たいいくのひ

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「当麻」

征士の声。
……朝か。

「当麻」

わかってるよ。
起きろって言うんだろう。
朝飯の匂いがする。
いつもの味噌汁の出汁の匂い。
魚の干物の焼ける匂い。

みんなもまだ食べてないのか。
よし、今朝はみんなと一緒に食べられる。
伸に小言を言われなくてすんだ。

……ん？
部屋は二階で、キッチンからは遠いはずなのに。
おかしいよな。
いつも部屋まで、こんなに匂いがしてきただろうか。
 
「当麻。そろそろ起きろ」

そうだ。
布団の感触が違う。
ベッドの柔らかさが違う。
部屋の……部屋の匂いが違う。
静かだけど、その静かさが、違う。

「ん……」

少しだけ頭が働いてきて、片目をゆっくりと開けてみる。
征士の声は部屋の向こうから聞こえる。

布団の肌触りがこんなにわかるのは、俺が裸で寝ているからだ。
昨夜はそう、征士のベッドで、いつものように。
引越しで疲れてるのに、よくやるよなぁって……。

あ。
引越し。

引越したんだ。
昨日。
俺と征士と。

二人暮らしになったのが嬉しくて。
征士が、これで思いっきりできるな、とか言っちゃって。
俺もヒヒヒって笑って。
本当はさ、アパートだし、隣が気になるの、あんまし変わらないんだけどな。

ここは征士の部屋。
隣がキッチン。
二人用の小さなテーブル。
椅子が二脚。
その向こうに俺の部屋。

「おい当麻。朝食ができているぞ。起きろ」

この匂い。
伸が持たせてくれた出汁だから、同じ匂いがしたんだ。
昨日何やらスーパーで、ゴムの他にも色々買い込んでいたけど。
征士お前、朝飯なんか作ったの？
何だか浮かれてて……楽しいな。

「いい加減にしないか。味噌汁が冷めるだろう」

今度はすぐ近くで征士の声がして。
くっくっく。
つい笑ってしまったら拳骨が飛んできた。

「イッテーなぁ……起きる……起きるよ……」

このまま征士の手を引いたら、こいつ、どうするかな。
味噌汁、冷めちゃうからやめておくかな。

もう目は覚めているんだが。
起きてしまうのが、何だかもったいない気がしてしまう。

新しい朝。





おわり

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今年も緑青は、こんな感じで！