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【102-11】伊達副操縦士と羽柴管制官 初めての夜

10月の原稿ぼちぼちやってますが、えっちなしシリアス風味なもので、ついついこちらの筆も進んでしまいました。

パイロットの夫と管制官の妻の、例のやつです。


**********



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いつものようにタクシーは、自宅マンションの前で止まった。

「ありがとうございました。では、明日は十四時で」

運転手と言葉を交わして降りると、三日月よりも細い月がかかっていた。
ここ何日かじめじめとした暑い日が続いていたが、今夜は海の方から吹く風が涼しく感じられる。

会社主催の大規模な宴会の帰り。
いつもより、かなり飲んでしまった。
それというのも……。
ため息をひとつついて、エントランスをくぐる。

エレベーターは音もなく八階で止まる。
人気のない通路を突き当たりまで歩き、鞄から鍵を取り出すと、鍵穴に差し込む。

「ただいま」

返事がない。
廊下とリビングを隔てるガラスの入った扉の向こうは明るい。
テレビ画面の中の、大勢の笑い声も聞こえてくる。

「ただいま」

そこにいるのだろう同居人に、もう一度声をかけながら扉を押し開ける。
今日は非番だと言っていた。
案の定、部屋着でソファに横たわり、寝息を立てている。
風呂にはもう入ったらしく、髪が艶やかに湿っているのが、さほど近づかなくてもわかった。

キッチンやテーブルに夕飯を食べたような形跡はない。
他所で食べてきたのか、それとも食べてはいないのか。

「当麻」

ネクタイを外しながら、名前を呼んでみる。
当麻は身じろぎひとつしない。

「当麻」

もう一度。
今度は耳元で、さっきよりも少し声を張って。
当麻はかすかに眉を寄せたが、またその鼻からは、気持ちのよさそうな寝息が聞こえてくる。

わかっている。
夜と思われる時間になってから寝ついてしまうと、当麻はもう、朝まで決して起きはしないのだ。
これはもう、小田原で他の仲間たちと共同生活をしていたころから、覆されたことのない決まりごとなのである。

当麻と想いが通じ、ともに暮らすことになってから、ひと月。
晴れて夫婦同然になったのだからと、肌を合わせようと挑戦した回数は、もはや両の手では数え切れない。
しかしそれは、ことごとく失敗に終わってきた。

二人合意で抱き合い唇を重ね、互いに肌をまさぐり合う。
胸の敏感なところや、興奮に持ち上がりつつある逸物を探れば、当麻は気持ちよさそうに私の名を吐く。
服を脱ぎ去り、さぁいよいよここからというところで。

当麻はいつも眠りについてしまうのだ。
心地よさが眠りに直結するらしい。

そして朝まで起きることはないのだ。

「当麻」

名を呼びながら、指先でトントンと軽く頰に触れる。
また、何の反応もない。

横隔膜のあたりから、モヤモヤとしたものが湧き上がってくる。

あの女。

『こちらでは、当麻がお世話になっているそうで』

「こちらでは」だと?
まるで当麻の身内であるかのような、あの言い草。

当麻が私と一緒になる前に、一年近く付き合っていた女。

「征士に比べたら、どんな女だって色褪せるよ」

当麻はそんなことを言っていたが、想像していたよりずっと美人で、賢そうな女だった。
あの女は当然、当麻に抱かれたことがあるのだ。

私とだと眠ってしまうのに。

私は当麻の着ているものを、腹からめくりあげた。

「…………××、よせよ……ぅ」

「…………‼︎」

よくは聞こえなかったが、よせ、の前は、あの女の名前だったのではないか。
否、確かにそうであった気がする。

カッと頭に血が上る。

あの女。

あの勝気な様子からすると、ただ抱かれるだけでなく、自ら積極的なタイプだったのではなかろうか。

今日の職場の宴会は、全国からクルーの代表が集まる懇親会だった。
私は福岡方面の知り合いに聞き込んで、当麻の付き合っていた女の名を調べ、懇親会の参加者名簿を丹念に見た。

女の名が、あった。

どんな女なのか興味があった。
未練でももって、当麻に寄り付いたりしないよう、できることならひと睨みしてやろうという魂胆も、少し、あった。

それなのに。
あの女は私に怯む様子もなく、いけしゃあしゃあと当麻のことを、私によろしくなどと……。

私は、さっき外したネクタイを取り上げた。

何やら幸せそうにむにゃむにゃと口を動かしながら、ソファの背に向いて完全に寝る体勢に入った当麻の両腕を背中に回し、両手首をネクタイで束ねて結わえる。
仰向けにひっくり返し、一息にズボンとトランクスを引き下ろす。

それでも起きないのだ。
この男は。

寝返りを打とうと片膝を立てたので、完全に脱力した当麻の逸物がペタリと反対方向に寄る。
それを手に取って、ゆるゆると握りこんでやる。
反応は、ない。

私は寝室へ行き、ベッドサイドからひと月前からありながら、未だ使われたことのないローションの瓶を持ってきた。

あの女とはできて、私とだと眠ってしまうというのは、私との方が気を許しているし、気持ちもいいのだろうと考えはするが、それにしたって腹立たしいのだ。

今日は、もう我慢しない。

ローションの瓶から右手に、透明でとろりとした液体を垂らす。
それを中指に、よくよく馴染ませた。

当麻の裸の左脚をソファから引きずり下ろせば、膝をたてた右脚と相まって、無防備に股間を晒す形になる。

傍らに膝をつき、陰部を覗き込む。
左手で油断しきった袋を持ち上げ、右手の中指の先を穴に当てる。
そして、無理やり一息に差し込んだ。

「ふぁ……っ」

声が上がり、身体がビクリと反応した。
それでも目を覚ます様子がないので、私は一旦指を引き抜いて、また丹念にローションをまぶしつけ、今度はゆるゆるとそこに差し入れた。

出し入れを繰り返して刺激を続けると、初めは収縮していたそこは、だんだんと柔らかく寛いでくる。
面白くなって、人差し指も添えた。

指をくねらせ中を掻き回すと、当麻の温かな内壁もヒクヒクと蠢く。
口からは単なる寝息ではない吐息が漏れ出してくる。

指で拡げたとしても、ペニスを挿れることは簡単ではないらしいが、これは行けるのではないかという気がしてくる。

このとき、新たな不安が頭をよぎった。

「ここで……男とやったことはないのだろうな」

「……あるわけないだろ」

不意に当麻の声がした。

「ちょ、何だよこれ。ほどけよ、アホタレ」

「断る」

まだ覚醒しきっていない今、勝負を掛けるしかない。
私の武者魂がそう命じた。



確かに少し、無体だったかとは思う。
当麻は翌日、仕事を休んだ。



「お前、あいつに会ったんだってな」

本懐を遂げた翌週。
朝食を取りながら、当麻が言った。

「あいつとは誰だ」

「俺の元カノですよ」

あの女の話か。
自然と眉間に力が入る。

あれ以来もう幾度か、当麻との愉しい夜を過ごすことができた。
わかったのだ。
要するに、寝ても諦めないこと。
どんなに眠りが深くても、私本体が入り込む頃には必ず目覚めるのだ。
それもまた、どうかしているとは思うが。

「なぜ知っている」

「羽田に出張したときに、たまたま会ったんだよ」

あの女が舌を出しているのが見える。
たまたまだなんて、わかったものではない。

「なんで言わないんだよ」

「別に、どうでもいいことだ。わざわざ話すことでもなかろうと思ってな」

嘘はついていない。
と、思う。

「あいつ、お前と俺のことに興味津々でな。今後も報告するようにってことだから」

「では私同伴にしてもらおう」

間髪入れずに、そう答えた。
たまったものではない。
二人きりでなんて、会わせられるものか。

「ええ〜」

当麻はそう言ったが、その顔は口ほど不満そうではなかった。

珈琲を飲み干し、食器を片付ける。
東の窓から射し込む朝日が眩しい。
さぁ、今日も楽しいフライトだ。





おわり
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