たいいくのひ
since November 22th 2012
【094】なぐさめ
お誕生日おめでとうございます\(≧∇≦)/
にしては、ちょっぴり薄暗い話ですが。
緑青です。
*******
階段を上がって廊下を曲がり、吹き抜けから階下を見下ろす。
いつも夜半近くまで誰かしらがテレビを見たり、オセロや将棋の類に興じたりしている柳生邸の居間には、今夜は珍しくもう誰の姿もなかった。
とは言っても、そこからは見えない食堂の方にはまだナスティと伸が明日の食事の下ごしらえでもしているのか、時折落ち着いた笑い声が漏れ聞こえてくる。
あとの二人と一頭は、自分の部屋で寛いでいるのだろう。
征士は自室のドアノブに手をかけた。
夕飯の後、居間に居つかずに、征士と一緒に寝起きするこの部屋に戻ったらしい当麻は、一人で本でも読んでいるのだろうか。
それとも、もう眠っているのだろうか。
ドアを開けようと手に力を込めたそのとき、征士はふと中から漂う異質な気を感じた。
阿羅醐との戦いの最中から異様に鋭くなった聴覚が何かをとらえる。
「………ん………っ」
ため息に混ざるように聞こえてるくる声は、当麻のもの。
音を立てないようにそっと戸を引いて、ほんの僅かな隙間を作る。
薄暗がりの中にぼんやりと当麻がいるのがわかった。
当麻はベッドに腰掛けて、項垂れているように見える。
征士は眉間にしわを寄せ、じっと目を凝らした。
「ん……ぁ……」
普段なら、そして昼間ならおそらく聞こえはこない、小さな小さな音吐。
そのまま気配を探っているうちに、征士の目は室内の暗がりに目が慣れてきた。
当麻の腹の辺りで何かが蠢いているのに気づく。
征士には、すぐにわかった。
そう。
当麻は、自慰をしているのだ。
しかも、征士のベッドで。
覗くべきではないという良識と、滅多にないこんな見ものは見逃すべきではないという野次馬心が、その正当を主張して瞬間、拮抗する。
しかし心の奥底から顔を出した、そのどちらでもない何かに後押しされて、後者が勝った。
切なげに伏せられた睫毛の奥には誰が見えているのか。
征士の胸の隅がチリリとする。
それをごまかすように悪戯心が湧き上がる。
いいタイミングで声をかけてやろう。
わずかに身をよじりながら、当麻の右手の動きが次第に速くなる。
息が弾み、開かれた唇から吐息が漏れ出す。
「ん………っ ぁ、せ……ぃじ……っ」
「⁉︎」
征士がわずかに開けていた扉を一息に開くのと、当麻の口から征士の名が零れ出したのは、ほぼ同時だった。
征士はひらりと部屋に滑り込み、後手で静かにドアを閉める。
薄暗がりの中、二人ともが驚きに目を丸くしてお互いを見つめた。
「……何だと?」
「……⁉︎」
慌てたのは当麻だ。
物凄い勢いで右手に握っていた自分のものをトランクスに押し込み、ジーンズのファスナーを挙げようと手をかけた。
その途端。
「いっ……てぇ!!」
「当麻!」
征士が駆け寄る。
相当な痛さだったのか、当麻は身体をくの字に曲げて肩を震わせた。
「挟んだのか」
当麻はまだ身体を二つに折りたたんだまま、顔だけをかろうじて上げ、うっすらと涙の滲んだ目で征士を睨む。
「どアホ……。いきなり入ってくるな」
「いきなりではない。……ずっと見ていた」
思いもよらぬ征士の返答に、当麻は羞恥で言葉をなくす。
「怪我はないのか。見せてみろ」
征士の手が当麻のジーンズの上げかけたファスナーにかかる。
「うわっ。お前アホか! 触るな!」
その手を阻止するべく蹴り上げようとした当麻の右脚は、征士の左膝に乗られてあえなく制圧される。
「すまなかった。私のせいで、いいところで中断したのだろう。……手伝おう」
「はぁ!?」
当麻の右腕は征士の左手に抑え込まれ、左腕は自身の身体の下敷きとなり、そのままベッドに縫い付けられる。
押し倒された形で呆気にとられた当麻が見上げると、征士の表情は影になりよくわからない。
征士の右手は当麻のトランクスのゴムを掴んでひきおろし、勢いをなくしかけたものを掴んだ。
「征士?何をしているんだ!?」
「お前こそ、何をしていた」
「何って……。わかってるんだろう。ナニしてたんだよ。文句あるのか」
「私のベッドで、私の名を呟きながらな」
開き直って突っぱねようとした当麻の頬が、征士のその一言で赤くなったのが、月明かりの助けで征士には十分に見てとれた。
手の中の当麻が、じわりと質量を増す。
聞き間違いではなかったのだと、征士は確信する。
「文句を言うつもりはない。しかし」
「しか、し……何だ」
「どういうつもりかは、聞く権利があるのではないか?」
当麻が視線を逸らすと、征士にとられた腕にまた抗う力が込められる。ちょうど同じだけの力で、征士はそれを押し留める。
せめぎ合いながら征士は、横を向いて歯を食い縛っている当麻の口許に唇を寄せる。
唇と唇が触れ合うと、征士は手の中のものも静かに擦り上げる。
当麻の顎が微かに上がり、右腕からは力が抜けた。
「どういうつもりかだと?……知るもんか」
抵抗を諦めた当麻は、その顔を征士の方に向けると、初めての口づけと、初めて他人に触れられるペニスへの刺激を甘んじて受け始めた。
自分はこんなことをする人間だったのかと、征士は自らに失望と痛快を感じていた。
頭に血が上るままに、当麻の後ろめたさにつけ込んで自由を奪い、当麻に口づけなぞし、あまつさえ性器を弄んでいる。
初めての他人との濃厚な接触に心が満たされるとともに、身体の奥からさらなる渇望が湧いてくる。
自分はこんなことがしたかったのだと妙に得心が行き、征士はようやく当麻を解放した。
当麻の瞳も興奮に濡れて見える。
黙ったまま自分を見上げている当麻の視線に、背中をぞくりと上がっていく何かを、征士は感じた。
「この先も、試してみるか」
征士の口からほころび出た言葉に、当麻は目を大きく開いた。
男同士は尻でセックスをするのらしい。
そんな話をつい何日か前に、眠れない夜の戯れに話したことを思い出す。
あの時は確かに、自分には関係のない世界の話だったはずなのに。
もしかするとあの時も自分は、征士とそうすることを望んでいたのだろうか。
そうかもしれない。
だから自ら果てようとする刹那に、征士の顔なんて思い浮かんだのかもしれない。
「かまわない。お前がそうしたいのなら」
気がつくと当麻はそう答えていた。
伸が自室に戻ったのだろう。
隣の部屋のドアが開き、閉まる音が聞こえる。
征士はまた夢中で、当麻の唇に自分の唇を押し付けた。
おわり
にしては、ちょっぴり薄暗い話ですが。
緑青です。
*******
階段を上がって廊下を曲がり、吹き抜けから階下を見下ろす。
いつも夜半近くまで誰かしらがテレビを見たり、オセロや将棋の類に興じたりしている柳生邸の居間には、今夜は珍しくもう誰の姿もなかった。
とは言っても、そこからは見えない食堂の方にはまだナスティと伸が明日の食事の下ごしらえでもしているのか、時折落ち着いた笑い声が漏れ聞こえてくる。
あとの二人と一頭は、自分の部屋で寛いでいるのだろう。
征士は自室のドアノブに手をかけた。
夕飯の後、居間に居つかずに、征士と一緒に寝起きするこの部屋に戻ったらしい当麻は、一人で本でも読んでいるのだろうか。
それとも、もう眠っているのだろうか。
ドアを開けようと手に力を込めたそのとき、征士はふと中から漂う異質な気を感じた。
阿羅醐との戦いの最中から異様に鋭くなった聴覚が何かをとらえる。
「………ん………っ」
ため息に混ざるように聞こえてるくる声は、当麻のもの。
音を立てないようにそっと戸を引いて、ほんの僅かな隙間を作る。
薄暗がりの中にぼんやりと当麻がいるのがわかった。
当麻はベッドに腰掛けて、項垂れているように見える。
征士は眉間にしわを寄せ、じっと目を凝らした。
「ん……ぁ……」
普段なら、そして昼間ならおそらく聞こえはこない、小さな小さな音吐。
そのまま気配を探っているうちに、征士の目は室内の暗がりに目が慣れてきた。
当麻の腹の辺りで何かが蠢いているのに気づく。
征士には、すぐにわかった。
そう。
当麻は、自慰をしているのだ。
しかも、征士のベッドで。
覗くべきではないという良識と、滅多にないこんな見ものは見逃すべきではないという野次馬心が、その正当を主張して瞬間、拮抗する。
しかし心の奥底から顔を出した、そのどちらでもない何かに後押しされて、後者が勝った。
切なげに伏せられた睫毛の奥には誰が見えているのか。
征士の胸の隅がチリリとする。
それをごまかすように悪戯心が湧き上がる。
いいタイミングで声をかけてやろう。
わずかに身をよじりながら、当麻の右手の動きが次第に速くなる。
息が弾み、開かれた唇から吐息が漏れ出す。
「ん………っ ぁ、せ……ぃじ……っ」
「⁉︎」
征士がわずかに開けていた扉を一息に開くのと、当麻の口から征士の名が零れ出したのは、ほぼ同時だった。
征士はひらりと部屋に滑り込み、後手で静かにドアを閉める。
薄暗がりの中、二人ともが驚きに目を丸くしてお互いを見つめた。
「……何だと?」
「……⁉︎」
慌てたのは当麻だ。
物凄い勢いで右手に握っていた自分のものをトランクスに押し込み、ジーンズのファスナーを挙げようと手をかけた。
その途端。
「いっ……てぇ!!」
「当麻!」
征士が駆け寄る。
相当な痛さだったのか、当麻は身体をくの字に曲げて肩を震わせた。
「挟んだのか」
当麻はまだ身体を二つに折りたたんだまま、顔だけをかろうじて上げ、うっすらと涙の滲んだ目で征士を睨む。
「どアホ……。いきなり入ってくるな」
「いきなりではない。……ずっと見ていた」
思いもよらぬ征士の返答に、当麻は羞恥で言葉をなくす。
「怪我はないのか。見せてみろ」
征士の手が当麻のジーンズの上げかけたファスナーにかかる。
「うわっ。お前アホか! 触るな!」
その手を阻止するべく蹴り上げようとした当麻の右脚は、征士の左膝に乗られてあえなく制圧される。
「すまなかった。私のせいで、いいところで中断したのだろう。……手伝おう」
「はぁ!?」
当麻の右腕は征士の左手に抑え込まれ、左腕は自身の身体の下敷きとなり、そのままベッドに縫い付けられる。
押し倒された形で呆気にとられた当麻が見上げると、征士の表情は影になりよくわからない。
征士の右手は当麻のトランクスのゴムを掴んでひきおろし、勢いをなくしかけたものを掴んだ。
「征士?何をしているんだ!?」
「お前こそ、何をしていた」
「何って……。わかってるんだろう。ナニしてたんだよ。文句あるのか」
「私のベッドで、私の名を呟きながらな」
開き直って突っぱねようとした当麻の頬が、征士のその一言で赤くなったのが、月明かりの助けで征士には十分に見てとれた。
手の中の当麻が、じわりと質量を増す。
聞き間違いではなかったのだと、征士は確信する。
「文句を言うつもりはない。しかし」
「しか、し……何だ」
「どういうつもりかは、聞く権利があるのではないか?」
当麻が視線を逸らすと、征士にとられた腕にまた抗う力が込められる。ちょうど同じだけの力で、征士はそれを押し留める。
せめぎ合いながら征士は、横を向いて歯を食い縛っている当麻の口許に唇を寄せる。
唇と唇が触れ合うと、征士は手の中のものも静かに擦り上げる。
当麻の顎が微かに上がり、右腕からは力が抜けた。
「どういうつもりかだと?……知るもんか」
抵抗を諦めた当麻は、その顔を征士の方に向けると、初めての口づけと、初めて他人に触れられるペニスへの刺激を甘んじて受け始めた。
自分はこんなことをする人間だったのかと、征士は自らに失望と痛快を感じていた。
頭に血が上るままに、当麻の後ろめたさにつけ込んで自由を奪い、当麻に口づけなぞし、あまつさえ性器を弄んでいる。
初めての他人との濃厚な接触に心が満たされるとともに、身体の奥からさらなる渇望が湧いてくる。
自分はこんなことがしたかったのだと妙に得心が行き、征士はようやく当麻を解放した。
当麻の瞳も興奮に濡れて見える。
黙ったまま自分を見上げている当麻の視線に、背中をぞくりと上がっていく何かを、征士は感じた。
「この先も、試してみるか」
征士の口からほころび出た言葉に、当麻は目を大きく開いた。
男同士は尻でセックスをするのらしい。
そんな話をつい何日か前に、眠れない夜の戯れに話したことを思い出す。
あの時は確かに、自分には関係のない世界の話だったはずなのに。
もしかするとあの時も自分は、征士とそうすることを望んでいたのだろうか。
そうかもしれない。
だから自ら果てようとする刹那に、征士の顔なんて思い浮かんだのかもしれない。
「かまわない。お前がそうしたいのなら」
気がつくと当麻はそう答えていた。
伸が自室に戻ったのだろう。
隣の部屋のドアが開き、閉まる音が聞こえる。
征士はまた夢中で、当麻の唇に自分の唇を押し付けた。
おわり
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