻は目を見開いて、画面に征士のコメントを待った。

征士は当麻を思い浮かべる。

《風のような男だ。いつもは涼しい顔で飄々としているが、ときに熱い。私を真正面から叱咤したかと思えば、力強く後ろから押してくれる》

『風か』

《そう。風で、空気。あの男がいたから、私は戦えた》

あの戦いのことだ。
当麻の目はひたすら、征士の綴る文字列を追った。
アッシュは征士の話を促す相槌を入れる。

『戦い?』

《そう。一年もかかった戦いの間、同じ部屋で寝起きしながら、私の気持ちが当麻にわからぬように、それは苦心をした》

「…………!!」

当麻は床に膝をつき、呆然とそのメッセージを見送った。

『当麻っていうんだな』

アッシュが創造主の名を発音する。

《そうだ。アッシュ。私はどうしたらいいのだろう》

「……アッシュ、ごめん」

当麻の指がキーボードを叩いて、コンピュータにいくつかの命令を送る。

アッシュの動きが止まった。
画面に、征士には見慣れない新しいウィンドウが開いた。

《征士。久しぶり。》





《年末の予定は?》

《俺?》

《他に誰がいる》

《三十日から年明け半月は、またアフリカだ》

二人の部屋にはそれぞれに、キーボードを打つ音が響く。
四百㎞の距離を隔てても、二人の表情は同じように穏やかだ。

《明後日からか。私は明日から四日間休みなのだが》

《そうか》

《そちらに行ってもいいだろうか》

モニターに現れた文字列に、当麻はしばし釘付けになった。
一方の征士は、黙り込んだ画面に不安になる。

《当麻?》

《すまん。来てくれてかまわない》

慌てて送ったメッセージは、文字面を見ただけではあまりにも素っ気なく、当麻は更に焦ってキーボードに指を走らせる。

《迷惑ではないか?》

案の定な征士のメッセージを横目に、当麻は部屋に、キーボードを叩く音を響かせる。
すると、今までモニター画面の中、ウェイトモードで手持ち無沙汰にしていたアッシュが動き出した。

『ありがとう。嬉しい。待っている』

アッシュの声が二人の部屋に、同時に染みていった。





おわり
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