たいいくのひ
since November 22th 2012
【071】渋滞
緑青です。
いつもの、甘めでゆる〜い会話です。
**********
「やっぱり、こうなるよなぁ」
「………何がだ」
「渋滞だよ、渋滞。この時期、日曜の夕方の渋滞なんて、はじめからわかっていたじゃないか」
「………ああ」
「だから俺は、新幹線にしようって言ったんだ」
「………ああ」
「あ、車線あっちがいいんじゃないか? あっちの方が流れて………」
「………」
「んー。そうでもなかったか。うまくいかんなぁ」
「………」
「まったく。新幹線ならビールだって飲めるしさ」
「………ビールが飲みたいなら、飲めばいい」
「ん?」
「飲みたいなら当麻、お前は飲めばいい。運転しているのは私なのだし、お前は免許を持っていないのだから、運転を代われるわけでもない」
「そんなことを言うなよ」
「そんなこと?」
「お前が運転しているのに、俺が一人で飲んだってつまらないだろう」
「………」
「だいたい高速道路で渋滞にはまっているんじゃ、ビールの調達だってできないじゃないか」
「………そうだな」
「だいたいなぁ」
「少し黙っていてくれ」
「あん?」
「うるさいのだ。少し黙っていろ」
「は?」
「今更どうしようもないことを、横でごちゃごちゃ言わないでくれ。車が思うように進まなくてイライラするなら、眠っていろ」
「何だよ」
「………」
「それじゃ悪いと思って、こうやって頑張って起きてるんじゃないか」
「………」
「黙っていると、眠たくなるんだよ」
「そうか」
「………うん…………」
「………」
「だいたいどうして、そんなに車にこだわるんだ?」
「だから!」
「ん?」
「そういうことを、今更言わないでくれと言っている。悪かった。私の判断ミスだ。そう言えばいいのか」
「怒るなよ、征士。そうじゃないんだ」
「………では、何だ」
「お前だってわかっていたんだろう、渋滞することは。俺だって散々言った。それなのに、お前はどうしても車で出掛けたかった。俺はただ、その理由が知りたいんだ」
「理由?」
「ああ。理由」
「理由か……」
「特にナシか」
「いや」
「じゃあ、何だ」
「………逆に尋ねるが」
「ん?」
「お前はどうなのだ」
「え?」
「楽しくはないか」
「そりゃ楽しかったよ。お前が誘ってくれて、遺跡巡って、温泉入って。最近発見されたの全部見られたし、発掘した本人の話なんか、運良く聞けちゃったし。温泉も良かったし」
「………」
「何でお前がこうして、遺跡なんて興味もないだろうに、俺に付き合うみたいに二人で出掛ける計画を立ててくれたのかは、俺にはわからないけどな」
「そうではない」
「ん?」
「お前が楽しかったのは何よりだ。私だって、こんな機会でもなければ見ないような、珍しいものが見られて、とても興味深かった」
「そうか。それなら良かったけど」
「それはいいのだ。私が聞いているのは……」
「ん?」
「今、車が渋滞ですっかり動かなくなって、東京に戻るのに、あと何時間かかるのかわからないこの状況は、お前にとって楽しくはないのかと聞いている」
「………この状況が?」
「そうだ」
「うーん」
「………」
「楽し……くない、こともないが」
「そうか」
「ああ」
「………」
「………」
「車で出掛けたかったのは」
「ん?」
「うん」
「何だよ」
「渋滞がわかってても、車で出掛けたかったのはな」
「ああ」
「………当麻」
「聞いてるよ。だから何だよ」
「車で出掛けたかったのは、お前とこうして二人きりになりたかったからだ」
「………あん?」
「だから」
「………」
「電車では、どうしたって人目がある」
「ああ」
「人目があるところでは、お前に好きだと思いを告げることも、手に触れることもできないではないか」
「………は?」
「そういうことだ。私は渋滞でも、たとえこのまま今日中に東京には戻れなかったとしても、お前と二人なら、それもまた楽しい」
「………え?」
「もう言わん。わかったら黙って寝ていろ」
「……何? お前、今、何て言った?」
「頼むから寝てろと言っているのだ! その減らない口を閉じてさっさと寝ていろ‼︎」
「いや、でも、え?」
「お前は今、楽しいのか、楽しくないのか、どっちだ!?」
「そんな剣幕で怒るなよ」
「怒ってない!」
「楽しい、よ。………あれ、あの、多分」
「………」
「………と、思う」
「なら今日はもういい。恥ずかしいから、もう寝ていてくれ。これ以上喋るな」
「ああ………」
「………」
「………あの、さ………征士」
「なんだ!!?」
「いや、あの、俺、さ」
「…………何だ」
「………便所、行きたいんだけど」
「はぁ?」
「ションベンだよ。サービスエリアまでもたないかも……」
「温泉上がりに牛乳を三種類も飲むからだろう」
「………すまん」
「だからあれほど言ったのだ。これから車で帰るのだからと……」
「お前こそ、今更どうしようもないこと言わないでくれよ。ああ、もうダメかも……」
「子どもか!」
「子どもでも何でもいい! 停めて! 路肩に停めて! 早く!」
「…………」
「ああああ」
「…………ほら、早くしてこい!」
「サンキュ、待ってて」
「当たり前だ。こんなところに置いていけるか。……………………。……………………」
「………ふー。危なかったー」
「間に合ったか」
「おう。ありがとうな」
「早くシートベルトをしろ………。出すぞ」
「うん。………ああ、また何台分も遅くなっちゃったな」
「そうだな」
「あのさ、征士」
「なんだ」
「ありがとうな、今日、誘ってくれて」
「ああ」
「さっきも言ったけど、すごく楽しかったし、嬉しかった」
「ああ」
「さっきの言葉も………」
「………」
「俺、嬉しい、気がする。お前がそう言ってくれるの。………うん」
「そうか」
「ああ」
「小便をしながら考えたのか」
「何を?」
「返事を」
「や、考えたって言うか、………気づいたって言うか。……あ。別にションベンは関係ないぞ?」
「………それは良かった」
「………」
「………」
「………でさ、悪いんだが」
「なんだ」
「寝てもいいか? 俺も今、恥ずかしいし、眠い」
「………わかった」
「恥ずかしくなくなったら、起きるから」
「………何だそれは」
「あ、起きなくても、着いたら起こしてくれよ」
「はは。………わかった。おやすみ」
「………おやすみ」
「………」
「………」
おわり
**********
征士さん、運転頑張ってね!
いつもの、甘めでゆる〜い会話です。
**********
「やっぱり、こうなるよなぁ」
「………何がだ」
「渋滞だよ、渋滞。この時期、日曜の夕方の渋滞なんて、はじめからわかっていたじゃないか」
「………ああ」
「だから俺は、新幹線にしようって言ったんだ」
「………ああ」
「あ、車線あっちがいいんじゃないか? あっちの方が流れて………」
「………」
「んー。そうでもなかったか。うまくいかんなぁ」
「………」
「まったく。新幹線ならビールだって飲めるしさ」
「………ビールが飲みたいなら、飲めばいい」
「ん?」
「飲みたいなら当麻、お前は飲めばいい。運転しているのは私なのだし、お前は免許を持っていないのだから、運転を代われるわけでもない」
「そんなことを言うなよ」
「そんなこと?」
「お前が運転しているのに、俺が一人で飲んだってつまらないだろう」
「………」
「だいたい高速道路で渋滞にはまっているんじゃ、ビールの調達だってできないじゃないか」
「………そうだな」
「だいたいなぁ」
「少し黙っていてくれ」
「あん?」
「うるさいのだ。少し黙っていろ」
「は?」
「今更どうしようもないことを、横でごちゃごちゃ言わないでくれ。車が思うように進まなくてイライラするなら、眠っていろ」
「何だよ」
「………」
「それじゃ悪いと思って、こうやって頑張って起きてるんじゃないか」
「………」
「黙っていると、眠たくなるんだよ」
「そうか」
「………うん…………」
「………」
「だいたいどうして、そんなに車にこだわるんだ?」
「だから!」
「ん?」
「そういうことを、今更言わないでくれと言っている。悪かった。私の判断ミスだ。そう言えばいいのか」
「怒るなよ、征士。そうじゃないんだ」
「………では、何だ」
「お前だってわかっていたんだろう、渋滞することは。俺だって散々言った。それなのに、お前はどうしても車で出掛けたかった。俺はただ、その理由が知りたいんだ」
「理由?」
「ああ。理由」
「理由か……」
「特にナシか」
「いや」
「じゃあ、何だ」
「………逆に尋ねるが」
「ん?」
「お前はどうなのだ」
「え?」
「楽しくはないか」
「そりゃ楽しかったよ。お前が誘ってくれて、遺跡巡って、温泉入って。最近発見されたの全部見られたし、発掘した本人の話なんか、運良く聞けちゃったし。温泉も良かったし」
「………」
「何でお前がこうして、遺跡なんて興味もないだろうに、俺に付き合うみたいに二人で出掛ける計画を立ててくれたのかは、俺にはわからないけどな」
「そうではない」
「ん?」
「お前が楽しかったのは何よりだ。私だって、こんな機会でもなければ見ないような、珍しいものが見られて、とても興味深かった」
「そうか。それなら良かったけど」
「それはいいのだ。私が聞いているのは……」
「ん?」
「今、車が渋滞ですっかり動かなくなって、東京に戻るのに、あと何時間かかるのかわからないこの状況は、お前にとって楽しくはないのかと聞いている」
「………この状況が?」
「そうだ」
「うーん」
「………」
「楽し……くない、こともないが」
「そうか」
「ああ」
「………」
「………」
「車で出掛けたかったのは」
「ん?」
「うん」
「何だよ」
「渋滞がわかってても、車で出掛けたかったのはな」
「ああ」
「………当麻」
「聞いてるよ。だから何だよ」
「車で出掛けたかったのは、お前とこうして二人きりになりたかったからだ」
「………あん?」
「だから」
「………」
「電車では、どうしたって人目がある」
「ああ」
「人目があるところでは、お前に好きだと思いを告げることも、手に触れることもできないではないか」
「………は?」
「そういうことだ。私は渋滞でも、たとえこのまま今日中に東京には戻れなかったとしても、お前と二人なら、それもまた楽しい」
「………え?」
「もう言わん。わかったら黙って寝ていろ」
「……何? お前、今、何て言った?」
「頼むから寝てろと言っているのだ! その減らない口を閉じてさっさと寝ていろ‼︎」
「いや、でも、え?」
「お前は今、楽しいのか、楽しくないのか、どっちだ!?」
「そんな剣幕で怒るなよ」
「怒ってない!」
「楽しい、よ。………あれ、あの、多分」
「………」
「………と、思う」
「なら今日はもういい。恥ずかしいから、もう寝ていてくれ。これ以上喋るな」
「ああ………」
「………」
「………あの、さ………征士」
「なんだ!!?」
「いや、あの、俺、さ」
「…………何だ」
「………便所、行きたいんだけど」
「はぁ?」
「ションベンだよ。サービスエリアまでもたないかも……」
「温泉上がりに牛乳を三種類も飲むからだろう」
「………すまん」
「だからあれほど言ったのだ。これから車で帰るのだからと……」
「お前こそ、今更どうしようもないこと言わないでくれよ。ああ、もうダメかも……」
「子どもか!」
「子どもでも何でもいい! 停めて! 路肩に停めて! 早く!」
「…………」
「ああああ」
「…………ほら、早くしてこい!」
「サンキュ、待ってて」
「当たり前だ。こんなところに置いていけるか。……………………。……………………」
「………ふー。危なかったー」
「間に合ったか」
「おう。ありがとうな」
「早くシートベルトをしろ………。出すぞ」
「うん。………ああ、また何台分も遅くなっちゃったな」
「そうだな」
「あのさ、征士」
「なんだ」
「ありがとうな、今日、誘ってくれて」
「ああ」
「さっきも言ったけど、すごく楽しかったし、嬉しかった」
「ああ」
「さっきの言葉も………」
「………」
「俺、嬉しい、気がする。お前がそう言ってくれるの。………うん」
「そうか」
「ああ」
「小便をしながら考えたのか」
「何を?」
「返事を」
「や、考えたって言うか、………気づいたって言うか。……あ。別にションベンは関係ないぞ?」
「………それは良かった」
「………」
「………」
「………でさ、悪いんだが」
「なんだ」
「寝てもいいか? 俺も今、恥ずかしいし、眠い」
「………わかった」
「恥ずかしくなくなったら、起きるから」
「………何だそれは」
「あ、起きなくても、着いたら起こしてくれよ」
「はは。………わかった。おやすみ」
「………おやすみ」
「………」
「………」
おわり
**********
征士さん、運転頑張ってね!
PR
index / what's new
(10/10)
(05/16)
(04/24)
(01/14)
(06/26)
(04/30)
(04/17)
(04/16)