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【077】噂話

緑さんと青は出てこないけど、緑青。



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「おーい! 伸! こっちこっち!」

「ごめんごめん。ちょっと待たせちゃったね」

「ぜーんぜん。オレもホント、さっき来たとこ。ほら、お前の生中も今来たとこだからよ。早く座れ座れ!」

「わ。あと三分で着くコールしといて良かった」

「へっへー。気がきくだろ」

「嬉しいねぇ。相変わらず元気そうだね、秀は」

「おう。お前もなー。遼は遅れるんだろ? 二人で始めてようぜ」

「だね。何に乾杯しようか」

「そうだなー。五年越しで続いてるオレ達の友情に、ってのはどうだ?」

「いいね。賛成」

「じゃ、それに乾杯!」

「カンパーイ!」

「………」

「………ふう! 美味しいなぁ」

「労働の後のビールは最高だな! なーんて言っても、オレ、今日は仕込みだけで抜けて来ちまったけどよ」

「大丈夫なのか?」

「たまにはな。俺がいない大変さを、店のやつらにもわからせとかないとな」

「なるほどねぇ。征士と当麻も来られれば良かったのにね。五人全員って、なかなか集まれないもんだな」

「だなー。あいつら、二人で仙台に行ってるんだろ?」

「仙台に? 二人で?」

「そう。征士の実家。征士がそう言ってたぜ?」

「ふーん、そうだったんだ。当麻は僕が声をかけた時、旅行に行くとは言ってたけど」

「そうなのか。……まぁ征士の実家だって、当麻にとっちゃ旅行って言えば旅行だけどな」

「まぁね。同居してて、更に一緒に里帰りなんて、どんだけ仲がいいんだよって思うけどね」

「うーん」

「あの二人の二人暮らしは、すぐに破綻するかと思ってたけど、もう一年経つだろう? よく続いているよ。生活力ないっていうか、生活感のまるでない二人なのにさ」

「そうなんだよなぁ。……うん。しかもナスティんちじゃ二人とも、お互い同室にはうんざりって感じだっただろう?」

「そうそう。だから小田原を出てから二人で一緒に暮らすって言い出した時には驚いたんだよね」

「な」

「案外よくやってるよね。当麻の部屋はともかく、それ以外のところは割と片付いてるし」

「伸、お前さ」

「ん?」

「お前、あのウチよく行くのか?」

「よくってほどでもないけど。たまにね」

「飯、作ってやったりとか?」

「まさか! 行けばちゃんとご馳走になるよ。当麻が作ってくれるだろう? 一緒に暮らしてた頃は、ほとんど何もしなかったのにさ」

「ええ? 何だよ。俺が行った時には俺が作るばっかで、作ってもらったことなんか一度もねーぞ。当麻のヤツ、伸にはカッコつけてやがるな」

「あはは。秀の腕が良いからなんじゃない? 秀のご飯がタダで食べられるの、嬉しいじゃないか」

「そりゃまぁ、そうだけどよぉ」

「……で?」

「へ?」

「なんで、改めてそんなこと聞くんだい? よく行くのか、なんてさ」

「……そうだっけ?」

「そうだよ」

「いやぁ……」

「何だよ。気になるじゃないか」

「うーん……いや、な」

「ん?」

「うん……この間さ、あいつらん家に用があって行ってきたんだよ」

「うん」

「征士は留守だったんだけど、店の発注やら経理を管理して何とかするソフト? 俺はよくわかんねーんだけど、そんなののちょっとした改造を当麻に頼んであってさ」

「うん」

「でさ、当麻の部屋に入ったんだよな」

「あぁ。あの、いつ行っても足の踏み場のない部屋ね」

「そうそう。………で、さ」

「ん?」

「あのー、伸、お前さ」

「だから何だよ」

「お前、あいつらんち行って、何か気づくことってねーか?」

「気づくって?」

「うーん。これ、言っていいのかなー」

「もう、どうしたんだよ。秀らしくないなぁ。もったいつけてないで、早く言いなよ」

「もったいつけてるわけじゃねぇよ。言っていいかっていうか……。何かさ、こう……。気付かない方が幸せってことってあるだろ」

「なになに? そんなこと言われちゃ、余計気になるよ」

「んー。いや、俺のな? 思い過ごしかもしれないっつーか、まーなんだ。思い過ごしであって欲しいってーか」

「はいはい。それで?」

「うん。……ま、いーか。……あのな? 当麻の部屋に、な? ベッド、あるだろ?」

「うん。あるよね」

「俺が行ったときにな、そのベッドの上は本の山だったんだ」

「僕が行った時もそうだったよ。床もベッドも机の上も、何もかも本でいっぱいだったな。足の踏み場もないっていうのを、絵に描いて額に入れたみたいな部屋だよね。まったく」

「だろー。うん。で……な?」

「うん」

「俺、何の気なしに聞いたんだよ」

「何を?」

「当麻、お前、一体どこで寝てんだよ、って」

「……あー」

「小田原にいるときだったらよ。寝るとこなんていくらでもあるじゃん。ベッドの上がふさがってたって、リビングやら、廊下やら、玄関やら」

「うん……まぁ、廊下や玄関ではさすがに寝たくはないけど。だよねぇ」

「だけど、あいつらんちはさ? 自分の部屋のベッド以外に寝るとこねーだろ。二人の部屋とちっせーダイニングがあるだけだ」

「……うん」

「あんなとこで寝られねーだろ?」

「……だね」

「それで、な?」

「うん……ちょっと……」

「ん?」

「ちょっと待ってくれる? 秀」

「おう」

「キミが何を言いたいのか、ちょっとピンときちゃったっていうか……」

「……」

「何か今までのもやっとした色んなことが、一気に繋がっちゃったっていうか……」

「……うん……」

「僕もさ、ちょっと気になってはいたんだ。征士の部屋のベッドさ、あれ……」

「そうなんだよ。……当麻にな、どこに寝てんだって聞いたらよ。あいつ、一瞬黙ったんだ」

「うん」

「で、なんか慌てて、その辺?とか言っちゃってよー」

「ああー」

「で、征士のベッドな。俺も気になってたんだよ。デカいってんだろ? 気を付けの姿勢で上向いたまま微動だにしねーヤツのベッドなのに」

「…………うん」

「何かさー」

「ん?」

「……な」

「……うん」

「いつからなんだろうって思わねー?」

「……うん」

「俺、全っ然、気づかなかったのによー。小田原出たら二人で一緒に住みたいんだって言った時にはもうさ、そうだったってことだろ?」

「うん……でもさぁ、秀」

「ん?」

「本当に、全然気づいてなかった?」

「……うん……まぁ……」

「なんとなく……なんとなく、だよ? 本当に。キミもさっき言ってたけど、気づかない方が波風たたないしさ」

「ああ」

「なんかね。気づかない方向に自然と向いてたっていうか。無意識の故意っていうか」

「でもなぁ。水くせぇよなぁ」

「だよねぇ」

「…………」

「…………」

「悪い! 二人とも、待たせたな!」

「遼!」

「おう。お疲れさん!」

「あれ? 征士と当麻は?」

「あー、えっと、あの、うん。来ないんだ、今日は。ね? 秀」

「お、おお、おう。都合が悪いんだと」

「なんだ。もしかして、一緒に仙台に里帰りとか?」

「え? 遼、キミ聞いてたの?」

「あ、いや。なんとなく……」

「ていうかよぉ。遼お前、今の反応……」

「キミ、何か知ってるの? 二人のこと……」

「えーっと、その……。知ってるって、征士と当麻がアレってこと……だよな?」

「…………そ。アレ」

「……うん、アレ」

「アレっていうか、いや、あの、ほら、俺なんて言っていいのかよくわからないけど、な?恋人同士っていうのか?えっと……」

「わかるわかる。で、なんで知ってんだよ、お前」

「俺、何だか間が悪いっていうか、いつもタイミング悪くってさ。二人がいい雰囲気のところにバッタリ出くわしちゃうことが何度もあって」

「うわー」

「あー。遼ってときどき気配ない時あるからね」

「俺?そうか?」

「野生動物っぽいからな、お前」

「で?」

「ああ。で、二人が一緒に住むって言った時も、なるほどなーって思ってたんだけど、伸も秀もナスティも、二人が付き合ってるって知らなさそうな雰囲気だったし」

「教えてくれよなぁ」

「口止めされてたの?」

「いや。だけど、どうやって話題にしていいのかよくわからなくて」

「まぁ……」

「たしかに」

「男同士でそういうのって、俺、あいつらが初めてだったから、ちょっと驚いたけどさ。でもなんか、良かったなって思ったんだ。なんだかんだ言って、信頼し合ってるって感じがするだろう?あの二人」

「まぁ……そうかもなぁ」

「うん。お似合いではあるよね」

「で、何でその話に?」

「こないだ伸が、あいつらんちに行ったって話から。な?」

「そうそう」

「へぇ、行ってきたんだ。征士と当麻って、家ではけっこう臆面もなくいちゃいちゃするから、当てられるよなぁ」

「え?本当?」

「マジかよ」

「あれ?そうか。俺だけ? 俺が二人の関係、知ってるからなのかな」

「なるほどねぇ……」

「……オレ、いつまでも知らないことにしとこうかな」

「僕も……」






おわり
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