たいいくのひ

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T-side

明日は仙台から征士が遊びに来る。
そう思うだけで、なんだか眠れない。
なぜだろう。
目を閉じても、明日のことが気になって仕方がない。
何を話そうか。
どこへ連れて行こうか。
背は伸びただろうか。
彼女はできたのか。
……なぁんて、あれこれ考えていたら朝になっていた。
仕方がないから、起きて部屋を掃除する。
あいつに文句を言わせないように。
久々にあの説教を聞くのもいいけどな。

昼過ぎに空港まで出迎えに行く。
観光に出かける前に、俺の部屋に荷物を置きに一度戻った。
征士が俺の部屋にいる。
それだけでなんだかほっとして、征士が鞄の中から土産を出しながら話す声も心地よく、俺はまぶたを閉じた。
昨日と同じ、単なる俺の部屋なのに。
征士がいるだけで、どうしてこんなに居心地がいいのだろう。
昨夜、眠れなかったのが嘘みたいだ。

はっと目を覚ますと夕方になってた。
不覚にも俺は征士の膝に枕で惰眠をむさぼってしまったようだ。
「悪い！せっかく大阪まで来てくれたのに……」
謝ると征士は笑いながら、
「お前の気持ちのよさそうな寝顔を久しぶりに見られた、よく寝ていたぞ」
と笑った。
ずっと膝枕してくれて足はしびれないかと心配したら、そんな柔な足ではないと一笑された。
立ち上がるときに一瞬ふらついたのを俺は見逃さなかったが、俺の責任なので言わずにおく。

晩飯を外で食い、征士は夜行バスで帰っていった。
一人で部屋に帰る。
明かりをつけると、テーブルの上のメモ帳が裏返しになっているのが気になった。
征士の土産の菓子にかぶりつきながら、何気なくメモ帳を表に返す。
変わらない独特な征士の字で、何か書かれている。

俺はその夜も眠れなかった。

S-side

明日は大阪にいる当麻に会いに行く。
そう思っただけで、なぜだか眠れない。
おかしなことだ。
目を閉じ、明日一年ぶりに会う当麻のことを想像する。
背は更に伸びているのだろう。
交際する相手など、もういるのかもしれない。
そこまで考えたら何とも言い難い苦しい心持ちになって、余計に眠れなくなった。

あちらの空港まで当麻が迎えに来てくれ、それから家へと招かれた。
私は小さなテーブルに土産を広げながら、昨晩から続く妙な心持ちをごまかそうと、当麻に自分の近況を話し続けた。
聞こえていた相槌がなくなったので振り返ると、一方的に私の話を聞かされていた当麻は、ソファで気持ちよさそうに眠っていた。
仕方なく隣に腰を下ろす。
しばらくすると、眠ってしまった当麻の頭が私の膝の上に崩れてきた。
当麻の頭の重み。
柔らかな髪。
そっと触れると、当麻の唇が軽く笑みの形になり、もぞもぞと頭が動き、小さく息をつき、また眠りの淵へと滑り落ちていったようだ。
ざわざわとしていた妙な気持ちが、形を変えて落ち着いた温かいものへと変わる。
私も心地よく眠くなってきた。
そのまましばし、目を閉じた。

どのくらいの時間が経ったのだろう。
気がつくと窓から入る日は、もう夕方のものだった。
程なく当麻も目を開く。
当麻は眠ってしまっていた自分に驚いてから、時間を無駄にしたと詫び、長く頭を預けていた私の足の心配をした。
「そんな柔な足ではない」
と言って立ち上がって見せたが、少々ふらついたのを見られてしまっただろうか。

食事に出ようと当麻が身支度をする間、テーブルの上にメモ帳と鉛筆があるのが目に入った。
少し考えてから、私はそこに一言書き留めた。
メモ帳を裏に返し、元のところへ戻す。
それから二人で外へ串カツを食べに出かけた。
当麻は実によく食べ、そして、当麻の家に着いた時の私のように、妙によく喋った。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、当麻に見送られて私は帰りの夜行バスに乗り込んだ。
バスのステップの上から、昼間触れた当麻の髪に、もう一度触れる。
当麻は驚いた顔をして私を見上げた。

東へと走り出したバスの中。
部屋に戻った当麻はメモを見つけて、どんな顔をするのだろう。
想像しながら、目を閉じた。



おわり