たいいくのひ
since November 22th 2012
【114】成人の日
2019年、あけましておめでとうございます。
今年も盛り上がってまいりましょう。
4/28のSCC、夏コミ、10/14武装演舞
申し込む予定です。
よろしくお願いいたします!
本日は成人の日。
いつもの調子の緑青。
**********
まだ温まりきらないリビングのカーテンを開けると、どんよりとした空からチラチラと雪が舞い降りていた。
「寒い!」
耳馴染んだ同居人の声に征士が振り返れば、薄いスウェットの上下に素足の当麻が長身を縮こまらせながら、寝室から出てきた。
「その格好では当たり前だ」
征士の苦言はさらりと無視して、当麻は背を丸めたままテーブルの上のリモコンを取り上げて、テレビをつける。
今日は祝日。
ソファに腰を下ろすと、脚を抱えて丸まった。
「くそ。コタツがあればなぁ」
当麻は恨めしそうに、エアコンを見上げる。
「今、入れたところだからな。じき暖まる」
テレビのニュースには青空の下、晴れ着姿の若者がどこかの市民会館に集まっている様子が映し出されている。
「去年は天気が良かったのだな。今年は雪か」
「積もらないといいけどなぁ」
当麻は窓の外をちらりと見て、チラつく雪にひとつ身震いをすると、また首を縮める。
「成人式か」
征士は冷蔵庫から卵を二つ出してキッチンに置き、流しの下から取り出したフライパンをコンロにかける。
その表情は行動には不釣り合いに、やけに楽しげだ。
「あ。また思い出してるな。そろそろ忘れろ」
征士のニヤニヤとは反対に、当麻は口を尖らせる。
そんな当麻の様子に、征士は更にニヤ下がる。
「あれからもう、十年か」
征士は思い出す。
あの年も、仙台の成人式の日には粉雪が舞っていた。
退屈な式典の後、中学の同級生と旧交を温めながら会場を出たところに、いるはずのない人物が立っていたのだ。
「征士!」
正装した集団の中でジーンズの軽装の当麻は、頭に雪をくっつけて、白い息をハァハァと切らせていた。
「征士。俺……」
その前日。
当麻の一人暮らしのアパートを訪ねて、征士は告白したのだ。
数年来募らせてきた、当麻への思いを。
それが成人を迎える自分の、征士なりのけじめだった。
そして。
「知ってた」という思いも寄らぬ返答とともに、征士の想いは即座に断られたのだ。
『わかった。では私は、仙台に帰ることにしよう』
恋人としてあることを、もちろんその場で快諾されるとは思っていなかった。
しかし、自分の気持ちを初めて知るだろう当麻は、いくらか時をかけて考えてくれるのではないかと、そんなわずかな希望を征士はもっていたのだ。
失意とともに、征士はその日のうちに仙台へと戻った。
ただしそれは、成人式のために一時的に戻ったのであり、本当に仙台に居を移すのは、二年後、大学を卒業した後を考えていた。
「当麻、」
もしかしたら当麻は何か思い違いをしているのではないか。
そう考えて口を開いた征士の呼びかけを、当麻の必死の言葉が遮った。
「俺も、征士が好きだ。ずっと、……ずっと俺と一緒にいてほしい!」
征士も驚いたが、もっと驚いたのは私の友人達であっただろう。
もっともそのおかげで、下手な説明をする必要もなく私と当麻の関係はすぐ一族郎党に伝わり、征士は今、無事に二人暮らしのこの暖かな家にいられるわけである。
「忘れるわけがない。仙台の成人式会場まできて、大勢の前で大きな声で私にプロポーズしてくれたのだからな」
「あれは……だから、もう征士が戻ってこないのかと思って……て、何度言わせるんだ」
当麻はモゴモゴと、いつもの言い訳を呟きながら、目はテレビ画面の面白くもない地方ニュースを追っている。
耳が赤い。
「何度でも聞かせてくれ」
だいたい、プロポーズをしたつもりはないとかなんとか、当麻はまだブツブツ言っている。
「食べたら雪の中、散歩にでも出かけるか」
「うーん。ちょっと強くなってきたんじゃないか? 振袖のお姉さん、気の毒にな」
もしかすると、うっすらと積もるのかもしれない。
目玉焼きの黄身が、当麻の好みのいい頃合いになったので、征士はコンロの火を止めた。
おわり
今年も盛り上がってまいりましょう。
4/28のSCC、夏コミ、10/14武装演舞
申し込む予定です。
よろしくお願いいたします!
本日は成人の日。
いつもの調子の緑青。
**********
まだ温まりきらないリビングのカーテンを開けると、どんよりとした空からチラチラと雪が舞い降りていた。
「寒い!」
耳馴染んだ同居人の声に征士が振り返れば、薄いスウェットの上下に素足の当麻が長身を縮こまらせながら、寝室から出てきた。
「その格好では当たり前だ」
征士の苦言はさらりと無視して、当麻は背を丸めたままテーブルの上のリモコンを取り上げて、テレビをつける。
今日は祝日。
ソファに腰を下ろすと、脚を抱えて丸まった。
「くそ。コタツがあればなぁ」
当麻は恨めしそうに、エアコンを見上げる。
「今、入れたところだからな。じき暖まる」
テレビのニュースには青空の下、晴れ着姿の若者がどこかの市民会館に集まっている様子が映し出されている。
「去年は天気が良かったのだな。今年は雪か」
「積もらないといいけどなぁ」
当麻は窓の外をちらりと見て、チラつく雪にひとつ身震いをすると、また首を縮める。
「成人式か」
征士は冷蔵庫から卵を二つ出してキッチンに置き、流しの下から取り出したフライパンをコンロにかける。
その表情は行動には不釣り合いに、やけに楽しげだ。
「あ。また思い出してるな。そろそろ忘れろ」
征士のニヤニヤとは反対に、当麻は口を尖らせる。
そんな当麻の様子に、征士は更にニヤ下がる。
「あれからもう、十年か」
征士は思い出す。
あの年も、仙台の成人式の日には粉雪が舞っていた。
退屈な式典の後、中学の同級生と旧交を温めながら会場を出たところに、いるはずのない人物が立っていたのだ。
「征士!」
正装した集団の中でジーンズの軽装の当麻は、頭に雪をくっつけて、白い息をハァハァと切らせていた。
「征士。俺……」
その前日。
当麻の一人暮らしのアパートを訪ねて、征士は告白したのだ。
数年来募らせてきた、当麻への思いを。
それが成人を迎える自分の、征士なりのけじめだった。
そして。
「知ってた」という思いも寄らぬ返答とともに、征士の想いは即座に断られたのだ。
『わかった。では私は、仙台に帰ることにしよう』
恋人としてあることを、もちろんその場で快諾されるとは思っていなかった。
しかし、自分の気持ちを初めて知るだろう当麻は、いくらか時をかけて考えてくれるのではないかと、そんなわずかな希望を征士はもっていたのだ。
失意とともに、征士はその日のうちに仙台へと戻った。
ただしそれは、成人式のために一時的に戻ったのであり、本当に仙台に居を移すのは、二年後、大学を卒業した後を考えていた。
「当麻、」
もしかしたら当麻は何か思い違いをしているのではないか。
そう考えて口を開いた征士の呼びかけを、当麻の必死の言葉が遮った。
「俺も、征士が好きだ。ずっと、……ずっと俺と一緒にいてほしい!」
征士も驚いたが、もっと驚いたのは私の友人達であっただろう。
もっともそのおかげで、下手な説明をする必要もなく私と当麻の関係はすぐ一族郎党に伝わり、征士は今、無事に二人暮らしのこの暖かな家にいられるわけである。
「忘れるわけがない。仙台の成人式会場まできて、大勢の前で大きな声で私にプロポーズしてくれたのだからな」
「あれは……だから、もう征士が戻ってこないのかと思って……て、何度言わせるんだ」
当麻はモゴモゴと、いつもの言い訳を呟きながら、目はテレビ画面の面白くもない地方ニュースを追っている。
耳が赤い。
「何度でも聞かせてくれ」
だいたい、プロポーズをしたつもりはないとかなんとか、当麻はまだブツブツ言っている。
「食べたら雪の中、散歩にでも出かけるか」
「うーん。ちょっと強くなってきたんじゃないか? 振袖のお姉さん、気の毒にな」
もしかすると、うっすらと積もるのかもしれない。
目玉焼きの黄身が、当麻の好みのいい頃合いになったので、征士はコンロの火を止めた。
おわり
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