たいいくのひ
since November 22th 2012
【083】再会
【R18】激しく閲覧注意!!
征士さん以外のお方といたしてます。
しかも阿羅醐戦の前に。
すまぬ。
一応、緑青前提な……はずなんです……orz
**********
夕陽へと変わる少し前の日の光が雑木林の枝々を抜け、落ち葉に埋もれた小道まで落ちてくる。人も車もほとんど通らない、舗装もされていないその道は、一人きりで勝手気儘に思索しながらの学校帰りの暇つぶし散歩にはうってつけだ。部活はいつものように適当な理由をつけてサボったが、これもまたいつものように、家に帰ったところで誰かが待っているわけでもない。
とりとめのない思考と思考の間に、一陣の風が吹いた。乾いた音を立てて巻き上がる落ち葉を避けて、目を閉じる。その時ふとそこに、当麻は誰かの存在を感じた。
風が去り、とっさに顔をかばった腕を下ろす。当麻がそっと目を開けると、そこにはいつの間にか、不思議ないでたちの男が一人立っていた。まるで昔話から抜け出してきたかのような、笠を深くかぶった雲水僧。いくら自然が多い郊外とはいえ、この大阪の空気の中で、腰まで届きそうな長い白髪のその男のたたずまいはひどく場違いだった。
「久しいな、天空」
低くつぶやくようなその声は、妙にはっきりと当麻の耳に届いた。男が手にした金色に鈍く輝く錫杖が、澄んだ音を立てる。
(ようやく、来たか)
初めて会ったはずだ。しかし当麻は確かに、そう感じた。
「変わらぬな」
錫杖の音を響かせながら男は枯葉を踏み、ゆっくりと一歩ずつ当麻に近づく。そして当然のように、すぐ目の前に立った。
男の左手の指先が当麻の顎の下へと添えられる。穏やかな僧の姿にはあまり似つかわしくない、その手はまるで太刀をとって戦う男の手だ。そしてその感触を、自分は知っていると当麻は思う。笠の下が覗けるほど近づいたのに、逆光で男の顔の造作はよくわからない。
「迦雄須」
自分がつぶやいたそれが男の名だということも、なぜか当麻にはわかっていた。
「覚えていたな」
迦雄須と呼ばれた男の口もとが、満足そうに笑みの形になる。迦雄須はそのまま指先で当麻の顎をすくい上げると顔を寄せ、薄い唇を当麻の唇に重ねた。
強い風が再び枯葉を舞い上げた。迦雄須は深く、当麻の唇を貪る。冷ややかな唇に、濡れて温かい舌の感触。当麻は突っ立ったまま、ただ黙ってそれを受け入れていた。口づけすら初めてのはずなのに、なぜか幾度も幾度も経験した当たり前の行為のように。
ひとしきり長い口づけから解放されると、当麻は制服の袖でゴシゴシと口を拭った。
「お前は誰だ」
当麻は迦雄須を睨みつけた。会ったことのある人間は、その顔、名前、いつどこで、誰と一緒だったのか。どんな小さなことだって、すべて覚えているのだ。こんな男に会った覚えはない。
なのにどうして自分は知りもしないこの男の名前を呼び、あまつさえこんな行為を許してしまうのか。
「迦雄須と、お前が呼んだのだろう。天空。お前こそ名を何という」
名を尋ねられ、初めて当麻は自分が迦雄須に「天空」と呼ばれていたことに気がついた。
得た覚えのない記憶が自分の中から次々と、はっきりとした形をとることなく溢れ出てくる。あるはずのない記憶。ありえない感覚。わけがわからないことに我慢ができず、イライラと怒りに似た感情が湧く。
「羽柴、当麻だ」
不安を振り払おうとするかのように、当麻は自分の名を強く言い放った。
「羽柴……。なるほど、そういうことか」
迦雄須は小さく笑う。名を名乗って、なぜ笑われなくてはならないのか。迦雄須の態度を無礼と受け取り、当麻は眉間の皺を更に深くした。
そんな当麻の顔を今度は優しく両手で包むと、迦雄須は片方の親指でそっと眉間の辺りに触れた。そして優しく穏やかな声を、その顔に落とす。
「当麻。ではお前は今日から、天空のトウマだ」
「天空の……、トウマ?」
「そうだ。天空よ。お前には使命がある。そしてその使命を果たすために……」
迦雄須の顔がまた近づく。この姿、そして名前も知っているのに、迦雄須の顔を当麻は知らない。そして今もまた笠の中の顔は影となり、はっきりとは見えないのだ。
まるで夢の中のようだ。そう思ううちに、再び唇は重ねられていた。制服の上着のボタンを外し、シャツの下から手を差し入れ、温かくも冷たくもない迦雄須の手が当麻の素肌を撫でる。もう何度も何度も重ねた当たり前の行為のように一切の遠慮をすることもなく、口づけを交わしたまま背中を抱き、迦雄須の手は当麻の身を包むものをくつろげていく。
(ああ、これを待っていた)
恐怖を感じ、激しい拒絶をしてしかるべき迦雄須の振る舞い。しかし当麻の脳裏には思考とは裏腹にそんな言葉が浮かぶ。
この先の愉楽を期待して、最近自分で慰めることをようやく知ったばかりの瑞々しい若い茎はすっかり立ち上がり、迦雄須の施しを待ち望んでいる。頭の中の「羽柴当麻」はおかしいと警告を発するが、今まさに目を覚まさんとしているもう一人の自分に押さえ込まれる。もう一人の自分。それが「天空」だというのだろうか。
「天空よ……」
わずかに唇を離した隙間で発せられたその名に、確かに心は呼応している。考えもしない言葉が口からこぼれ落ちる。
「待っていた。……迦雄須」
葉をほとんど落とした桜の木にすがって背中から迦雄須の愛撫を受ける頃には、当麻はもうすっかり天空の感覚に溺れていた。迦雄須の手によってあっけなく放たれた当麻の体液は迦雄須の指を濡らし、桜の木の幹を濡らした。ほとばしりが滴る指を、迦雄須は当麻が自分でも直接触れることなどない場所にゆるりと挿し入れる。当麻はもう完全に、それを気持ち悪いとも、怖いとも思わなかった。
「早く……迦雄須。焦らすなよ」
風が桜の枝の間を渡り、わずかに残った紅い葉を落としていく。
「そう急くな、天空。お前の心は昔を思い出しても、この身体には初めてのことなのだぞ。……違うか?」
挿し入れた指を巧みに動かせば、当麻は身体を反らして吐息を漏らす。
「初めてに決まっている。……しかし変わらないな、迦雄須。こんなことをしておいて、俺のことを愛してくれるわけでもないんだろう」
当麻はそう言いながら、指で丁寧に解されたそこははっきりと、次の大きく熱い刺激を期待している。
「そこまで知っているのに、やはりこうして私に抱かれるのだな」
身体を重ね、貫かれる。それはもうずっと、ずっと前から待ち望んでいた歓び。その瞬間、固く閉じられた当麻のまぶたの裏に稲光がきらめく。
「…………!」
「お前は何でも覚えているのに、いつもこうして、あやつのことだけは思い出さぬ」
「あいつ……?」
そのまま疑問の言葉を紡ぎだしそうな当麻の口に、迦雄須は指を噛ませる。
「案ずるな。いずれ出会う。いつも初めてのようにお前たちは出会い、それでいて出会ってしまえば、あやつはまた、鮮やかにお前を奪っていくのだ。私はそれまで、お前にこのように使われるだけなのだ」
当麻の唾液が迦雄須の指を伝い落ち、また当麻の胸を濡らしていく。
「そうだ。天空よ。今は何も考えず、こうして私に溺れろ。私はお前の智を満たし、身体を満たす。私はお前のものにはならぬし、お前も私のものにはならぬ。そして孤独を深めるのだ」
すっかり傾いた日が、迦雄須の笠の内に射し込む。
「お前は光輪によって渇望から救われねばならぬ。孤独に愛される智の戦士、天空の力はいつの世も不安定だ。何者かの力を借り、力を安定させなければ、真の力を発揮することはできん。厄介な力だ」
しかし当麻は振り返ることもせず、迦雄須が刻み込む動きに合わせ、甘く熱い息を迦雄須の指の間から吐き出すことしかできない。
「孤独の絶望を味わう前に光輪に攫われてしまっては、本当の天空の力は目覚めることはできんのだ」
その言葉ももう、当麻の耳には届いてはいない。そそり勃ち、歓びの涙で濡れそぼった当麻のそれは、今度は迦雄須の手の施しを受けることもなしに、声にならない声とともに弾けた。
「もうしくじることはない。いよいよ終わりが始まる」
当麻を抱きかかえるようにしていた迦雄須の身体が急に離れると、当麻は膝から崩れ、それから落ち葉の上に仰向けにひっくり返った。木々の間から見えるのは鮮やかな夕焼け。
自分の中の「羽柴当麻」が徐々に戻るのがわかる。しかし「天空」も、また確かに自分の中にいる。
「始まる……のか」
何が始まるのか。それはいずれわかるのだろう。
「天空よ。また会おう」
低く穏やかな迦雄須の声と錫杖の響きだけが残り、その姿はもう見えなくなっていた。
おわり
征士さん以外のお方といたしてます。
しかも阿羅醐戦の前に。
すまぬ。
一応、緑青前提な……はずなんです……orz
**********
夕陽へと変わる少し前の日の光が雑木林の枝々を抜け、落ち葉に埋もれた小道まで落ちてくる。人も車もほとんど通らない、舗装もされていないその道は、一人きりで勝手気儘に思索しながらの学校帰りの暇つぶし散歩にはうってつけだ。部活はいつものように適当な理由をつけてサボったが、これもまたいつものように、家に帰ったところで誰かが待っているわけでもない。
とりとめのない思考と思考の間に、一陣の風が吹いた。乾いた音を立てて巻き上がる落ち葉を避けて、目を閉じる。その時ふとそこに、当麻は誰かの存在を感じた。
風が去り、とっさに顔をかばった腕を下ろす。当麻がそっと目を開けると、そこにはいつの間にか、不思議ないでたちの男が一人立っていた。まるで昔話から抜け出してきたかのような、笠を深くかぶった雲水僧。いくら自然が多い郊外とはいえ、この大阪の空気の中で、腰まで届きそうな長い白髪のその男のたたずまいはひどく場違いだった。
「久しいな、天空」
低くつぶやくようなその声は、妙にはっきりと当麻の耳に届いた。男が手にした金色に鈍く輝く錫杖が、澄んだ音を立てる。
(ようやく、来たか)
初めて会ったはずだ。しかし当麻は確かに、そう感じた。
「変わらぬな」
錫杖の音を響かせながら男は枯葉を踏み、ゆっくりと一歩ずつ当麻に近づく。そして当然のように、すぐ目の前に立った。
男の左手の指先が当麻の顎の下へと添えられる。穏やかな僧の姿にはあまり似つかわしくない、その手はまるで太刀をとって戦う男の手だ。そしてその感触を、自分は知っていると当麻は思う。笠の下が覗けるほど近づいたのに、逆光で男の顔の造作はよくわからない。
「迦雄須」
自分がつぶやいたそれが男の名だということも、なぜか当麻にはわかっていた。
「覚えていたな」
迦雄須と呼ばれた男の口もとが、満足そうに笑みの形になる。迦雄須はそのまま指先で当麻の顎をすくい上げると顔を寄せ、薄い唇を当麻の唇に重ねた。
強い風が再び枯葉を舞い上げた。迦雄須は深く、当麻の唇を貪る。冷ややかな唇に、濡れて温かい舌の感触。当麻は突っ立ったまま、ただ黙ってそれを受け入れていた。口づけすら初めてのはずなのに、なぜか幾度も幾度も経験した当たり前の行為のように。
ひとしきり長い口づけから解放されると、当麻は制服の袖でゴシゴシと口を拭った。
「お前は誰だ」
当麻は迦雄須を睨みつけた。会ったことのある人間は、その顔、名前、いつどこで、誰と一緒だったのか。どんな小さなことだって、すべて覚えているのだ。こんな男に会った覚えはない。
なのにどうして自分は知りもしないこの男の名前を呼び、あまつさえこんな行為を許してしまうのか。
「迦雄須と、お前が呼んだのだろう。天空。お前こそ名を何という」
名を尋ねられ、初めて当麻は自分が迦雄須に「天空」と呼ばれていたことに気がついた。
得た覚えのない記憶が自分の中から次々と、はっきりとした形をとることなく溢れ出てくる。あるはずのない記憶。ありえない感覚。わけがわからないことに我慢ができず、イライラと怒りに似た感情が湧く。
「羽柴、当麻だ」
不安を振り払おうとするかのように、当麻は自分の名を強く言い放った。
「羽柴……。なるほど、そういうことか」
迦雄須は小さく笑う。名を名乗って、なぜ笑われなくてはならないのか。迦雄須の態度を無礼と受け取り、当麻は眉間の皺を更に深くした。
そんな当麻の顔を今度は優しく両手で包むと、迦雄須は片方の親指でそっと眉間の辺りに触れた。そして優しく穏やかな声を、その顔に落とす。
「当麻。ではお前は今日から、天空のトウマだ」
「天空の……、トウマ?」
「そうだ。天空よ。お前には使命がある。そしてその使命を果たすために……」
迦雄須の顔がまた近づく。この姿、そして名前も知っているのに、迦雄須の顔を当麻は知らない。そして今もまた笠の中の顔は影となり、はっきりとは見えないのだ。
まるで夢の中のようだ。そう思ううちに、再び唇は重ねられていた。制服の上着のボタンを外し、シャツの下から手を差し入れ、温かくも冷たくもない迦雄須の手が当麻の素肌を撫でる。もう何度も何度も重ねた当たり前の行為のように一切の遠慮をすることもなく、口づけを交わしたまま背中を抱き、迦雄須の手は当麻の身を包むものをくつろげていく。
(ああ、これを待っていた)
恐怖を感じ、激しい拒絶をしてしかるべき迦雄須の振る舞い。しかし当麻の脳裏には思考とは裏腹にそんな言葉が浮かぶ。
この先の愉楽を期待して、最近自分で慰めることをようやく知ったばかりの瑞々しい若い茎はすっかり立ち上がり、迦雄須の施しを待ち望んでいる。頭の中の「羽柴当麻」はおかしいと警告を発するが、今まさに目を覚まさんとしているもう一人の自分に押さえ込まれる。もう一人の自分。それが「天空」だというのだろうか。
「天空よ……」
わずかに唇を離した隙間で発せられたその名に、確かに心は呼応している。考えもしない言葉が口からこぼれ落ちる。
「待っていた。……迦雄須」
葉をほとんど落とした桜の木にすがって背中から迦雄須の愛撫を受ける頃には、当麻はもうすっかり天空の感覚に溺れていた。迦雄須の手によってあっけなく放たれた当麻の体液は迦雄須の指を濡らし、桜の木の幹を濡らした。ほとばしりが滴る指を、迦雄須は当麻が自分でも直接触れることなどない場所にゆるりと挿し入れる。当麻はもう完全に、それを気持ち悪いとも、怖いとも思わなかった。
「早く……迦雄須。焦らすなよ」
風が桜の枝の間を渡り、わずかに残った紅い葉を落としていく。
「そう急くな、天空。お前の心は昔を思い出しても、この身体には初めてのことなのだぞ。……違うか?」
挿し入れた指を巧みに動かせば、当麻は身体を反らして吐息を漏らす。
「初めてに決まっている。……しかし変わらないな、迦雄須。こんなことをしておいて、俺のことを愛してくれるわけでもないんだろう」
当麻はそう言いながら、指で丁寧に解されたそこははっきりと、次の大きく熱い刺激を期待している。
「そこまで知っているのに、やはりこうして私に抱かれるのだな」
身体を重ね、貫かれる。それはもうずっと、ずっと前から待ち望んでいた歓び。その瞬間、固く閉じられた当麻のまぶたの裏に稲光がきらめく。
「…………!」
「お前は何でも覚えているのに、いつもこうして、あやつのことだけは思い出さぬ」
「あいつ……?」
そのまま疑問の言葉を紡ぎだしそうな当麻の口に、迦雄須は指を噛ませる。
「案ずるな。いずれ出会う。いつも初めてのようにお前たちは出会い、それでいて出会ってしまえば、あやつはまた、鮮やかにお前を奪っていくのだ。私はそれまで、お前にこのように使われるだけなのだ」
当麻の唾液が迦雄須の指を伝い落ち、また当麻の胸を濡らしていく。
「そうだ。天空よ。今は何も考えず、こうして私に溺れろ。私はお前の智を満たし、身体を満たす。私はお前のものにはならぬし、お前も私のものにはならぬ。そして孤独を深めるのだ」
すっかり傾いた日が、迦雄須の笠の内に射し込む。
「お前は光輪によって渇望から救われねばならぬ。孤独に愛される智の戦士、天空の力はいつの世も不安定だ。何者かの力を借り、力を安定させなければ、真の力を発揮することはできん。厄介な力だ」
しかし当麻は振り返ることもせず、迦雄須が刻み込む動きに合わせ、甘く熱い息を迦雄須の指の間から吐き出すことしかできない。
「孤独の絶望を味わう前に光輪に攫われてしまっては、本当の天空の力は目覚めることはできんのだ」
その言葉ももう、当麻の耳には届いてはいない。そそり勃ち、歓びの涙で濡れそぼった当麻のそれは、今度は迦雄須の手の施しを受けることもなしに、声にならない声とともに弾けた。
「もうしくじることはない。いよいよ終わりが始まる」
当麻を抱きかかえるようにしていた迦雄須の身体が急に離れると、当麻は膝から崩れ、それから落ち葉の上に仰向けにひっくり返った。木々の間から見えるのは鮮やかな夕焼け。
自分の中の「羽柴当麻」が徐々に戻るのがわかる。しかし「天空」も、また確かに自分の中にいる。
「始まる……のか」
何が始まるのか。それはいずれわかるのだろう。
「天空よ。また会おう」
低く穏やかな迦雄須の声と錫杖の響きだけが残り、その姿はもう見えなくなっていた。
おわり
PR
index / what's new
(10/10)
(05/16)
(04/24)
(01/14)
(06/26)
(04/30)
(04/17)
(04/16)