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【061-02】好奇心 後編

こちらのつづきです。
【R18】です。


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仕事が早く片付いたので打ち上げの開始も繰り上がり、予定より随分と早めの帰宅となった。
当麻はもう夕飯は済ませてしまっただろうが、この時間からなら夜長を一緒にのんびり過ごせるだろう。
大仕事が一段落した開放感もあって、征士は上機嫌だった。

マンションの鍵を開けて、ドアを開く。
暖かい空気と明かりが征士を出迎える。

「ただいま」

と、声を発する。
しかし、普段ならリビングにいても自室にいても、トイレや浴室にいたとしても必ずかかる「おかえり」という当麻の声が聞こえない。

どうしたのだろう。
「ただいま」
と様子を伺いながら、廊下を抜けてリビングのドアを開けると、ソファに当麻がうずくまっているのが目に入った。

「当麻⁉︎」

鞄を床に打ち捨て、コートを脱ぎながら征士は当麻の元に駆け寄る。

「お……かえり…」

うずくまったまま何とか征士の方に向けた当麻の額には汗で髪が張りつき、青い瞳が潤んで、紅潮した頬には涙の跡が。

「どうしたのだ、当麻。具合が……」

征士が丸めた背に指先を触れると、

「んあっ」

という小さな叫びとともに当麻の身体がビクリと動いた。

「どこか痛いのか? 腹か?」

「せーじ……抱いて……」

「……??」

絞り出すように吐き出された言葉の意味が理解できず、征士はもう一度当麻の顔を見る。

「早く……お願い……」

「何だというのだ? 一体……」

「これ……飲んだ……」

当麻の震える指が示すテーブルの上には、茶色い小瓶。

「何だ、これは」

征士は瓶を手に取るが、そこには何の情報も記されてはいない。

「媚薬……みたいだ」

「媚薬⁉︎」

耳慣れないその単語。しかしさっき当麻の口から出た「抱いて」という言葉が結びついて、征士の頭の中で形をとり始める。

「こんなもの、どこで手に入れた?」

「………」

当麻が時々行くという聞き覚えのある小料理屋の名前。

「どうしてこんな怪しげなものを飲んだ?」

「飲んだら……ぁ……どうなるのか…知りたくて……」

征士は深いため息をついた。

「救急車を呼ぶか」

命に別状がありそうなら、当麻はとっくに自分でそうしているだろうと思いながら、もうすっかりと落ち着いた口調で征士は尋ねた。

「いらない…。多分、一回で、中毒には、ならない。…早く…ぅ…何とかして……くれ…」

息も絶え絶えな当麻の両肩に手をかけて、征士はうずくまる当麻の身体を起こし、背もたれに背中を預けさせる。
当麻の口元から、唾液が糸を引いて落ち、虚ろな瞳がのろのろと征士を見た。

「お前の好奇心は、そのうちお前を殺すな」

征士は半歩下がり、腕を組んで当麻を見下ろす。

「自分のやらかしたことの落とし前は、自分でつけた方がいい」

そう言って静かに微笑んだ。



引き起こされ、座らされた当麻はジーンズの前をはだけさせ、中途半端に下げられたトランクスから取り出された自身だけが持ち主の意に関係なく、勢いよく反り返っている。
自分で慰めたのだろう、幾度か精を放った痕跡が、セーターの腹やジーンズに付着している。

「征士……」

当麻が懇願する目で見上げても、征士はじっと目を合わせるだけで動かない。
当麻は征士の目の前で、もう一度右手の指先を自身に這わせた。

「ふ……ぅあっ」

触れただけで相当の刺激があるのだろう。
指先が弾かれたように跳ねる。

「ん……んん……っ。あ」

それでも我慢できずに親指と中指、薬指で屹立を挟んでこすりあげる。
指が上下するだけで、普段の征士との情交では我慢してしまってほとんど上げることのない艶めいた吐息が口からこぼれ落ちる。

「あ、あ、ああ、ああ、征士…っ」

征士はただ黙って当麻を見下ろしている。
その視線を感じるだけでも、当麻は達してしまいそうになる。

「征士っ、征士……ああ、あ、あああ!」

当麻の身体が弓なりに仰け反り、吐き出された白濁は弧を描いてガラスのテーブルに落ちた。

「自分でするのは気持ちがいいか?」

頭の上から降りてくる低く落ち着いた征士の声に、当麻はかぶりを振る。

「ダメ…なんだ…。征士じゃないと……」

「私にどうしろと?」

「いつもみたいに……」

「いつも? いつもどうしていたかな、私は」

わざと意地悪を言って楽しむ恋人を当麻は睨みつけようとするが、もう眼差しにさえ力は入らない。

「頼むよ、征士。俺、死んじゃう………キスして………」

征士はまた軽くため息をついて、当麻の隣に腰掛ける。

「あまり心配させないでくれ」

うんうん、と当麻がうなずく。
その肩を抱き寄せてそっと唇を寄せると、当麻は征士に紅く濡れた唇を夢中で押し付ける。
開いた唇の間から舌を差し入れて歯の裏を舐め上げると、当麻の背中がびくん、びくんと震えた。
音を立てながら散々に舌を絡め、糸を引きながら離れる。

「それから? どうすればいい?」

「俺のこと触って。いつもみたいに」

本当に辛いのか、興奮のためなのか、当麻の頬にまた涙がこぼれる。

「触るだけでいいのか?」

征士の指先が当麻の反り返った先端に優しく触れると、透明な粘液で濡れそぼつそこからは途端に僅かばかりの精液が吐き出され、当麻が小さく喘ぐ。

「いいわけないだろ。……入れて欲しいんだ。早くこれ……」

そう言いながら、当麻は既に熱く持ち上がった征士のスーツのズボンの前をまさぐる。

「これとはなんだ?」

そんな征士の意地悪な声も、熱と湿り気を帯びていて。

「お前が欲しいんだ。征士」

当麻は涙と汗と唾液とでぐしゃぐしゃになった顔をまっすぐに征士に向けて、言った。
征士はそれを聞いて微笑むと、両方の手で当麻の頬を包み、親指の腹でそっと涙を拭い、もう一度軽く口づけた。

そしてゆっくりとソファに当麻の身体を倒した。




これだけは当麻の予測の通り、約二時間で薬の効果は切れた。
恋人になってから数年、初めて当麻から積極的に求められた征士は、もちろんいつもの何割か増しで欲望を当麻にぶつけた。

「シャワーぐらい浴びた方がいい」

「無理……」

おそらく本当に疲労困憊なのだろう。
大儀そうにソファにうつ伏せになっている全裸の恋人を、征士は苦笑いで見下ろす。
そしてテーブルの上の小瓶を手にすると、ニヤリと笑う。

「無理ならもう一度、この薬をもらってきてやろう。飲めば風呂に入る元気ぐらい出るのではないか?」

それを聞いて当麻は、がばっと首だけを上げて征士を見る。

「勘弁してくれ……。懲りました」

そしてまたぱったりと、ソファにその顔をうずめた。

後で蒸しタオルでも作って拭いてやらなくてはならないか。
どこまでも世話の焼ける男だ。

そんなことを考えながら、征士は鼻歌交じりでバスルームのドアを開いた。






おわり

**********


世話の焼ける男ですわー。
ほんと。
征士さん大変ね!
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