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【066】引越し

私は12RTされたら、緑青の「……お前のこと、幸せにできるかな」で始まるBL小説を書きます!d(`・ω・)b http://t.co/9NCvFeervA
萌えましたー///


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安っぽいアルミのフレームの薄いドアを閉めると、外通路に面した流しの上のすりガラスの窓には夕焼けの名残が赤く映り、四畳半ほどの狭い食堂に積み上げられた段ボール箱がオレンジ色に染まって見える。

「やれやれだ」

食堂から繋がる二つの小さな部屋は、どちらも家具を置いた跡だけ色の違う、擦り切れた畳が敷かれている。
片方の部屋にだけ天井から吊り下げられた丸い蛍光灯の照明が残されていて、当麻はみしりと音を立てて部屋に入ると下がっている延長の紐を引き、灯りを点けた。
しばらくして灯った青白い光は、またすぐに不規則な点滅を始める。

「買わなければならないものが、色々とありそうだな」

「そうだな。何はなくともこの部屋と、そこくらいには灯りが欲しいな」

食堂から呼びかけた征士の声に、当麻の声が答える。

「裸電球でも何でもいいがな。どうせ寝に帰ってくるだけだ」

「裸電球なんて、今でも売ってるのかね。布団もいるからなぁ。とりあえずの一組で今夜は我慢するにしても、いつまでもそういうわけにもいかないからな」

「そうか? ずっと一組でもいいのではないか?」

征士の軽口に当麻が笑う。

「今日は疲れただろう。水だけは出るがガスは明日だ。銭湯へ行くか」

そう言いながら征士は、一番上に積まれた箱の中をゴソゴソと物色する。

「ああ」

蛍光灯の紐をまた二、三度引いて灯りを消すと、当麻はまたミシミシと音を立てて征士の隣を通り過ぎ、トイレのドアを開けて中を覗き、また閉める。
箱の中からタオルと着替えを出している征士の背中のオレンジ色が、もう随分と暗くなってきた。

「……お前のこと、幸せにできるかな」

呟くような当麻の声に、征士は顔を上げる。

「俺さ、お前のこと、幸せにできるかな」

もう一度同じことを呟いて、当麻は征士の頭に、自分の頭をコツンとぶつけた。

「幸せに? お前が、私を?」

自分より少しだけ高いところにあるが、しかし幾分細い肩に、征士はそっと両腕を回す。

「うん」

甘えるように、当麻は抱き返す。

「何を心配している? もう充分、してもらっている」

「……そうか」

「……そうだ」

十分な灯りも、冷蔵庫も、暖かなベッドも、何ひとつない部屋で。
家族にも、何でも分かち合ってきた仲間達にも、まだ何ひとつ伝えられないままで。
二人の生活は、これから始まる。



おわり

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昭和だわね(笑)
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