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【102-03】伊達副操縦士と羽柴管制官 その3

その1
その2



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T-2

「羽柴君と知り合いならなおのこと、いつでん遊びに来ればよか」

「はい。そうさせてもらいます」

「伊達さん、また明日」

伊達さんと別れて俺たちは、空港から地下鉄へと乗り込んだ。
空港から数駅の宿舎の最寄り駅に着くと、行きつけのラーメン屋に立ち寄る。
俺の気に入ってる長浜ラーメンの店で仕事の話なんかしながら、征士は替え玉一杯、俺は二杯食べて宿舎に戻った。

「急に来ては迷惑だったか?」

「いや? 別に」

寮のおばちゃんに征士の分の布団と明日の朝飯を頼んでから、部屋に征士を迎え入れる。

「ゆっくりして行けるのか? 俺は明日、午後からだから、昼飯までは付き合える」

「ああ。昼食をとったら私も帰ることにする。昼過ぎの便なら空きがあるだろう」

狭い独身寮の俺の部屋には、机と本棚にベッドがあるだけだ。
来客があれば自然、並んでベッドに座ることになる。
お茶なんて気の利いたものはないので、宿舎の前のコンビニで買ってきた缶ビールを手渡すと、征士は受け取ってすぐには開けず、しばらく手の中で転がしていた。

「席がなけりゃ、操縦して帰ればいいだろう」

「その制度、誰か本気で考えんものかな。フライトできてタダで帰れるのなら、願ったり叶ったりなのだが」

「お前、本当に仕事、好きな」

俺の冗談に征士が答える。
他愛もない話で、二人で笑う。
そこまでは、柳生邸で一緒に暮らしていた頃と変わらない。

「この部屋に泊まっていいのか」

「そりゃ、いいに決まっている」

おずおずとそんなことを言う征士に俺は笑って返しながらも、少しばかり緊張する。

「何だよ今更。もう何度も泊まっているじゃないか」

征士はそれには返事をくれず、また手の中にある未開封の缶ビールを弄んでいる。
俺は自分の分を一口飲んでみたが、どうしていいのかわからなくなって、せっかく冷たい征士のビールがあたためられていくのをしばらく眺めていた。
なんとか思いついた遼の仕事の話でもしようと口を開きかけたそのとき、征士も同時に口を開いた。

「キスを……してもいいだろうか」

……来た。

「……Approved(要求を許可する)」

俺は茶化して管制用語を使って答えてみたが、征士は素知らぬふりで俺の両肩に手を置き、端正な顔を近づけてくる。

こんなこと、あの部屋で一緒に寝起きしていたときには、一度だってしたことはなかった。
男同士でこういうの、どうなんだろう。
でも不思議とイヤではないから、俺は断らない。

征士の唇が、俺の唇に触れる。
俺からもそっと押し付けてみたりする。
もう三十も近いのに、まるで中学生みたいだな、と思う。

その先があるのかないのか。
この行為にどんな意味があるのか。
俺と征士って、何なんだろう。

そんなことを考えながらも、さっきまであった妙な緊張感は、あっという間にどこかへ飛び去る。
女とそういうことをするときの、突き上げられるような、頭がそれだけでいっぱいになるような余裕のない興奮はなくて、ただもうひたすらに居心地がいい。

ずっとこうしていたい。

征士から少し離れるような気配があったので、俺も離れて、キスが終わる。

「俺、布団とってくるわ」

征士が何か言い出す前に俺は部屋を出て、管理人室におばちゃんに頼んでおいた布団を取りに行った。

「羽柴さんの友達、ほんまのこつ、かっこよかねぇ」

ドッコイショと俺に布団を渡してくれたおばちゃんは、いつになく目がキラキラしている。

確かに格好いい男なのだ、征士は。
変な奴ではあるが、すれ違う女が振り返って見るような二枚目で、しかもパイロットだ。
そんな征士が休日を潰してせっせと俺のところなんかに来ているのだから、残念というかもったいないというか。
ラーメン屋で彼女はいないのかと聞いたら変な顔をしていたから、どうやらいないようなのだ。

俺が今付き合っている彼女は、三十路をいくらか超えた五つ歳上。
福岡に来てすぐに先輩に誘われた、管制官と客室乗務員の合コンで知り合った。
いわゆるスチュワーデスだ。

曰く、結婚する気はないのだという。
付き合う前に、すぐに結婚して子どもが欲しいなら余所を当たるようにと言われたのだから、ポーズではないらしい。
今まで付き合ってきた彼女たちは、中学生の頃から一貫して歳上なので、これはもう俺の性癖なのだろう。
「管制官」という人種に興味があって合コンに参加したという彼女が、俺も興味深く感じて、もう数ヶ月の付き合いになる。
二人ともいいオトナだから、それなりに身体の関係だってある。

俺はなぜかその彼女に、征士の話はしていない。
聞いたら、どんな風に思うのだろうか。
腐れ縁の男と、こんなところでキスをしているなんて。
それがまた、あんなにも心地いいだなんて。

そして征士にも、彼女の話はしていない。
だって、別に今まで聞かれなかったから。

「待たせたな」

布団を抱えて部屋に戻る。
征士は何か神妙な顔で、ベッドではなく、床に正座してまっすぐにこちらを向いていた。

「当麻、話がある」

格好いい男がそんなことをしていると、更にミョウチクリンだ。

「何だよ、藪から棒に」

「当麻お前、付き合っている彼女がいるのか」

心臓が跳ねた。
布団を置くこともできずに、俺はしばらく黙って突っ立っていた。
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