たいいくのひ
since November 22th 2012
【082】ごちそうさま
通り雨の続編。
青さんと職場のおねーさまの会話。
緑青です。
**********
「あ、羽柴君。ここいい?」
「どーぞ。こんな時間に珍しいですね」
「月末だから、そこそこ忙しいのよ。羽柴くんこそ」
「俺、最近結構この時間ですよ。昼時少し外せば御覧の通り、かなり空いてますからね。A定とかB定とか残ってないけど」
「そうね。でもウチは社食が安くて美味しいから外に出なくて済んで、そこんとこは助かるわ」
「同感です」
「でもいくら安いからって……。相変わらず食べるわねぇ、羽柴君」
「そうかな。田中さんこそ、そんなちょっとで足りるんですか?」
「女のコはこんなもんよ。私なんかよく食べる方」
「あはは。女のコって歳でもないでしょう」
「あ。羽柴君の次の給料、ついうっかり一桁減らしておくように言っとくわね」
「冗談ですよ、冗談。怖いなぁ」
「だけどラーメンとうどんと焼きそばって……。三人前だっていう以上に、突っ込みどころが満載なんだけど」
「今日は麺な気分だったんですよ」
「麺、ねぇ……」
「……何か?」
「確かにメン喰いよね、羽柴君って」
「ん? 」
「見ちゃった」
「……何を?」
「ダンナさん」
「!☆÷〒!!」
「ちょ、ちょっと、大丈夫? 羽柴くん」
「…………ああ……。あー、……鼻からうどんが出るかと思った」
「そんなにビックリしなくても」
「驚きますよ。何を言いだすかと思えば」
「昨日。デートしてたでしょう」
「何の話ですか」
「とぼけたってダメ」
「とぼけてないですよ。デートだなんて。見間違えじゃないですか?」
「あらそう? じゃあ他人の空似だったのねぇ。そうかぁ」
「そうですよ。そうそう」
「でもほんと、声もそっくりだったわぁ。その羽柴君似の人ね、すっごくカッコイイ男の人と二人連れだったんだけど、ちょっと2人の話が聞こえちゃったのね」
「……へぇ」
「それが、一緒に住んでるマンションをリフォームするみたいでね」
「よく……聞いてますね」
「寝室の中をどうしたいのか意見が違ったみたいで」
「え! そこ⁉︎」
「羽柴君似の子がベッドがひ……」
「あー 、田中さん、すみません。 参りました。その辺で勘弁してください」
「あら。認めるの」
「……で、どこでそんな話をしてましたかね」
「映画観に行ったでしょう。私も行ってたの。あそこ、ダンナの職場の近くなんだ」
「ダンナさんと二人で観たんですか? あれを?」
「もちろん子どもも連れて行ったのよ。そういう羽柴君たちこそ、大人2人だったじゃないの」
「……あれはウチ、毎年見ることにしてるんです」
「ダンナさんの趣味?」
「いや、俺の趣味」
「ふぅん。意外なような、そうでもないような」
「……で、ちょっと聞きたいんですけど、田中さん」
「何?」
「どうして俺が一緒にいたのが、俺の『ダンナ』だって思ったんですか」
「え? どうしてって……。ほら、こないだ言ってたじゃない。同棲してる恋人がいるって、ね。で、マンションのリフォームの話でしょ」
「そうか。……あいつの声、よく通るからなぁ」
「そんなに大きな声で話してたってワケじゃないのよ。まぁ、真後ろにいたってこともあるけど。ウチも丁度マンションのリフォーム考えてるところだったから、ついつい耳に入っちゃったっていうか」
「ああ」
「で、その時、ダンナさんが何を言ったのかはよく聞こえなかったんだけど、羽柴くんが『誰が妻だっ』って突っ込んだのは、よく聞こえたのよ」
「…………俺かよ」
「相手が男の人だったのは驚いたけど。それ聞いて、ああなるほど、きっと羽柴くんが奥さんで、ダンナさんがダンナさんなんだなぁって、ね?」
「………へぇ」
「まぁ、たとえ話が聞こえてこなくても、なんとなくそんな雰囲気に見えたわよ。この前聞いた話とも、ピーンとね、繋がったっていうか」
「………」
「そんなに頭抱えなくていいわよ、羽柴君。ほら、食べて食べて」
「言われなくても食べますよ。俺のですから。……しかし嬉しそうですね、田中さん」
「確かに面白くはあるわねぇ。あんなイケメン、どこで知り合ったの?」
「どこでって、昔からの腐れ縁ですよ」
「あら素敵。幼馴染?」
「そういうワケじゃないですけど」
「ふぅん。あれだけカッコイイんじゃ、色々心配ね」
「まぁね。カッコイイだけじゃないですよ。仕事はデキるし、料理はうまいし」
「あらあら。のろけられちゃった」
「俺だって別に、隠すつもりでもないんですけどね」
「そうなの? でも羽柴君にダンナさんがいて、それがあーんなイイ男だって皆が知ったら、きっとキャーキャー大騒ぎね」
「えー? 引くでしょう」
「うーん。多分、引かないと思うなぁ」
「そんなもんですかねぇ……。まぁ、じゃあ、今度もし見かけた時は声かけてくださいよ。あいつはそういうの、きっと喜ぶと思うから。田中さんの噂のダンナ様も拝ませてもらおう」
「ふふふ。いくらウチのダンナでも、羽柴君のダンナさんの前では色あせるわね」
「それはもう、仕方ないですよ」
「まぁ!言うわねー!ごちそうさま!」
「あ。こんな時間か。ごちそうさまでした」
おわり
青さんと職場のおねーさまの会話。
緑青です。
**********
「あ、羽柴君。ここいい?」
「どーぞ。こんな時間に珍しいですね」
「月末だから、そこそこ忙しいのよ。羽柴くんこそ」
「俺、最近結構この時間ですよ。昼時少し外せば御覧の通り、かなり空いてますからね。A定とかB定とか残ってないけど」
「そうね。でもウチは社食が安くて美味しいから外に出なくて済んで、そこんとこは助かるわ」
「同感です」
「でもいくら安いからって……。相変わらず食べるわねぇ、羽柴君」
「そうかな。田中さんこそ、そんなちょっとで足りるんですか?」
「女のコはこんなもんよ。私なんかよく食べる方」
「あはは。女のコって歳でもないでしょう」
「あ。羽柴君の次の給料、ついうっかり一桁減らしておくように言っとくわね」
「冗談ですよ、冗談。怖いなぁ」
「だけどラーメンとうどんと焼きそばって……。三人前だっていう以上に、突っ込みどころが満載なんだけど」
「今日は麺な気分だったんですよ」
「麺、ねぇ……」
「……何か?」
「確かにメン喰いよね、羽柴君って」
「ん? 」
「見ちゃった」
「……何を?」
「ダンナさん」
「!☆÷〒!!」
「ちょ、ちょっと、大丈夫? 羽柴くん」
「…………ああ……。あー、……鼻からうどんが出るかと思った」
「そんなにビックリしなくても」
「驚きますよ。何を言いだすかと思えば」
「昨日。デートしてたでしょう」
「何の話ですか」
「とぼけたってダメ」
「とぼけてないですよ。デートだなんて。見間違えじゃないですか?」
「あらそう? じゃあ他人の空似だったのねぇ。そうかぁ」
「そうですよ。そうそう」
「でもほんと、声もそっくりだったわぁ。その羽柴君似の人ね、すっごくカッコイイ男の人と二人連れだったんだけど、ちょっと2人の話が聞こえちゃったのね」
「……へぇ」
「それが、一緒に住んでるマンションをリフォームするみたいでね」
「よく……聞いてますね」
「寝室の中をどうしたいのか意見が違ったみたいで」
「え! そこ⁉︎」
「羽柴君似の子がベッドがひ……」
「あー 、田中さん、すみません。 参りました。その辺で勘弁してください」
「あら。認めるの」
「……で、どこでそんな話をしてましたかね」
「映画観に行ったでしょう。私も行ってたの。あそこ、ダンナの職場の近くなんだ」
「ダンナさんと二人で観たんですか? あれを?」
「もちろん子どもも連れて行ったのよ。そういう羽柴君たちこそ、大人2人だったじゃないの」
「……あれはウチ、毎年見ることにしてるんです」
「ダンナさんの趣味?」
「いや、俺の趣味」
「ふぅん。意外なような、そうでもないような」
「……で、ちょっと聞きたいんですけど、田中さん」
「何?」
「どうして俺が一緒にいたのが、俺の『ダンナ』だって思ったんですか」
「え? どうしてって……。ほら、こないだ言ってたじゃない。同棲してる恋人がいるって、ね。で、マンションのリフォームの話でしょ」
「そうか。……あいつの声、よく通るからなぁ」
「そんなに大きな声で話してたってワケじゃないのよ。まぁ、真後ろにいたってこともあるけど。ウチも丁度マンションのリフォーム考えてるところだったから、ついつい耳に入っちゃったっていうか」
「ああ」
「で、その時、ダンナさんが何を言ったのかはよく聞こえなかったんだけど、羽柴くんが『誰が妻だっ』って突っ込んだのは、よく聞こえたのよ」
「…………俺かよ」
「相手が男の人だったのは驚いたけど。それ聞いて、ああなるほど、きっと羽柴くんが奥さんで、ダンナさんがダンナさんなんだなぁって、ね?」
「………へぇ」
「まぁ、たとえ話が聞こえてこなくても、なんとなくそんな雰囲気に見えたわよ。この前聞いた話とも、ピーンとね、繋がったっていうか」
「………」
「そんなに頭抱えなくていいわよ、羽柴君。ほら、食べて食べて」
「言われなくても食べますよ。俺のですから。……しかし嬉しそうですね、田中さん」
「確かに面白くはあるわねぇ。あんなイケメン、どこで知り合ったの?」
「どこでって、昔からの腐れ縁ですよ」
「あら素敵。幼馴染?」
「そういうワケじゃないですけど」
「ふぅん。あれだけカッコイイんじゃ、色々心配ね」
「まぁね。カッコイイだけじゃないですよ。仕事はデキるし、料理はうまいし」
「あらあら。のろけられちゃった」
「俺だって別に、隠すつもりでもないんですけどね」
「そうなの? でも羽柴君にダンナさんがいて、それがあーんなイイ男だって皆が知ったら、きっとキャーキャー大騒ぎね」
「えー? 引くでしょう」
「うーん。多分、引かないと思うなぁ」
「そんなもんですかねぇ……。まぁ、じゃあ、今度もし見かけた時は声かけてくださいよ。あいつはそういうの、きっと喜ぶと思うから。田中さんの噂のダンナ様も拝ませてもらおう」
「ふふふ。いくらウチのダンナでも、羽柴君のダンナさんの前では色あせるわね」
「それはもう、仕方ないですよ」
「まぁ!言うわねー!ごちそうさま!」
「あ。こんな時間か。ごちそうさまでした」
おわり
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