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【104】ベツレヘムの星

昨年のクリスマスにアップした作品に、イラストを描いていただきました\(≧∇≦)/
嬉しすぎるので、過去作ですがageさせていただきます〜!


by 大伴咲子さま
(PCでご覧の方は、クリックすると大きく表示されます)

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二人暮らしの十二月も、今年で五回目。
2DKのコンパクトな二人のマンションに、あまり物を増やさないようにしていたのは、征士は元から物をたくさん持たない性分であったからだし、当麻は征士とともに暮らすという幸運が、いつまでも続くと期待するのが怖かったからだ。

それでも五年の実績は、征士の物を少しずつ増やし、当麻に安心と、わずかばかりの自信をもたらした。
その冬初めて長いコートを羽織って二人で出かけた買い物で、征士がふと立ち止まった。
視線の先には背丈の半分ほどのクリスマスツリー。
それを見て、当麻が言った。

「買って帰るか?」

背丈の半分といっても枝振りの良い、本物ではないけれどかなり本格的なモミの木で、上手く片付けたとしても二人暮らしのマンションの限られた収納スペースには相当なお荷物になるという危惧が、征士の頭をかすめる。
それでも当麻が、きっと今年だけでなく来年も再来年も、それを二人の部屋に飾るということを考えたことが嬉しくて。
その気持ちを今逃してしまうことに比べたら、収納問題など取るに足らないことのように征士には思えたのだ。

「もう一回りして、それでも欲しかったら」

と、勿体ぶってはみたものの、心は既に購入を決めていた。
飾りはシンプルなものを少しだけ。
毎年増やしていく楽しみは胸を温かくする。



配送も頼めたのだが、大きさの割には軽かったこともあり、大きな箱を電車に乗せて帰る。
夕方になる手前の電車は、さほど混み合ってはいなかった。

「だいたい伊達家の長男が、クリスマスなんて祝っていいのか?」

最後尾の車両の隅にツリーの入った箱を立てて置き、そこに肘をついた当麻が、隣に立っている征士を上目遣いに見る。

「情勢に合わせてキリスト教も仏教も、適切に使い分けるのが伊達の血だ」

征士が胸を張って見せたので、当麻は笑った。

「違いないな」

「お前こそ、キリスト教の祭りなどに興味はなさそうだが」

クリスマスに彩られた街が車窓を流れていく。
高いビルが続く景色が、次第に住宅や小さな公園や商店街に変わってくる。

「もともとは一年の終わりに全てに感謝して、新しい年を迎える行事だ。クリスマスも、除夜の鐘も初詣も、そう考えればどんな宗教のアレンジであっても、悪くはないさ」

最寄り駅が近づき、電車は速度を落とす。
当麻がツリーの入った箱をひょい、と持ち上げる。

「なるほど、お前らしいな」

ドアが開き、乾いた北風と入れ替わりに、二人はホームに降りた。



ツリーは二人の部屋の、ささやかなリビングの隅に堂々たる存在感を持って据えられた。
簡単なパスタとデパ地下で買ってきた酒の肴、まだ少し気の早いクリスマス用のワインの夕食を済ませ、組み立てたツリーに征士が飾りをつけている。

「どうしてツリーの一番上には星をつけるのだ?」

天文や気象のことについては、とりあえずまず当麻に尋ねることにしている征士だ。
ツリーの星も星の一種であると考えたのだろう。

征士が金色に輝く大きな星のオーナメントを丁寧に取り付けているのを、ソファの上で膝を抱えて見ていた当麻は、

「ベツレヘムの星か」

と言って、あぐらに座り直した。

「そんな名前があるのか」

何度かつけ直し、やっと征士の思い通りのポジションにベツレヘムの星が落ち着いた。

「キリスト誕生の場所に三人の賢者を導いたっていう星だ。聞いたことくらいあるだろう。実在したのか、実在したならそれが何だったのかは諸説あるんだ」

「ほう」

当麻の蘊蓄を背中で聞きながら、征士は深いブルーの丸い飾りを一つずつ、注意深く場所を吟味しながらかけていく。
飾りはシンプルに、色味は抑えようと言ったのは当麻。
一色選ぶなら青がいい。
そう言って飾りを選んだのは、征士だ。
選ばれた青いオーナメントを見て当麻は何か言いたい気もしたが、後から考えればそんな征士の行動は当然想像すべきであったし、今更言ったところで覆りはしないだろうと諦めて、「お前なぁ」と呟くだけにしたのだった。

「超新星とか、彗星とか、惑星の接近とかな」

そうだ、と言って当麻は、ソファの前に置かれた小さなテーブルの上のノートパソコンを開いた。
カタカタカタとリズミカルに長い指でキーボードを叩いていく。

「ほら、見てみろよ」

青い飾りを十個、すべてつけ終えた征士が、呼ばれるまま当麻の隣に座った。
覗けばモニターには満天の星空が映し出されている。

「これは?」

「キリストさんが生まれた頃の、エルサレムの空」

「そんなものがわかるのか」

「歴史的な大接近だからな。木星と土星。わかるだろう?」

「これだな」

征士はモニターに並んで映る大きな二つの星を指でさす。

「そう。ピッタリとくっついてるように見えるが、実際の空では太陽二つ分くらいは離れて見えている。確かに目立ちはするが、ベツレヘムの星に認定するには、ちょっと弱い」

「なるほど」

征士は相槌をうちながら、当麻の肩を抱き寄せる。

「あまり近づき過ぎて、ぶつかってしまっては困るのではないか?」

当麻は寄せられるままに征士の肩に頭を乗せると、征士の頭の後ろにくるりと手を回し、一瞬唇を合わせてから、またその肩にすとんと落ち着いた。

「ばぁか。近いって言ったって重なって見えるだけで、実際はうーーんと遠いんだぞ」

あぐらを解くと、脚を上げてパソコンをパタンと閉じる。

行儀が悪い、という征士のいつもの小言が今夜は聞こえてこないのは、クリスマスツリーの効能なのか。

「最新の説は超新星だけどなぁ。今の技術じゃ、確認はできないんだ」

「無理にはっきりさせなくてもいいのではないか」

「征士さんはロマンチストですからねぇ」

当麻が茶化すと、征士が肩に乗った当麻の頭に、コツンと自分の頭を当てる。

二人で一緒にツリーの上に輝く星を眺める、幸せ。

「来年は緑の飾りを買おう」

「緑はなかったではないか」

「探そうぜ、来年」

そうだな、と征士は呟いて、そっと目を閉じた。





おわり
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