たいいくのひ
since November 22th 2012
【123】告白 Seiji side
10月!当麻、47歳のお誕生日おめでとうございます!
ちゃむさんの作品『告白』の裏番組(蛇足)です。
『告白』は こちら
そちらをお読みになった後で、
よろしければ、お楽しみください。
「伊達君、羽柴くんと仲良しよね」
「伊達君だったら知ってるでしょう?」
「羽柴くんって、彼女いるの?」
何人もの女に訊ねられた、同じ質問。
「当麻に彼女?……いないわけがなかろう?」
あれほど魅力的な男なのだ。
そう答えておけば、女どもは勝手に「是」と判断して引き下がっていく。
嘘はついていない。
私はただ、ありがちな予測を伝えているだけだ。
私は羽柴当麻に交際中の相手がいないことを知っている。
それは、この私がその当麻に恋情を寄せており、当麻の恋愛事情は情けないことに私の一番の関心事であり、かくして私がそのことについては一番の事情通になってしまっているからだ。
自分の想いは言い出せず、耳ばかりが敏感になり、当麻に寄ってくる女たちを欺いて。
伊達征士は、これまで私の知る限り、このような臆病で姑息な男ではなかった。
私に想いを告げた女たちは、その想いを相手に(私に)ぶつけてきた。
……では私は、一体何をしている?
いや、あの女たちとは事情が違う。
私と当麻は男同士。
命を張って戦った仲間同士で、惚れたの腫れたのなどと女々しい話ができるものか。
羽柴当麻は男の中の男。
何もかも見通しているに違いない、あの鋭い眼差し。
あの深く蒼い瞳に覗かれては、誰だって足がすくむというものだ。
臆病者と思うか。
誰だって怖いではないか。
友人として、仲間として共有してきた時間はかけがえがなく、もし私が想いを告げたことでその友情を失いでもしたらどうする?
取り返しがつかない。
聡い当麻のことだ。
私のこんな気持ちなどとっくに見抜いていて、その上で気付かぬふりをしていることすら有り得ることだ。
しかし。
このままでいいわけもない。
ここを出て私たちは、それぞれの故郷へと帰る。
当麻への、道ならぬこの想いを伝えられさえすれば、私はまた、真っ直ぐに前を向いて歩けるようになるのだろうか。
「当麻、別れる前に言いたいことがある」
まさに今、この小田原の家を発つとき。
想いが通じないとしても、せめて、胸を張って当麻の前に立てる男でありたい。
私はようやく、思い切ることにした。
「ずっと当麻のことが好きだった。言わずに秘めたままにしたほうがいいのかと悩んだが、気持ちがいつ溢れるかわからなかった」
当麻の瞳は、いつもの当麻らしい冷ややかさを保ったまま、私をじっと見つめている。
私の背中に一筋、汗が流れる。
「当麻に嫌われたくない一心で、今日までこらえていた」
当麻の眉間がわずかに寄せられる。
それはそうだ。
信じていた友人からの、しかも、同じ部屋で何食わぬ顔をして寝起きをしていた男からの恋の告白。
決して気持ちの良いものではないだろう。
「笑われてもいい、呆れ、気持ち悪がられても仕方ない。当麻が望むならば今後一切交流を絶っても構わない」
自分の放った言葉に打ちのめされる。
いたたまれなさで胸が詰まる。
私は、こんなにも当麻のことで心を動かされるのだ。
そのことを、今更のように噛み締める。
「だが、私の気持ちは変わらない。当麻が好きだ。言い逃げのようで……」
告げ終えたら、後ろを向いて背筋を伸ばし、男らしく去ろう。
そう決めた矢先、これまで押し黙っていた当麻が口を開いた。
「……ずるい」
「え?」
「お前はひどいやつだ」
早鐘のようだった鼓動が引いていくのがわかる。
やはり、当麻は怒っているのか。
「済まない、当麻。やはり迷惑だったな」
この場をどう切り抜けたらよいのか、皆目見当もつかない。
逃げ出したい。
あの戦いの最中でさえ、思いも寄らなかったそんな考えまで頭をもたげる。
「勝手なこと言うな」
「申し訳ない」
「謝るな!」
「すまな……」
「俺の返事がほしいか?」
………何と言った?
頭を上げ、いつの間にか地面を見つめていた顔を当麻に向ける。
「返事をくれるのか?」
返事とは?
しかも私が欲しがる返事を、当麻はくれるというのか。
「ほしいかって聞いてるんだ、質問を質問で返すなボケ!」
当麻の頬は少し赤らみ、視線の鋭さは消え、私を疎んじているのではないことがわかる。
静まりかけた心臓が、また鳴りだす。
「すまな……。いや、ほしい。当麻が、当麻の返事がほしい」
身の置き所がないとは正にこのことで、私は今、自分がどのような顔を晒しているのかも分からず、完全に浮き足立っている。
「じゃあ次の六月九日に返事してやる。それまで悶々と悩んでおけ。それがお前からの告白を受けた今の、俺からお前への返事だ」
「…………」
是なのか、否なのか。
それとも、答えはただ先延ばしにされただけなのか。
それでもやはり、断られたような気はしない。
しかし。
呆気に取られている私を見る当麻は嬉しそうで、私は尚のこと、どんな顔を整えたらよいのかわからなくなる。
当麻が、私に手を差し伸べた。
思わず手を伸ばすと、すぐに掴まれ、身体ごと引き寄せられる。
バランスを崩し、当麻に倒れかかりそうになったそのとき。
当麻の手が私の顔に添えられて。
当麻の顔がやにわに近づき。
唇が、私のそれに、重なった。
次の瞬間、当麻は私を押し返して離し、それこそ脱兎のごとく走っていってしまった。
「当麻!今のは一体どういう意味だ!?」
追いかけて行くこともできず、当麻の背中に叫ぶ。
「それが答えのヒントだ!じゃあな」
「当麻、待ってくれ!」
当麻は右手を上に上げ、手を振って答える。
(六月九日……。私の誕生日、か。)
覚えていてくれたことも、嬉しい。
聞かせてもらう返事はきっと、よいものに違いない。
暖かいもので、心が満たされていくのを感じながら、当麻を見送った。
次に会う六月、私たちはきっと、恋人同士になる。
おわり
ちゃむさんの作品『告白』の裏番組(蛇足)です。
『告白』は こちら
そちらをお読みになった後で、
よろしければ、お楽しみください。
「伊達君、羽柴くんと仲良しよね」
「伊達君だったら知ってるでしょう?」
「羽柴くんって、彼女いるの?」
何人もの女に訊ねられた、同じ質問。
「当麻に彼女?……いないわけがなかろう?」
あれほど魅力的な男なのだ。
そう答えておけば、女どもは勝手に「是」と判断して引き下がっていく。
嘘はついていない。
私はただ、ありがちな予測を伝えているだけだ。
私は羽柴当麻に交際中の相手がいないことを知っている。
それは、この私がその当麻に恋情を寄せており、当麻の恋愛事情は情けないことに私の一番の関心事であり、かくして私がそのことについては一番の事情通になってしまっているからだ。
自分の想いは言い出せず、耳ばかりが敏感になり、当麻に寄ってくる女たちを欺いて。
伊達征士は、これまで私の知る限り、このような臆病で姑息な男ではなかった。
私に想いを告げた女たちは、その想いを相手に(私に)ぶつけてきた。
……では私は、一体何をしている?
いや、あの女たちとは事情が違う。
私と当麻は男同士。
命を張って戦った仲間同士で、惚れたの腫れたのなどと女々しい話ができるものか。
羽柴当麻は男の中の男。
何もかも見通しているに違いない、あの鋭い眼差し。
あの深く蒼い瞳に覗かれては、誰だって足がすくむというものだ。
臆病者と思うか。
誰だって怖いではないか。
友人として、仲間として共有してきた時間はかけがえがなく、もし私が想いを告げたことでその友情を失いでもしたらどうする?
取り返しがつかない。
聡い当麻のことだ。
私のこんな気持ちなどとっくに見抜いていて、その上で気付かぬふりをしていることすら有り得ることだ。
しかし。
このままでいいわけもない。
ここを出て私たちは、それぞれの故郷へと帰る。
当麻への、道ならぬこの想いを伝えられさえすれば、私はまた、真っ直ぐに前を向いて歩けるようになるのだろうか。
「当麻、別れる前に言いたいことがある」
まさに今、この小田原の家を発つとき。
想いが通じないとしても、せめて、胸を張って当麻の前に立てる男でありたい。
私はようやく、思い切ることにした。
「ずっと当麻のことが好きだった。言わずに秘めたままにしたほうがいいのかと悩んだが、気持ちがいつ溢れるかわからなかった」
当麻の瞳は、いつもの当麻らしい冷ややかさを保ったまま、私をじっと見つめている。
私の背中に一筋、汗が流れる。
「当麻に嫌われたくない一心で、今日までこらえていた」
当麻の眉間がわずかに寄せられる。
それはそうだ。
信じていた友人からの、しかも、同じ部屋で何食わぬ顔をして寝起きをしていた男からの恋の告白。
決して気持ちの良いものではないだろう。
「笑われてもいい、呆れ、気持ち悪がられても仕方ない。当麻が望むならば今後一切交流を絶っても構わない」
自分の放った言葉に打ちのめされる。
いたたまれなさで胸が詰まる。
私は、こんなにも当麻のことで心を動かされるのだ。
そのことを、今更のように噛み締める。
「だが、私の気持ちは変わらない。当麻が好きだ。言い逃げのようで……」
告げ終えたら、後ろを向いて背筋を伸ばし、男らしく去ろう。
そう決めた矢先、これまで押し黙っていた当麻が口を開いた。
「……ずるい」
「え?」
「お前はひどいやつだ」
早鐘のようだった鼓動が引いていくのがわかる。
やはり、当麻は怒っているのか。
「済まない、当麻。やはり迷惑だったな」
この場をどう切り抜けたらよいのか、皆目見当もつかない。
逃げ出したい。
あの戦いの最中でさえ、思いも寄らなかったそんな考えまで頭をもたげる。
「勝手なこと言うな」
「申し訳ない」
「謝るな!」
「すまな……」
「俺の返事がほしいか?」
………何と言った?
頭を上げ、いつの間にか地面を見つめていた顔を当麻に向ける。
「返事をくれるのか?」
返事とは?
しかも私が欲しがる返事を、当麻はくれるというのか。
「ほしいかって聞いてるんだ、質問を質問で返すなボケ!」
当麻の頬は少し赤らみ、視線の鋭さは消え、私を疎んじているのではないことがわかる。
静まりかけた心臓が、また鳴りだす。
「すまな……。いや、ほしい。当麻が、当麻の返事がほしい」
身の置き所がないとは正にこのことで、私は今、自分がどのような顔を晒しているのかも分からず、完全に浮き足立っている。
「じゃあ次の六月九日に返事してやる。それまで悶々と悩んでおけ。それがお前からの告白を受けた今の、俺からお前への返事だ」
「…………」
是なのか、否なのか。
それとも、答えはただ先延ばしにされただけなのか。
それでもやはり、断られたような気はしない。
しかし。
呆気に取られている私を見る当麻は嬉しそうで、私は尚のこと、どんな顔を整えたらよいのかわからなくなる。
当麻が、私に手を差し伸べた。
思わず手を伸ばすと、すぐに掴まれ、身体ごと引き寄せられる。
バランスを崩し、当麻に倒れかかりそうになったそのとき。
当麻の手が私の顔に添えられて。
当麻の顔がやにわに近づき。
唇が、私のそれに、重なった。
次の瞬間、当麻は私を押し返して離し、それこそ脱兎のごとく走っていってしまった。
「当麻!今のは一体どういう意味だ!?」
追いかけて行くこともできず、当麻の背中に叫ぶ。
「それが答えのヒントだ!じゃあな」
「当麻、待ってくれ!」
当麻は右手を上に上げ、手を振って答える。
(六月九日……。私の誕生日、か。)
覚えていてくれたことも、嬉しい。
聞かせてもらう返事はきっと、よいものに違いない。
暖かいもので、心が満たされていくのを感じながら、当麻を見送った。
次に会う六月、私たちはきっと、恋人同士になる。
おわり
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