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【061-01】好奇心 前編

媚薬があったら、征士さんと当麻の場合、
①二人が合意で飲む?
②征士さんが隠して飲ませる?
③それとも……

③な緑青です。【R18】だー。



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**********


「さて、と……」

腰を下ろすと絶妙な深さで沈み込む、お気に入りのソファに座り、当麻は掌にすっぽりと収まる小さな瓶を手にとった。
栄養ドリンクが入っていそうな、よくあるタイプの茶色い小瓶は、銀色の素っ気ないキャップが未開封であることを知らせながらしっかりと閉まっている。
ラベルはない。
当麻はリビングの天井から下がる明かりに瓶を透かして見た。
未開封なら瓶の口の方まで入っているのが普通だと思われる内容物の液体は、しかし瓶の六割方しか入っていない。
キャップの部分を持ってそっと揺らすと素直にその液体も揺れる。
粘度は高くないらしい。

大型のテレビとソファの間に置かれたガラスのローテーブルの上には、当麻が何くれとなく雑多なことを書き込むための小さな手帳が、新しいページを晒して開かれている。
その隣には何かの販促品のボールペン。

当麻は瓶を左手に持ち替え、壁の時計を見る。
土曜日の午後八時の数分前。
征士は今日は出勤で、何かの打ち上げがあり飲んで帰ってくるとのことだった。
いつもの通りなら少しだけ酔って、おそらく十時頃には帰ってくるのだろう。

効果はどのくらいあるのだろうか。
いや、効果などほとんどなくて、強い酒の類にそれらしき風味が付けられているだけではないだろうか。
「これ。ヤる前にさ、兄ちゃんのコレに飲ましてみな」
行きつけの小料理屋の板前が、女将がカウンターを外した隙にそっと、当麻に小指を立てて見せながら面白半分にくれたものだ。
征士がいない晩に一人でよく夕食を済ませに行く店で、他愛のない世間話などはよくするのだが、当麻の恋人が実は男であり、有り体に言ってしまえば当麻はヤる側ではなくてヤられる側であることなど、下世話で気のいい板さんは知る由もない。
しかも当麻の恋人に媚薬は必要ない。
当麻に言わせれば、いざという時に欲求を抑える薬が欲しいくらいなのだ。
で、性的欲求は比較的(比較の対象が悪いとも言うが)淡白な方だが知的好奇心は無駄に有り余っている当麻は、その薬を恋人に使うわけにはいかないが、かと言って放ってはおけずに、恋人不在時に自分で試してみることになる。

媚薬だと思って飲めば酔った上で、精神的にその辺りのタガが外れて楽しめる、そんなようなものなのであろうというのが、当麻の予想だった。
このくらいの量のアルコールなら、どんなに強くても二時間で程よく冷めるだろう。
もし何か、それらしき効果が少しでも出るのであれば、その効果は飲んでからどのくらいで、どのように現れるのか。
その辺りを記録でもしておこうという、当麻らしい、ちょっとした遊びだ。

カチリ。
開封しながら、もう一度時計を見る。
瓶の口を鼻に近づけると、薬っぽい独特の匂いがする。
舌先でほんの少し舐めると、かなり苦そうだ。
「あんまり美味いもんじゃないからな。美容にいいとか何とか言って、一気に飲ましちゃいな」
板さんの言葉を思い出す。
長針と秒針が12の文字に合わさった瞬間、当麻は一息に小瓶の中身を煽った。

馬鹿げたバラエティ番組で、罰ゲームに飲まされる苦い飲み物はこういうものなのだろうか。
そのくらいの強烈な苦味が当麻の口内を経て喉を過ぎて行く。
「うえぇええ」
当麻は思い切り顔をしかめた。
心地よいとはとても言えない臭気が鼻から抜ける。
冷蔵庫で冷やしておいたわけでもないのに、妙な冷たさが胃に到達する。
アルコールなら胃壁からすぐに吸収されるはずだ。
効果は現れるのか、現れないのか。
時計はまだ秒針が15秒を刻んだところ。
そして20秒。

そこからは急転直下。
いきなり身体中がカッと熱くなり、額に汗が浮かぶのが自分でわかった。
指先までが熱く痺れてくる。
心臓の鼓動が早い。
脈はどのくらい上がっているのだろう。
一瞬そんなことも頭をよぎるが、すぐに消し飛んでいく。
熱さの次に気づく圧迫感。
ジーンズの前がキツい。
当麻は慌ててベルトを外しにかかり、
「うっ…」
小さく呻いてその指をバックルから離した。
指先がバックルに触れただけで、背中に電気が走ったような。
それだけでイってしまいそうな強い刺激。
しかし沸騰した身体中の血液が集まって、今にも爆ぜてしまいそうなそこをそのままにしておくわけにはいかない。
何でもいい、とにかくそこに刺激が欲しい。
「あぁ……く……そっ……ん……ぁっ」
ベルトの先をバックルから抜こうとするが、上手く力が入らない。
「……ダメだっ」
当麻は頭で考えた全てを諦めて、ジーンズの上から膨らみ切ったそこを両手で乱暴にゴシゴシとこすりあげた。
「うぁあっ……」
下着の中に広がるだろう嫌な生暖かさを感じる間もなく、快楽の渦に飲み込まれる。

吐き出した直後に安堵の一瞬があったことに当麻は思わず感謝していた。
荒い息を吐きながら、すぐにまたベルトを外しにかかる。
ちらりと見遣った時計はまだ3分に達していない。
おぼつかない指先を何とか使ってベルトを外し、ファスナーを下げたところでまた次の波に飲み込まれる。
なりふりなど構ってはいられない。
今度は濡れた下着越しの刺激であっという間に欲望を吐き出す。
そして今度は、射精直後の空白が生まれないことに愕然とする。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
あとどのくらい続くのか。


体内をを駆け回る嵐に翻弄されながらも、一番はじめの強烈な感覚が最高地点で、時間が経つに連れて少しずつでも収まって行くものだと思った。
それなのに身体の芯から湧き上がる、とめどなく狂おしい欲求はジワジワと一方通行で高まって行く。
自ら欲しがる間もなく求めてくれる恋人がいるおかげで、自分で自分を慰めることにほぼ縁がない当麻の身体は必然的にその恋人を求める。

「征士……っ」

自らの手でこすりあげ、射精するだけでは満たされない。
欲しい。
身体の隅々まで愛撫してくれる指、掌、舌。
欲しい。
身体を刺し貫いて高みに連れて行ってくれる熱い楔。
欲しい。

「う……あぁ…早く……帰ってきて……征士」

気を失ってしまいたいほどの狂おしいのに、それも叶わない。
当麻は征士のことだけを思いながら、自分の肩を抱いてソファに転がった。

がちゃり。

玄関のドアの開く音が、遠くから聞こえた。












後編につづく

**********


なんだかもう少し、征士さんに意地悪をさせたくなったので。
続きは少々お待ちください。


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