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【049】朝

なにげない日常。







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久しぶりに実家の夢を見た。

道場で一人朝稽古を終えて母屋に戻ると、台所で母と祖母が朝食の支度をしている。

「おはようございます」と声をかけると、祖母が「おはよう」と言い、母も支度の手を止めてこちらを振り向き「征士さん、おはようございます」と微笑む。
魚の焼ける匂いと、味噌汁の匂い。

「おはよう、征士」と後ろから声がする。
高校の制服を着た弥生だ。
皐月は起きたのだろうか。

食堂ではテーブルで父が新聞を広げている。
今日は遅番なのだな、と思う。
庭で祖父がお気に入りの赤松の手入れをしている。

私は。
この状況からすると、私は中学生くらいなのだろうか。
早く支度をして朝練に行かなくては。
部長が遅れては部員に示しがつかない。

そんなことを考えながら目が覚めた。

魚の焼ける匂いと、味噌汁の匂い。
慌てて時計を見ると、いつもと変わらない時間。


「珍しいな」

起き出して自室を出ると、エプロンをかけた当麻がキッチンに立っている。

「おう。おはよう」

鍋で茹でている何かを菜箸でつつきながら振り返って笑う。

「寝ていないのか?」

「ああ。さっきやっと終わったんだ。寝ようかと思ったけど、ちょうどお前が起きる時間だったからさ。一緒に食おうぜ、朝飯」

締め切りがいくつか立て込んだようで、当麻はここ数日ほとんど寝ないで仕事をしていたらしい。
自分の部屋から出てきたところを見たのは二日ぶりか。
それがひと段落ついたのだろう。
目の下にクマはできているが、清々しい顔をしている。

炊きたてのご飯に焼いた鮭の切り身、茹でた野菜。
ちゃんと具の入った味噌汁。

「もっと簡単なものにすればよかったのではないか?」

「なんかなぁ、身体が欲してたんだよ、ちゃんとしたものを。何日もまともに食べてなかったからな」

もう十年目になる二人の食卓。
当麻が作る平日の朝食は十年でも数える程だが、それでも締め切り前でもなければ大抵食べる頃には起きてくる。
一緒に食べたり、ただ座って話したり、時にはそこで二度寝をしていたり。

「帰りは何時?」

「定時に上がる予定だが」

「じゃ、映画見に行かないか? ほら、こないだ征士も見たいって言ってたろ。あれ」

「疲れているのではないか?」

「これからお前が働く八時間、たっぷり寝かせていただきますから。映画見て、飯食おうぜ。明日休みだろ?」

あと数年もすれば、実家で過ごした時間より当麻との生活の方が長くなるのだなと、ふと思う。
渇望や不安が少しずつ、あたたかい幸せに置き換わっていく。

スーツを着て鞄を持ち、玄関で靴を履く。

「あ、ゴミ。俺が持ってくわ」

「サービスが良すぎて気味が悪いな」

「うーん、今夜は雨かもなぁ。傘持ってけ」

「そうしよう」

ゴミ袋を下げた当麻とエレベーターに乗り込む。
先客だった同じくゴミ袋を下げた年配の女性と挨拶を交わす。

「じゃあなー。頑張ってこいよー」

エントランスであくびをしている当麻に見送られながら。
こんな日常がいつまでも続くようにと願う。






おわり

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夜は雨の中デートです。
映画見てお酒飲んで、お家帰ってうふふふですよー。
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