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【071】渋滞

緑青です。
いつもの、甘めでゆる〜い会話です。


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「やっぱり、こうなるよなぁ」
           
「………何がだ」

「渋滞だよ、渋滞。この時期、日曜の夕方の渋滞なんて、はじめからわかっていたじゃないか」

「………ああ」

「だから俺は、新幹線にしようって言ったんだ」

「………ああ」

「あ、車線あっちがいいんじゃないか? あっちの方が流れて………」

「………」

「んー。そうでもなかったか。うまくいかんなぁ」

「………」

「まったく。新幹線ならビールだって飲めるしさ」

「………ビールが飲みたいなら、飲めばいい」

「ん?」

「飲みたいなら当麻、お前は飲めばいい。運転しているのは私なのだし、お前は免許を持っていないのだから、運転を代われるわけでもない」

「そんなことを言うなよ」

「そんなこと?」

「お前が運転しているのに、俺が一人で飲んだってつまらないだろう」

「………」

「だいたい高速道路で渋滞にはまっているんじゃ、ビールの調達だってできないじゃないか」

「………そうだな」

「だいたいなぁ」

「少し黙っていてくれ」

「あん?」

「うるさいのだ。少し黙っていろ」

「は?」

「今更どうしようもないことを、横でごちゃごちゃ言わないでくれ。車が思うように進まなくてイライラするなら、眠っていろ」

「何だよ」

「………」

「それじゃ悪いと思って、こうやって頑張って起きてるんじゃないか」

「………」

「黙っていると、眠たくなるんだよ」

「そうか」

「………うん…………」

「………」

「だいたいどうして、そんなに車にこだわるんだ?」

「だから!」

「ん?」

「そういうことを、今更言わないでくれと言っている。悪かった。私の判断ミスだ。そう言えばいいのか」

「怒るなよ、征士。そうじゃないんだ」

「………では、何だ」

「お前だってわかっていたんだろう、渋滞することは。俺だって散々言った。それなのに、お前はどうしても車で出掛けたかった。俺はただ、その理由が知りたいんだ」

「理由?」

「ああ。理由」

「理由か……」

「特にナシか」

「いや」

「じゃあ、何だ」

「………逆に尋ねるが」

「ん?」

「お前はどうなのだ」

「え?」

「楽しくはないか」

「そりゃ楽しかったよ。お前が誘ってくれて、遺跡巡って、温泉入って。最近発見されたの全部見られたし、発掘した本人の話なんか、運良く聞けちゃったし。温泉も良かったし」

「………」

「何でお前がこうして、遺跡なんて興味もないだろうに、俺に付き合うみたいに二人で出掛ける計画を立ててくれたのかは、俺にはわからないけどな」

「そうではない」

「ん?」

「お前が楽しかったのは何よりだ。私だって、こんな機会でもなければ見ないような、珍しいものが見られて、とても興味深かった」

「そうか。それなら良かったけど」

「それはいいのだ。私が聞いているのは……」

「ん?」

「今、車が渋滞ですっかり動かなくなって、東京に戻るのに、あと何時間かかるのかわからないこの状況は、お前にとって楽しくはないのかと聞いている」

「………この状況が?」

「そうだ」

「うーん」

「………」

「楽し……くない、こともないが」

「そうか」

「ああ」

「………」

「………」

「車で出掛けたかったのは」

「ん?」

「うん」

「何だよ」

「渋滞がわかってても、車で出掛けたかったのはな」

「ああ」

「………当麻」

「聞いてるよ。だから何だよ」

「車で出掛けたかったのは、お前とこうして二人きりになりたかったからだ」

「………あん?」

「だから」

「………」

「電車では、どうしたって人目がある」

「ああ」

「人目があるところでは、お前に好きだと思いを告げることも、手に触れることもできないではないか」

「………は?」

「そういうことだ。私は渋滞でも、たとえこのまま今日中に東京には戻れなかったとしても、お前と二人なら、それもまた楽しい」

「………え?」

「もう言わん。わかったら黙って寝ていろ」

「……何? お前、今、何て言った?」

「頼むから寝てろと言っているのだ! その減らない口を閉じてさっさと寝ていろ‼︎」

「いや、でも、え?」

「お前は今、楽しいのか、楽しくないのか、どっちだ!?」

「そんな剣幕で怒るなよ」

「怒ってない!」

「楽しい、よ。………あれ、あの、多分」

「………」

「………と、思う」

「なら今日はもういい。恥ずかしいから、もう寝ていてくれ。これ以上喋るな」

「ああ………」

「………」

「………あの、さ………征士」

「なんだ!!?」

「いや、あの、俺、さ」

「…………何だ」

「………便所、行きたいんだけど」

「はぁ?」

「ションベンだよ。サービスエリアまでもたないかも……」

「温泉上がりに牛乳を三種類も飲むからだろう」

「………すまん」

「だからあれほど言ったのだ。これから車で帰るのだからと……」

「お前こそ、今更どうしようもないこと言わないでくれよ。ああ、もうダメかも……」

「子どもか!」

「子どもでも何でもいい! 停めて! 路肩に停めて! 早く!」

「…………」

「ああああ」

「…………ほら、早くしてこい!」

「サンキュ、待ってて」

「当たり前だ。こんなところに置いていけるか。……………………。……………………」

「………ふー。危なかったー」

「間に合ったか」

「おう。ありがとうな」

「早くシートベルトをしろ………。出すぞ」

「うん。………ああ、また何台分も遅くなっちゃったな」

「そうだな」

「あのさ、征士」

「なんだ」

「ありがとうな、今日、誘ってくれて」

「ああ」

「さっきも言ったけど、すごく楽しかったし、嬉しかった」

「ああ」

「さっきの言葉も………」

「………」

「俺、嬉しい、気がする。お前がそう言ってくれるの。………うん」

「そうか」

「ああ」

「小便をしながら考えたのか」

「何を?」

「返事を」

「や、考えたって言うか、………気づいたって言うか。……あ。別にションベンは関係ないぞ?」

「………それは良かった」

「………」

「………」

「………でさ、悪いんだが」

「なんだ」

「寝てもいいか? 俺も今、恥ずかしいし、眠い」

「………わかった」

「恥ずかしくなくなったら、起きるから」

「………何だそれは」

「あ、起きなくても、着いたら起こしてくれよ」

「はは。………わかった。おやすみ」

「………おやすみ」

「………」

「………」






おわり

**********



征士さん、運転頑張ってね!
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