たいいくのひ
since November 22th 2012
【070】pockey
11月11日です。
ポッキーの日。
緑青。
**********
「何だ、これは」
「何って、見たまんまだろう。ポッキーだ」
征士が呆れ顔で見下ろすリビングのローテーブルには、似たようなパッケージのチョコレート菓子の箱が幾つも置かれている。よく見ると太かったり細かったり、かかったチョコにナッツが混ざっていたり、チョコの色がピンクだったりする。
「さすがの私でもそれはわかる。聞いているのは、なぜこんなにたくさんのポッキーが、ここにあるのかということだ」
当麻は一つ開かれたパッケージから、こぼれ出している一本を摘み上げて、口に入れる。
「ああ、もらったんだ。会社の子に。俺が甘党なの有名だからさ。知ってるか? 征士。今日はポッキーの日なんだ」
「ポッキーの日……」
会社から帰ったばかりの征士は、ネクタイを緩めながらポッキーの箱の一つを取り上げて、しげしげと眺める。
「今日は11月11日だろ。1が四つ。長い棒がたくさん並んでいるからな。それがポッキーのようだと言うんだろう」
「なるほど」
そのぞんざいな征士の返答からは、菓子メーカーの熱心な広報活動にはまったく関心がないことがありありとわかる。手に取った箱を、またぽんとガラスのテーブルの上に放り、征士は着替えのために自室へ向かおうと踵を返しかける。
「おい」
当麻は呼びとめてから、ポッキーのチョコのかかっていない部分を口に咥える。そして、ちょんちょんとチョコのかかったポッキーの先を征士に指して見せた。
「なんだ」
振り返った征士は、当麻の仕草に形の良い両の眉を少し上げた。ネクタイをすっかり外してテーブルに投げ置くと、ワイシャツのボタンを二つ外し、当麻の前にかがんで、誘われるままにポッキーの先端を咥える。
当麻は今度は差し出した人差し指を自分の方に向けて、ちょいちょいと曲げて見せ、おいでおいでの合図をする。
ぽり、ぽり、ぽり。
両方の端からポッキーは短くなり、すぐに唇と唇が軽く触れる。
途端、当麻は両手で征士の肩を押し戻した。
「はい、残念ー」
「なんだ」
悪戯に笑う当麻に、憮然とした征士の顔。
「ポッキーゲームは、キスしちゃったら負けだろう」
「ポッキーゲーム?」
「お前、やったことないのか? 合コンでな、何組かの男女でやるんだ。キスをしちゃったら負けなんだけど、限りなく短くできたペアが勝ち」
「ほう」
「もういっちょ、いくか?」
征士の負けず嫌いが、ポッキーゲームに挑み甲斐を見出したのを見てとって、当麻は笑う。そしてもう一本ポッキーを袋から取り出すと、口に咥えた。器用に唇でひょいひょいとポッキーの先を上下させ、また征士を誘う。
征士は当麻の頭を挟むように、ソファの背に両手をつく。当麻の耳元でぎしり、と革の軋む音がする。征士は、今度はさっきよりも慎重にポッキーを齧っていく。
ぽり、ぽり、ぽり。
「どうだ」
征士の顔が離れると、当麻の口には三センチほどのポッキーが残った。当麻はそれを指で摘んで征士に目の前で振って見せると、ぽいっと自分の口に放り込んだ。
「そうそう。こんな感じ。でもこんなに長く残しちゃゲームは盛り上がらないし、優勝できないぜ?」
当麻はわざと挑戦的な目で、挑発するように征士を見る。征士もわかっていて、それに乗る。
「では、もう一本」
今度は征士がポッキーを出して口に咥える。咥えたのとは逆の先を当麻の口に近づけると、当麻がそれにパクリと食いついた。
ぽり、ぽり、ぽり、ぽり。
もう少しで唇が触れる、すんでのところで征士がポッキーを咥えたまま顔を離す。そしてゆっくりと摘み出したポッキーは、長さ約二センチ。
「さっきよりも、短くなったな」
得意満面の征士に、思案顔の当麻。
「うーん。唇の先から歯までの距離を考えると、この辺りが限界か」
当麻は征士の指先のポッキーを、ひょいと摘み上げると、また自分の口に放り込んだ。
「次はこれな」
当麻は今度はピンク色の一本を取り出すと、また口に咥えて、征士に向かって突き出す。征士はそれを咥え返すと、軽く眉をしかめた。
ぽりぽりぽりぽり
当麻がテンポ良く、ピンク色のポッキーを短くしていく。そしてギリギリまで十分短くなったポッキーを口から離そうと、唇を開きかけた瞬間。
「んん!」
征士が当麻の唇を噛み付くように塞いで、自分の口に僅かに残ったポッキーの先端ごと、舌を当麻の中に押し込む。当麻はイチゴ味のそれを、唇を塞がれたまま慌てて飲み込んだ。
そのまま、甘くて深いキス。キス。そして、ようやく、征士が離れる。
「まったく。我慢のきかない奴だな」
当麻がイチゴの香料の匂いのするため息をつく。
「甘すぎてかなわん。ゲームは終わりだ」
征士は当麻のすぐ隣にドサリと掛けた。ポッキーの箱とともにテーブルにあった、当麻の青いマグカップを手に取る。底に少しだけ残っていたコーヒーを一口流し込むと、また当麻の髪に両手を差し入れて、また熱いキスをする。
「合コンとやらで、ゲームにかこつけて女とキスをしたのか?」
冷めたコーヒーで打ち消しきれない、甘いキスの合間に征士が呟く。
「さて、どうでしょう」
当麻もそっと征士の背中に、腕を回す。
おわり
ポッキーの日。
緑青。
**********
「何だ、これは」
「何って、見たまんまだろう。ポッキーだ」
征士が呆れ顔で見下ろすリビングのローテーブルには、似たようなパッケージのチョコレート菓子の箱が幾つも置かれている。よく見ると太かったり細かったり、かかったチョコにナッツが混ざっていたり、チョコの色がピンクだったりする。
「さすがの私でもそれはわかる。聞いているのは、なぜこんなにたくさんのポッキーが、ここにあるのかということだ」
当麻は一つ開かれたパッケージから、こぼれ出している一本を摘み上げて、口に入れる。
「ああ、もらったんだ。会社の子に。俺が甘党なの有名だからさ。知ってるか? 征士。今日はポッキーの日なんだ」
「ポッキーの日……」
会社から帰ったばかりの征士は、ネクタイを緩めながらポッキーの箱の一つを取り上げて、しげしげと眺める。
「今日は11月11日だろ。1が四つ。長い棒がたくさん並んでいるからな。それがポッキーのようだと言うんだろう」
「なるほど」
そのぞんざいな征士の返答からは、菓子メーカーの熱心な広報活動にはまったく関心がないことがありありとわかる。手に取った箱を、またぽんとガラスのテーブルの上に放り、征士は着替えのために自室へ向かおうと踵を返しかける。
「おい」
当麻は呼びとめてから、ポッキーのチョコのかかっていない部分を口に咥える。そして、ちょんちょんとチョコのかかったポッキーの先を征士に指して見せた。
「なんだ」
振り返った征士は、当麻の仕草に形の良い両の眉を少し上げた。ネクタイをすっかり外してテーブルに投げ置くと、ワイシャツのボタンを二つ外し、当麻の前にかがんで、誘われるままにポッキーの先端を咥える。
当麻は今度は差し出した人差し指を自分の方に向けて、ちょいちょいと曲げて見せ、おいでおいでの合図をする。
ぽり、ぽり、ぽり。
両方の端からポッキーは短くなり、すぐに唇と唇が軽く触れる。
途端、当麻は両手で征士の肩を押し戻した。
「はい、残念ー」
「なんだ」
悪戯に笑う当麻に、憮然とした征士の顔。
「ポッキーゲームは、キスしちゃったら負けだろう」
「ポッキーゲーム?」
「お前、やったことないのか? 合コンでな、何組かの男女でやるんだ。キスをしちゃったら負けなんだけど、限りなく短くできたペアが勝ち」
「ほう」
「もういっちょ、いくか?」
征士の負けず嫌いが、ポッキーゲームに挑み甲斐を見出したのを見てとって、当麻は笑う。そしてもう一本ポッキーを袋から取り出すと、口に咥えた。器用に唇でひょいひょいとポッキーの先を上下させ、また征士を誘う。
征士は当麻の頭を挟むように、ソファの背に両手をつく。当麻の耳元でぎしり、と革の軋む音がする。征士は、今度はさっきよりも慎重にポッキーを齧っていく。
ぽり、ぽり、ぽり。
「どうだ」
征士の顔が離れると、当麻の口には三センチほどのポッキーが残った。当麻はそれを指で摘んで征士に目の前で振って見せると、ぽいっと自分の口に放り込んだ。
「そうそう。こんな感じ。でもこんなに長く残しちゃゲームは盛り上がらないし、優勝できないぜ?」
当麻はわざと挑戦的な目で、挑発するように征士を見る。征士もわかっていて、それに乗る。
「では、もう一本」
今度は征士がポッキーを出して口に咥える。咥えたのとは逆の先を当麻の口に近づけると、当麻がそれにパクリと食いついた。
ぽり、ぽり、ぽり、ぽり。
もう少しで唇が触れる、すんでのところで征士がポッキーを咥えたまま顔を離す。そしてゆっくりと摘み出したポッキーは、長さ約二センチ。
「さっきよりも、短くなったな」
得意満面の征士に、思案顔の当麻。
「うーん。唇の先から歯までの距離を考えると、この辺りが限界か」
当麻は征士の指先のポッキーを、ひょいと摘み上げると、また自分の口に放り込んだ。
「次はこれな」
当麻は今度はピンク色の一本を取り出すと、また口に咥えて、征士に向かって突き出す。征士はそれを咥え返すと、軽く眉をしかめた。
ぽりぽりぽりぽり
当麻がテンポ良く、ピンク色のポッキーを短くしていく。そしてギリギリまで十分短くなったポッキーを口から離そうと、唇を開きかけた瞬間。
「んん!」
征士が当麻の唇を噛み付くように塞いで、自分の口に僅かに残ったポッキーの先端ごと、舌を当麻の中に押し込む。当麻はイチゴ味のそれを、唇を塞がれたまま慌てて飲み込んだ。
そのまま、甘くて深いキス。キス。そして、ようやく、征士が離れる。
「まったく。我慢のきかない奴だな」
当麻がイチゴの香料の匂いのするため息をつく。
「甘すぎてかなわん。ゲームは終わりだ」
征士は当麻のすぐ隣にドサリと掛けた。ポッキーの箱とともにテーブルにあった、当麻の青いマグカップを手に取る。底に少しだけ残っていたコーヒーを一口流し込むと、また当麻の髪に両手を差し入れて、また熱いキスをする。
「合コンとやらで、ゲームにかこつけて女とキスをしたのか?」
冷めたコーヒーで打ち消しきれない、甘いキスの合間に征士が呟く。
「さて、どうでしょう」
当麻もそっと征士の背中に、腕を回す。
おわり
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