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【046-02】t

s の続き。

征当ベースの伸当。
s の後に読んで下さい。
 
 
 

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伸と当麻ですよー。




**********



t






自分でも自覚がないほど。
言われてみて、初めて気づいたというくらい。
そのくらい、ほんの少しだけ、考えた気もする。
ほんの一瞬だけ、脳裏をかすめたような気もする。

でも……そんなことはあり得ない。
あいつのことなんか考えてはいない。
お前がそんなことを言うから、そんなような気になっただけだ。

そのことを伝えようとするのに、お前が止まってくれないから、俺は上手に口をきくことすらできない。





遠くから聞き慣れた車のエンジン音が聞こえてくる。
その音を耳にすると伸は俺に覆いかぶさっていた身体を素早く起こした。

俺の部屋の俺のベッドで、俺の上に重なって半ば眠るようにしていた伸の質量から、ようやく解放される。

伸はひらりとベッドからおりると、脱ぎ捨ててあった俺の服を拾って、俺に放る。
それから自分の下着を拾い上げて足を通している伸を、俺はただぼーっと見ていたらしい。

「キミも早く服を着た方がいいんじゃない?」

伸はこちらを向くと、いつもの優しげな、でもどこか淡々とした口調で俺に言う。

「ああ…」

いつものところでエンジン音が止まる。
気づくと伸はもうシャツを着て、ベルトを締めているところだった。

意識がはっきりしない。
捉えようとすると思考がするりと逃げていく。

「具合が悪くて寝ているハズなのに、裸で寝てちゃ言い訳が立たないよ」

手早く乱れた辺りを整えて、そう言って微笑むと、伸は階段を降りていった。

そうだ。
全員で街へ買い出しと昼食に行こうと言っていたのに、俺が頭が痛いと言い、伸は俺が心配だと言って。
なら今日はやめようかと言うナスティに、征士が「いつものことだ、心配ない」と言って。

「伸まで残ることはないのではないか? 当麻の頭痛など、付いていたって仕方がなかろう」

「うん。それもそうなんだけどね。やっておきたい課題もあるんだ。気にしないで行ってきてよ」

そんなやり取りがあって、俺と伸を残して、皆は出かけて行った。

頭は本当に痛かったような気もするし、そうでなかったような気もする。
とにかく今はもう痛くはなかった。
そんなことを、頭を振って確かめる。

「おかえり」

伸の明るい声が階下で聞こえ、皆の気配がし始める。
征士が上がってくるかもしれない。
早く服を着なくてはいけない。



早く着なくては。
なぜ?
征士に知られたくないから?
いや、誰にだって言えたもんじゃないだろう?

そう考えた瞬間、身体の奥から何かが突き上げてくる。
吐くのかと思ったら、堰を切ったように涙が溢れてきた。

なんなんだろう、これは。

裸のままベッドの上で膝を抱えて。
汗で湿ったシーツをさらに濡らしながら、嗚咽はいつまでも止まらない。

どうして泣いているのかもわからないのだ。
どうやったら泣きやむことができるのかも、もちろんわからない。
皆に気づかれないように声を押し殺して、俺はいつまでも泣いた。

伸がうまく止めているのかもしれない。
誰も上がっては来なかった。




俺が悪いんだ。
俺が誘っているんだ。
たぶん、いつも。




もう半年も前のことになる。
皆が帰省して俺だけが残っていた年末、一度邸を出発した伸が忘れ物をしたと言って帰ってきた。
遅くなってしまったから帰省は明日にすると言って、その晩は二人になった。

簡単な夕食を済ませ、ソファに座ってテレビを眺めていたら、洗い物を終えた伸がエプロンを外しながらやってきて隣に座った。

10人は寛げるこのスペースで、わざわざ隣に座ったことに軽い違和感を覚えた。

「当麻」

「ん?」

ずっと聞きたいことがあった、と伸は言って、それからしばらく黙っていた。
テレビではお笑い芸人が、今流行りの一発ギャグを何度もくりかえしていて、伸はそれを見て笑ったりしている。

「何だよ」

「ん?」

「んじゃないだろ。何だよ、聞きたいことって」

イライラした。
ちょっと必要以上に。
それがまた妙な感じがした。

伸は俺の方を向いて、一呼吸した。
そしていつもの優しい表情を、真顔に変えて言った。

「あのさ当麻、キミ、征士のこと好きだろ」




セイジノコト…

スキダロ?




「なんで、そんなこと?」

伸の質問に驚いたとともに、自分の返事にも驚いた。

何の冗談だよ。
好きって、友達としてか? んー、イマイチだな。
説教臭くてこまるんだよなー。
そんな言葉を返すべき場面な筈なのに。

心臓が跳ねて、そこから鼓動が速くなった。



セイジノコト…

スキダロ?



伸は間近から真っ直ぐに俺を見ている。

「征士のこと、好きなんだろ?」





「…好きじゃない」


気がつくと、そう口走っていた。

「好きじゃない」

色々な違和感が自分の中でない交ぜになり、そんな言葉になっていた。
伸の真顔がさらに一瞬、何とも言い難い怒りの表情になって。

次の瞬間。

俺の唇に、伸の唇が重ねられていた。



「好きなんだろ?」

「好きじゃない」

日本語としては正しい。
しかし、その正確な意味は一体何だろう。



何が何だかわからなかった。
俺の方が背が高いし、力だってそんなには変わらない筈だ。
抵抗すれば払いのけられた筈なのに、俺はそうしなかった。

まるでそれを待ち望んでいたかのように、俺は伸のすることを全て受け入れた。
時折見える伸の顔はやはり怒っていて。
俺は伸がどうしてこんなことをするのかなんて、当然思いつきそうな疑問を思い浮かべることすらせずに、伸に抱かれた。




「当麻、頭痛どうだぁ? 飯どーする?」

不意にドアの向こうから声がする。
秀だ。

「…あ、ああ。だいぶいいけど、飯はいいわ」

一瞬慌てたが、秀はわかったと返事をして、そのまま階段を降りていったようだった。
膝に顔をうずめたまま、少しウトウトしたんだろうか。
首が少し痛い。

俺は起き上がり、クローゼットからパジャマを出すと、のろのろとそれを着た。
そして今度は横になって眠った。









つづく


**********



もうちょっとだけ続くんじゃ(笑)

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