たいいくのひ
since November 22th 2012
【057】さみしくなんかない
Twitterのタイムラインでお見かけした光闇のszsrさんがあまりにも可愛らしくてですね!
そのネタで緑青書く私です(笑)
**********
ここのところ征士の仕事は忙しいらしく、毎晩のように帰りが遅い。
元々頑丈な男なので身体のことはあまり心配にはならないし、商売繁盛は結構なことだ。
今晩も夜半を過ぎても戻らないので先に寝ていたら、いつの間にか帰ってきた征士は俺のベッドに潜り込んできていた。
いつもならそんなことで起きる俺ではないのだが、息苦しくて目が覚めた。
物凄い力で締め上げられ……いや、きっとこれは後ろから抱きしめていただいているのだとは思うのだが。
「死ぬ。加減しろ」
そう言って、回された腕に軽くかぶりついてやると、
「明日から出張に行かなくてはならんことになった。一週間だ」
ほんの少しだけ力を緩めながら、この世の終わりのような声で征士は言った。
「ふうん。どこ?」
泊まりの出張などほとんどないのに、珍しいこともあるものだ。
「福岡だ。あっちの事務所が急に忙しくなって人手が必要になってな。応援に若手が行けということになってしまったのだ。ついて……来ないよな?」
「俺が?」
「ああ」
在宅でネットを使って仕事をしているのだから都合がつけやすいといえばそうなのだ。
実際、何年か前にも征士が東北に半月ほど研修で出張することがあったのだが、その時は一緒に行ってウィークリーマンションで過ごした。
が、今回は余りにも急だ。
特に今週は都内で打ち合わせやら取材やらが入っていて、遠くに出かけてしまうわけにはいかない。
「行かねぇよ。仕事、仕事」
「だよな……」
明らかに落胆している征士が可愛くはある。
後ろ向きに抱かれたまま、すぐ後ろにある征士の頭に手を伸ばし、その頭をグシャグシャと撫でまわしてやる。
うちのシャンプーの匂いがする。
「当麻はさみしくないのか。一週間だぞ?」
いい歳をした男が何を言っているのか。
口うるさいのが留守となれば、思う存分怠惰な暮らしができるというもんだ。
「さみしいわけあるか。アホタレ。頑張ってこいよ」
そう言ったら身体の向きはそのままに、無理に顔を上に向けさせられて。
痛ぇよ、ばかやろなんて言っているうちに強引に口で口を塞がれて。
その先は、まぁ、それなりに。
一週間も当麻に会うことができないなどということは、中三の春に出会ってからこれまで一度もなかったのではないだろうか。
仲間と共に小田原で同居していた時はもちろん、別々に一人暮らしをしていた学生時代だって、三日と開けずに会っていたと思う。
そしてその学生のうちにまた同棲生活に入り、社会人になった。
入社してすぐに東北で半月の研修を命じられた時には思わず辞表を書いて提出しそうになってしまったが、見かねた当麻が仕事を工面してついてきてくれた。
当麻が十日間の取材旅行に海外へ行くことになった時も、日程の真ん中に三日間、旅先へ私が訪ねて行った。
片道二十時間かかるところに二泊三日で来るなんて、ひどい金の無駄遣いだと当麻には呆れられたが。
早く終われば早く帰れる。
福岡の事務所で私は、とにかく最大限の能力を発揮したと思う。
いつでも真面目に働いていたつもりではあったが、今まで繋がっていなかった脳の回路が繋がったのかと思うくらいに、段違いに仕事がはかどった。
出先の事務所の所長が、東京の事務所に電話で礼を言っているのが聞こえてきた。
「伊達くんは実にいいね。何年かこちらに寄越してくれないか」
………。
一瞬開いた脳の回路を閉じてしまおうかとも考えたが、当面は一日も早く帰りたい。
九州に転勤などということになったら、また辞表を書けばいいだけのことだ。
ともかく死に物狂いで頑張って、予定より一日早い六日目の夕方にすべての仕事を終わらせた。
残りの一日で褒美代わりに接待してくれるという話も丁重に断り、最終の飛行機に飛び乗った。
タクシーでマンションに着いたのは夜半過ぎ。
当麻はもう眠ってしまっただろうか。
玄関のドアを静かに開くと、ほのかに酒の匂い。
一人で飲むとは珍しい。
テーブルの上には時々当麻が飲むビールの空き缶ではなく、私が飲んでいる日本酒の瓶と、最近凝っているつまみの袋が開けっ放しになっていて。
そっと寝室を覗くと、当麻のベッドには誰もいない。
そして私のベッドには。
「さみしかったのだろう」
呟いて、思わずニンマリとしてしまった。
私の酒を飲んで私のベッドで眠っている当麻は、ご丁寧に私のパジャマまで着込んでいて。
明日にはきれいに片付けるつもりなんだろうか。
その寝顔をつついて起こし、その計画を洗いざらい白状させたい衝動に駆られたが。
ここはぐっと我慢して、先に風呂に入ることにした。
夜はまだ長い。
明日は休暇をとっても文句は言われないはずだ。
その先は、まぁ、それなりに。
おわり
**********
可愛い当麻なのでした。
うふふ。
そのネタで緑青書く私です(笑)
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ここのところ征士の仕事は忙しいらしく、毎晩のように帰りが遅い。
元々頑丈な男なので身体のことはあまり心配にはならないし、商売繁盛は結構なことだ。
今晩も夜半を過ぎても戻らないので先に寝ていたら、いつの間にか帰ってきた征士は俺のベッドに潜り込んできていた。
いつもならそんなことで起きる俺ではないのだが、息苦しくて目が覚めた。
物凄い力で締め上げられ……いや、きっとこれは後ろから抱きしめていただいているのだとは思うのだが。
「死ぬ。加減しろ」
そう言って、回された腕に軽くかぶりついてやると、
「明日から出張に行かなくてはならんことになった。一週間だ」
ほんの少しだけ力を緩めながら、この世の終わりのような声で征士は言った。
「ふうん。どこ?」
泊まりの出張などほとんどないのに、珍しいこともあるものだ。
「福岡だ。あっちの事務所が急に忙しくなって人手が必要になってな。応援に若手が行けということになってしまったのだ。ついて……来ないよな?」
「俺が?」
「ああ」
在宅でネットを使って仕事をしているのだから都合がつけやすいといえばそうなのだ。
実際、何年か前にも征士が東北に半月ほど研修で出張することがあったのだが、その時は一緒に行ってウィークリーマンションで過ごした。
が、今回は余りにも急だ。
特に今週は都内で打ち合わせやら取材やらが入っていて、遠くに出かけてしまうわけにはいかない。
「行かねぇよ。仕事、仕事」
「だよな……」
明らかに落胆している征士が可愛くはある。
後ろ向きに抱かれたまま、すぐ後ろにある征士の頭に手を伸ばし、その頭をグシャグシャと撫でまわしてやる。
うちのシャンプーの匂いがする。
「当麻はさみしくないのか。一週間だぞ?」
いい歳をした男が何を言っているのか。
口うるさいのが留守となれば、思う存分怠惰な暮らしができるというもんだ。
「さみしいわけあるか。アホタレ。頑張ってこいよ」
そう言ったら身体の向きはそのままに、無理に顔を上に向けさせられて。
痛ぇよ、ばかやろなんて言っているうちに強引に口で口を塞がれて。
その先は、まぁ、それなりに。
一週間も当麻に会うことができないなどということは、中三の春に出会ってからこれまで一度もなかったのではないだろうか。
仲間と共に小田原で同居していた時はもちろん、別々に一人暮らしをしていた学生時代だって、三日と開けずに会っていたと思う。
そしてその学生のうちにまた同棲生活に入り、社会人になった。
入社してすぐに東北で半月の研修を命じられた時には思わず辞表を書いて提出しそうになってしまったが、見かねた当麻が仕事を工面してついてきてくれた。
当麻が十日間の取材旅行に海外へ行くことになった時も、日程の真ん中に三日間、旅先へ私が訪ねて行った。
片道二十時間かかるところに二泊三日で来るなんて、ひどい金の無駄遣いだと当麻には呆れられたが。
早く終われば早く帰れる。
福岡の事務所で私は、とにかく最大限の能力を発揮したと思う。
いつでも真面目に働いていたつもりではあったが、今まで繋がっていなかった脳の回路が繋がったのかと思うくらいに、段違いに仕事がはかどった。
出先の事務所の所長が、東京の事務所に電話で礼を言っているのが聞こえてきた。
「伊達くんは実にいいね。何年かこちらに寄越してくれないか」
………。
一瞬開いた脳の回路を閉じてしまおうかとも考えたが、当面は一日も早く帰りたい。
九州に転勤などということになったら、また辞表を書けばいいだけのことだ。
ともかく死に物狂いで頑張って、予定より一日早い六日目の夕方にすべての仕事を終わらせた。
残りの一日で褒美代わりに接待してくれるという話も丁重に断り、最終の飛行機に飛び乗った。
タクシーでマンションに着いたのは夜半過ぎ。
当麻はもう眠ってしまっただろうか。
玄関のドアを静かに開くと、ほのかに酒の匂い。
一人で飲むとは珍しい。
テーブルの上には時々当麻が飲むビールの空き缶ではなく、私が飲んでいる日本酒の瓶と、最近凝っているつまみの袋が開けっ放しになっていて。
そっと寝室を覗くと、当麻のベッドには誰もいない。
そして私のベッドには。
「さみしかったのだろう」
呟いて、思わずニンマリとしてしまった。
私の酒を飲んで私のベッドで眠っている当麻は、ご丁寧に私のパジャマまで着込んでいて。
明日にはきれいに片付けるつもりなんだろうか。
その寝顔をつついて起こし、その計画を洗いざらい白状させたい衝動に駆られたが。
ここはぐっと我慢して、先に風呂に入ることにした。
夜はまだ長い。
明日は休暇をとっても文句は言われないはずだ。
その先は、まぁ、それなりに。
おわり
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可愛い当麻なのでした。
うふふ。
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