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【102-04】伊達副操縦士と羽柴管制官 その4

続きです。


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D-2

「征士お前、彼女はいないのかぁ?」

博多の中心街から少し離れた名物のラーメン屋。
食にはうるさい当麻の行きつけということで、流石に美味いと替え玉を食べていたところに、コップの水を頭からかけられたような気分になった。

あまりの不意打ちに驚きは言葉にならず、当麻を見ると、奴は訳を知ったような顔をして話題を変えた。
すぐに問いただす気にもならず、とにかくそのままラーメンは平らげた。

彼女はいないのかと平気な顔で訊ねる。
ということは、即ち私たちは恋人同士ではないということなのか。

確かに好き合っていると確認したわけではない。
しかし、ここしばらくの当麻の態度で、私は確信を深めていたのだ。
それなのに。

「急に来ては迷惑だったか?」

寮の玄関を入ってすぐ、私は当麻に聞いた。
三階建ての独身寮は、入るとすぐに食堂と管理人の部屋がある。

「いや? 別に」

変なことを言うのだなという顔で、当麻は返事をする。
当麻は管理人室を覗き、私の分の朝食と布団とを依頼して、二人で私室のある二階へと上がった。

「今日は片付いてるぜ」

「誰か来たのか」

「いや、たまたまだ。この部屋には征士しか上げたことがないな、そういえば。ゆっくりしていけるのか?」

前回この部屋に来た時は、約束して来たにもかかわらずあまりな散らかりようで、二人でまずは掃除をしたのだった。

「俺は明日、午後からだから、昼飯までは付き合える」

「ああ。昼食をとったら私も帰ることにする。昼過ぎの便なら空きもあるだろう」

こざっぱりと片付いた当麻の部屋で、ベッドに並んで腰掛ける。
私の他には誰も部屋にあげていないということが、付き合っている女性はいないということとイコールにはならんよな、などと考える。

当麻が寄越した冷たい缶ビールで、手の内を冷やすことで落ち着こうとするのだが、うまくはいかない。
当麻のおしゃべりに適当に言葉を返すが、自分でも何を言っているのかよくわからなかった。

「この部屋に泊まってもいいのか」

「そりゃ、いいに決まっている」

違う。
聞きたいのはそんなことではない。
自分らしくもなく煮え切らないことに苛々しながら隣を見れば、当麻が先に缶ビールを開けて、口をつけた。

当麻の唇。

こんなにも愛おしく、欲しいと思うのに。

「キスを……してもいいだろうか」

そう。
請うのは、いつも私。

「……Approved」

許可するのは、当麻。

当麻にとってこの行為は、何の意味があるのだろう。
一瞬ためらったが、こちらから願ったのだから、やめるのもおかしなことであろうと、私はいつものように当麻に口づけた。

こんな気持ちであっても、当麻の唇にこうやって触れるのは何とも言えない喜びだ。
薄く目を開いてみれば、当麻は長い睫毛を伏せて、やはり心地好さそうにしているように見える。
積極的に身を寄せてきているようにも感じる。
それなのに、私たちは恋人同士ではないのだろうか。

「俺、布団とってくるわ」

そんな考えに耽っていたら、不意に当麻は私の腕を抜けて、部屋を出て行ってしまった。

余韻の中、あらためて部屋を見回す。
独身寮だから、部屋に女を連れ込むわけにはいかないのだろう。
昔から持ち物の少ない男であったが、それは相変わらずで、女どころか自分の気配すら、部屋の中にはあまり感じられない。

直接聞くよりほかにないだろう。
私は探ることはやめ、自分らしく向き合ってみることにした。

フローリングの床に座を正し、目を閉じる。
ザワザワとする心を落ち着かせるように。
足音がしたかと思うとドアが開き、布団をひと抱え抱えた当麻が戻ってきた。

「当麻。話がある」

呼びかけた自分の声にまだ少し、乱れがあると感じる。
真っ直ぐに相手を見据え、もう一度息を吐き、整える。

「当麻。お前、付き合っている彼女がいるのか」

布団を下ろす間くらい与えればよかっただろうか。
当麻は突っ立ったまま、しばらくぽかんと呆けていた。

私は更に姿勢を正し、当麻をじっと見上げた。

「……いる」

当麻の返事は、真っ直ぐに私を突き刺して、通り過ぎていった。



つづく
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