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カメラ

2018年12月。
悪奴弥守さんのお誕生日にTwitterにこの話のリンクを貼ったら、
うにたさんから素敵なイラストをいただきました\(≧∇≦)/\(≧∇≦)/

描いていただいたシーンのところに掲載させていただきます!
どうぞご覧くださ〜い!
やーん!かっこいい可愛い!


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**********

「そうだ。カメラを貸してくれ」

元闇魔将悪奴弥守こと佐々木九十郎は、遊覧船の浮かぶ川の土手の上を一緒に歩いていた羽柴当麻にそう言った。
いささか唐突な申し出だったので、当麻は九十郎の顔を見て、しばし黙る。

「カメラ、ではなかったか。紙に姿を写し取ることのできるアレは」

「いや、カメラで合っている。どうした?カメラなんて」

春も間近な土手の上は、遊歩道とちょっとした公園になっている。
桜の蕾も膨らんできた。
昼間はぽかぽかと暖かかったが、当麻が大学から帰ってくるのを待ったこの時間は、空気にまだ冬の名残を感じる。
あてもないブラブラ散歩。
当麻の両手は自然と上着のポケットに入る。

「迦遊羅がな。写してこいと言うのだ。なかなかこちらには来られないのでな」

目下のところ煩悩京は、迦遊羅の力によって人間界とのバランスを保っている。
迦遊羅が煩悩京を留守にして人間界に遊びに来るとなると、元魔将の三人が留守を守るのに随分と骨折りをしなくてはならない。
九十郎一人が呑気にやって来るのとは訳が違う。
その迦遊羅が、人間界の写真を見たがっているというのだ。

「どーぞ」

突っ込んだポケットから取り出した、紙のパッケージの安っぽいインスタントカメラを、当麻が投げて寄越す。
九十郎はそれを片手で受け止めて、その手触りを確かめるようにした後、カリカリとフィルムを巻き上げた。
レンズを当麻に向け、シャッターを切る。
ぱしゃり。
安っぽい音が辺りに響く。
それからまたカリカリとダイヤルを回し、レンズを当麻に向けた。

「俺ばかり撮って、どうするんだよ」

「特に天空殿を写してきてほしいとの、迦遊羅のご希望だ」

九十郎はにやりと笑う。

「俺を?」

当麻は人差し指で自分の鼻を指して、目を丸くする。

「天空殿は、他にいるまいよ」

またフィルムを巻き当麻に向けて構えようとするのを、当麻がカメラを掴んで止める。

「もうよせ」

「なぜだ」

そう尋ねながら九十郎は、カメラを持った手を頭の後ろに組んで、さも楽しげに当麻の先を歩く。
すれ違う子どもが無遠慮に、九十郎の頰にある深い十字の傷をしげしげと覗いていくが、一向に気に留める様子もない。

「どうして俺なんか」

当麻は自分を指した指で、ついでに鼻の頭を掻きながら、後に続く。

「そりゃあお前、迦遊羅は天空殿に懸想しているのだろう」

「懸想ねぇ……」

観光遊覧船が二人を追い越していく。
平日の夕方は、乗客もまばらだ。

「俺、迦遊羅にはコテンパンにやられた覚えしかないんだけどな……」

「天空殿は勇ましく気高かったと言っていたぞ。どこぞの山犬とは違うそうだ」

山犬が振り返り、天空殿が追いついて、また並んで歩く。

「迦遊羅がそんなことを言うのか」

当麻は目を丸くする。

「いや、山犬云々は、口では言わん。目がそう言っていただけだ。紙に写した姿くらい、見せてやればよかろう」

「そりゃまぁ……減るもんじゃないけど。しかし自惚れるようだが、そういうことなら余計な期待を持たせちゃ、それはそれで……」

「お優しいのだな、天空殿は。迦遊羅に惚れられるわけだ」

九十郎の口調は完全に当麻をからかっている。

「俺は!真面目に考えているんだぞ」

当麻が左頬を膨らます。
九十郎は目を細める。

「幼い夢だ。見せてやればいい。……二十歳の前の恋など、取るに足らん」

「俺だって、まだ二十歳前だ……よっと」

当麻が遊歩道の所々に設えてある車両止めに上り、普段より一メートル高い景色を五秒楽しんで下りる間に、九十郎は当麻の数歩先に出る。

「だから、取るに足らんと言っている」

「何だよ、年上ぶって」

当麻はまた、九十郎に追いつく。

「俺は、四百年前に生まれた男だからな」

九十郎は快活に笑う。

そんなことを言えば、迦遊羅だってまた数百年の時を渡っているのに、と当麻は茶々を入れたくなる。
すると、そんな彼女のまだ幼い恋が思いやられ、また、阿羅醐が消えた今もまだ友達に囲まれ恋を楽しむような、平凡な少女としての生活を送ることのできずにいる不憫にも思考は連なる。
当麻はため息をついて、考えるのをやめた。

「天空は、もう山犬が喰ったと言ってやればいいんじゃないのか」

「阿呆。あんな子どもに、そんなことが言えるか」

「そんな子どもと俺は、二つしか違わないんですケド」

「そんなことを言うなら、もう抱かん」

「え!?」



思わず九十郎を見て声を上げた当麻は、すぐに口を噤む。
傾いてきた日の光の鮮やかなオレンジ色に、顔の赤らんだのがごまかされればいいと願う。

「後はお前が撮ってやれ。天空殿が写したものなら、それもまた喜ぶだろう」

九十郎は愉快そうに笑って、当麻の手にカメラを返した。





おわり
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