たいいくのひ
since November 22th 2012
【085】栗
TwitterのTLに美味しそうな手作りの栗の渋皮煮の画像が\(≧∇≦)/
そして水色兄さんが作った渋皮煮を美味しそうに食べる青と、何気に嫉妬してしまう緑さん妄想が!
ちゃっかりお借りして、短いお話に。
緑青です。
**************
ピンポーン。
とある日曜日のお昼前。
アパートの安っぽい呼び出し音が鳴ると、床に寝転がって新聞を読んでいた当麻がパッと顔を上げる。
「来た!」
二人用の小さな食卓テーブルでガス料金と水道料金の通知の用紙をノートに貼り付けていた征士は、当麻の弾んだ声と、そう言えばここ数日見なかった気がする当麻のハツラツとした笑顔に小さくため息をつく。
チャイムが鳴った時、ダイニング兼玄関が一緒になったこの部屋の玄関ドアまで足を運ぶのは、いつも征士の役目だ。
それは動くのが億劫だからというより、その多くが好みではない新聞の購読や、ドアまで配達してくれるという健康飲料や、宗教の勧誘だったりする来訪者の応対が、当麻の苦手とするところだからだということも、征士はよくわかっていた。
自分だって得意なわけではないがと思いつつもいつの間にか、玄関の応対は征士の役目ということになってしまっている。
しかし今日の当麻は違う。
声をあげた次の瞬間にはさっさと立ち上がり、いそいそと小走りまでしてドアを開けに行く。
もし当麻に犬の尻尾がついていたら、ものすごい勢いでブンブン振られているのだろう。
そんなことを思いながら、征士はその後ろ姿にもう一度、軽くため息をついた。
「こんにちはー」
当麻が嬉々として開けたドアから顔を出したのは伸だ。
「よく来たな!」
自分を迎え出た当麻の満面の笑み。
その向こうでテーブルについて立ち上がりもしない征士の無表情を瞬時に見比べて、伸はさっそく笑いをこらえている。
歓迎されていないわけではないのはわかっている。
長い付き合いなのだ。
「ほら、これ」
「やった!伸の栗ご飯と渋皮煮!」
当麻はこの上なく嬉しそうな声で、風呂敷に包まれた重箱と、タッパーの入った紙袋を伸から受け取って振り返る。
「早くテーブルの上、片付けろよ。征士」
伸は小さなタタキで靴の紐をほどきながら、想像していた通りに渋面化していく征士の顔を苦笑いで眺める。
(あーあ、ほら。「伸の」なんて言うから……)
当麻がねだるから栗ご飯を作ってやるのだと言って、征士が伸に電話でレシピを聞いてきたのは、つい先週のこと。
有言実行の征士のことだ。
おそらくすぐに作って食べさせたに違いないのに。
それを知っていて作って持参する自分も意地が悪いかと、内心で舌を出す伸である。
(ごめんよ、征士。でも栗の時期は短いからね)
当麻は、おそらく何も気づいてはいないのだろう。
渋皮煮のタッパーを開けて、さっそく一つつまみ、口に入れている。
「ちょっと待ちなよ、当麻。今、軽く汁物でも作るからさ。征士、冷蔵庫、覗かせてもらうよ」
「ああ、頼む」
渋皮煮を頬張りながら、シロップのついた指先も舐める恋人の幸せそうな顔を横目で見上げ、呆れながらも征士の眉間の縦皺が少し緩んでいる。
それを確認してから、伸は冷蔵庫を開ける。
勝手知ったる親友の家。
伸はダシと調味料、使いかけで几帳面にラップに包まれた野菜をいくつか手早く取り出す。
征士が立ち上がり、伸を手伝おうとシャツの袖を捲る。
同時に当麻は椅子に座り込み、また一つ渋皮煮をつまむ。
小さな窓から見える高い空。
うろこ雲。
毎年恒例の秋のひとコマ。
おわり
そして水色兄さんが作った渋皮煮を美味しそうに食べる青と、何気に嫉妬してしまう緑さん妄想が!
ちゃっかりお借りして、短いお話に。
緑青です。
**************
ピンポーン。
とある日曜日のお昼前。
アパートの安っぽい呼び出し音が鳴ると、床に寝転がって新聞を読んでいた当麻がパッと顔を上げる。
「来た!」
二人用の小さな食卓テーブルでガス料金と水道料金の通知の用紙をノートに貼り付けていた征士は、当麻の弾んだ声と、そう言えばここ数日見なかった気がする当麻のハツラツとした笑顔に小さくため息をつく。
チャイムが鳴った時、ダイニング兼玄関が一緒になったこの部屋の玄関ドアまで足を運ぶのは、いつも征士の役目だ。
それは動くのが億劫だからというより、その多くが好みではない新聞の購読や、ドアまで配達してくれるという健康飲料や、宗教の勧誘だったりする来訪者の応対が、当麻の苦手とするところだからだということも、征士はよくわかっていた。
自分だって得意なわけではないがと思いつつもいつの間にか、玄関の応対は征士の役目ということになってしまっている。
しかし今日の当麻は違う。
声をあげた次の瞬間にはさっさと立ち上がり、いそいそと小走りまでしてドアを開けに行く。
もし当麻に犬の尻尾がついていたら、ものすごい勢いでブンブン振られているのだろう。
そんなことを思いながら、征士はその後ろ姿にもう一度、軽くため息をついた。
「こんにちはー」
当麻が嬉々として開けたドアから顔を出したのは伸だ。
「よく来たな!」
自分を迎え出た当麻の満面の笑み。
その向こうでテーブルについて立ち上がりもしない征士の無表情を瞬時に見比べて、伸はさっそく笑いをこらえている。
歓迎されていないわけではないのはわかっている。
長い付き合いなのだ。
「ほら、これ」
「やった!伸の栗ご飯と渋皮煮!」
当麻はこの上なく嬉しそうな声で、風呂敷に包まれた重箱と、タッパーの入った紙袋を伸から受け取って振り返る。
「早くテーブルの上、片付けろよ。征士」
伸は小さなタタキで靴の紐をほどきながら、想像していた通りに渋面化していく征士の顔を苦笑いで眺める。
(あーあ、ほら。「伸の」なんて言うから……)
当麻がねだるから栗ご飯を作ってやるのだと言って、征士が伸に電話でレシピを聞いてきたのは、つい先週のこと。
有言実行の征士のことだ。
おそらくすぐに作って食べさせたに違いないのに。
それを知っていて作って持参する自分も意地が悪いかと、内心で舌を出す伸である。
(ごめんよ、征士。でも栗の時期は短いからね)
当麻は、おそらく何も気づいてはいないのだろう。
渋皮煮のタッパーを開けて、さっそく一つつまみ、口に入れている。
「ちょっと待ちなよ、当麻。今、軽く汁物でも作るからさ。征士、冷蔵庫、覗かせてもらうよ」
「ああ、頼む」
渋皮煮を頬張りながら、シロップのついた指先も舐める恋人の幸せそうな顔を横目で見上げ、呆れながらも征士の眉間の縦皺が少し緩んでいる。
それを確認してから、伸は冷蔵庫を開ける。
勝手知ったる親友の家。
伸はダシと調味料、使いかけで几帳面にラップに包まれた野菜をいくつか手早く取り出す。
征士が立ち上がり、伸を手伝おうとシャツの袖を捲る。
同時に当麻は椅子に座り込み、また一つ渋皮煮をつまむ。
小さな窓から見える高い空。
うろこ雲。
毎年恒例の秋のひとコマ。
おわり
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