たいいくのひ
since November 22th 2012
【046-03】another s
s 、 t 、ときて、ラストです。
征当ベースの伸当です。
伸当ですよ!
**********
「俺、頭痛いから残るわ」
当麻が言った。
今日は全員で車に乗って、街まで買い物に行き、昼飯を済ませてこようという話になっていた。
出かけようという間際になって、当麻がそんなことを言い出した。
朝起きた時から、表情がすぐれないとは感じていた。
「僕が残るよ」
「いつものことだ、心配ないだろう」
そう言って私は当麻を見た。
朝よりもずっと青い顔をしていた。
「伸まで残ることはないのではないか? 当麻の頭痛など、付いていたって仕方ないだろう」
言いたい言葉は本当にそれなのか。
玄関を出てから、昨夜部屋の窓から落とした鉛筆のことをふと思い出し、屋敷の裏に回った。
運良く草の上にのっていて、すぐに見つけることのできたそれを手に取ると、開け放たれた二階の窓から声が降りてきた。
「どうして一緒に行かなかったんだよ」
当麻の声。
「何を言っているのさ。そうやって僕を誘っているんだろう?」
伸の声がそう言いながら窓の方へ近づいてきて、思わず屋敷の外壁に身を寄せる。
「脱げよ、当麻」
その声が、とても鋭利に冷たく落ちてきて、窓は閉められた。
何事もなかったようにナスティの車の助手席に乗り込む。
左右に分かれていく木立の景色を眺めながら、目に浮かぶのは伸に命じられた通りに服を脱ぎ、ベッドに横たわる当麻の肢体だ。
その上に、ベッドを軋ませながら伸が乗りかかり、唇を重ねる。
「征士? なぁ! 征士ってば!」
後部座席の遼に声をかけられて我に返る。
「なにボーッとしてるんだよ。あんなこと言って、当麻が心配なのか? 伸がいるんだから大丈夫だろ」
秀の言葉に
「そうだな」
と答える。
「こそこそと当麻に何をしているのだ」
伸に訊ねたのはもう三ヶ月も前のことか。
ナスティに頼まれて伸を探しに二階に上がったが自室にいない。
探して歩いていると、当麻がこもっている書庫から何か聞こえる。
耳を傾けると当麻のうめくような声。
慌ててドアに手をかけようとした瞬間、中から伸の声も聞こえた。
「出すよ…当麻…君の中に」
「あ、あ…あ…!」
悲鳴のような当麻の声が更に聞こえてきて、静かになった。
ドアに手をかけることも、そこから立ち去ることもできなくなった。
数分ほど経ったのだろうか。
ドアが開き、伸が出てきた。
私を見て、少しだけ驚いた表情をして、それからいつもの優しげな笑顔になった。
「どうしたの、征士? 当麻なら中にいるよ」
伸が去ったあと、書庫の中には裸の当麻が寝ているような気がした。
思い切って覗くと、そこにはきちんと服を着た当麻が向こうを向いて立っていた。
「当麻」
呼びかけて振り返った時の、当麻の瞳。
ぞっとするような深い深い青が忘れられなくなった。
直接声を聞くようなことはそれっきりだったが、それからも時々そのようなことがあったらしい気配は感じることがあった。
リビングで、書庫で、当麻と私の部屋で。
夜、隣のベッドで眠る当麻が時々うなされているのは、妖邪との戦いの後遺症だと思っていた。
もしかすると、原因は別のところにあるのではないだろうか。
そんなことを考えながら、当麻の苦しげな寝顔を見遣る。
心配の隣にわく、モヤモヤとした何か。
その感情に、しかし名前がつけられない。
何をしているのか、と聞いても伸は薄く笑って見せるだけだった。
「お前が当麻にしていることは、当麻のためにならないのではないか」
「僕と当麻が何をしているって言うんだい?」
伸の口調は穏やかなのに、温度がない。
「征士、当麻はね…」
そう言いかけて、伸はまたにっこりと笑顔を作る。
「ま、いいや」
片手を上げて、くるりと向こうを向いて。
私は何がしたいのだろう。
当麻を救いたい?
何から?
私は伸にかわりたいだけなのではないだろうか。
今夜の当麻は穏やかな寝息をたてている。
ベッドの脇に立って、それをじっと眺め下ろしている。
月の光に青白く浮かび上がる当麻の唇。
私は踵を返して自分のベッドへ戻る。
おわり
***********
これにて、おしまい。
征当ベースの伸当です。
伸当ですよ!
**********
「俺、頭痛いから残るわ」
当麻が言った。
今日は全員で車に乗って、街まで買い物に行き、昼飯を済ませてこようという話になっていた。
出かけようという間際になって、当麻がそんなことを言い出した。
朝起きた時から、表情がすぐれないとは感じていた。
「僕が残るよ」
「いつものことだ、心配ないだろう」
そう言って私は当麻を見た。
朝よりもずっと青い顔をしていた。
「伸まで残ることはないのではないか? 当麻の頭痛など、付いていたって仕方ないだろう」
言いたい言葉は本当にそれなのか。
玄関を出てから、昨夜部屋の窓から落とした鉛筆のことをふと思い出し、屋敷の裏に回った。
運良く草の上にのっていて、すぐに見つけることのできたそれを手に取ると、開け放たれた二階の窓から声が降りてきた。
「どうして一緒に行かなかったんだよ」
当麻の声。
「何を言っているのさ。そうやって僕を誘っているんだろう?」
伸の声がそう言いながら窓の方へ近づいてきて、思わず屋敷の外壁に身を寄せる。
「脱げよ、当麻」
その声が、とても鋭利に冷たく落ちてきて、窓は閉められた。
何事もなかったようにナスティの車の助手席に乗り込む。
左右に分かれていく木立の景色を眺めながら、目に浮かぶのは伸に命じられた通りに服を脱ぎ、ベッドに横たわる当麻の肢体だ。
その上に、ベッドを軋ませながら伸が乗りかかり、唇を重ねる。
「征士? なぁ! 征士ってば!」
後部座席の遼に声をかけられて我に返る。
「なにボーッとしてるんだよ。あんなこと言って、当麻が心配なのか? 伸がいるんだから大丈夫だろ」
秀の言葉に
「そうだな」
と答える。
「こそこそと当麻に何をしているのだ」
伸に訊ねたのはもう三ヶ月も前のことか。
ナスティに頼まれて伸を探しに二階に上がったが自室にいない。
探して歩いていると、当麻がこもっている書庫から何か聞こえる。
耳を傾けると当麻のうめくような声。
慌ててドアに手をかけようとした瞬間、中から伸の声も聞こえた。
「出すよ…当麻…君の中に」
「あ、あ…あ…!」
悲鳴のような当麻の声が更に聞こえてきて、静かになった。
ドアに手をかけることも、そこから立ち去ることもできなくなった。
数分ほど経ったのだろうか。
ドアが開き、伸が出てきた。
私を見て、少しだけ驚いた表情をして、それからいつもの優しげな笑顔になった。
「どうしたの、征士? 当麻なら中にいるよ」
伸が去ったあと、書庫の中には裸の当麻が寝ているような気がした。
思い切って覗くと、そこにはきちんと服を着た当麻が向こうを向いて立っていた。
「当麻」
呼びかけて振り返った時の、当麻の瞳。
ぞっとするような深い深い青が忘れられなくなった。
直接声を聞くようなことはそれっきりだったが、それからも時々そのようなことがあったらしい気配は感じることがあった。
リビングで、書庫で、当麻と私の部屋で。
夜、隣のベッドで眠る当麻が時々うなされているのは、妖邪との戦いの後遺症だと思っていた。
もしかすると、原因は別のところにあるのではないだろうか。
そんなことを考えながら、当麻の苦しげな寝顔を見遣る。
心配の隣にわく、モヤモヤとした何か。
その感情に、しかし名前がつけられない。
何をしているのか、と聞いても伸は薄く笑って見せるだけだった。
「お前が当麻にしていることは、当麻のためにならないのではないか」
「僕と当麻が何をしているって言うんだい?」
伸の口調は穏やかなのに、温度がない。
「征士、当麻はね…」
そう言いかけて、伸はまたにっこりと笑顔を作る。
「ま、いいや」
片手を上げて、くるりと向こうを向いて。
私は何がしたいのだろう。
当麻を救いたい?
何から?
私は伸にかわりたいだけなのではないだろうか。
今夜の当麻は穏やかな寝息をたてている。
ベッドの脇に立って、それをじっと眺め下ろしている。
月の光に青白く浮かび上がる当麻の唇。
私は踵を返して自分のベッドへ戻る。
おわり
***********
これにて、おしまい。
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