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【041-01】初めての… 1

5つに分かれていた話をちょっぴし加除修正して3つにまとめています。

征当。
初めての…の話。

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**********


「…どうだろうか」

「…どうだろうと…言われても…」

征士が大学の近くに借りているワンルームの学生用アパート。
部屋にはシングルベッドに学習机。
本棚と、食事をするための脚が折りたためる小さなテーブル。

そのテーブルの向こう側とこちら側に、征士と当麻は正座して向き合っていた。
テーブルの上にはビールの缶が二つ。
征士の前のそれは空になっていたが、当麻の前におかれた一本は開けられないまま汗をかいている。

沈黙が重い。

征士は今まさに相手の面に竹刀を打ち込まんとするときの眼差しで、まっすぐに当麻を見つめている。
その視線のわずか先にいる当麻は…。

当麻は両の拳を膝の上に置き、その握り込んだ拳をひたすらじっと見つめながら黙り込んでいた。
寒くも暑くもない爽やかな五月の午後であるのに、ビールの缶と同じように額にうっすらと汗を浮かべて。





何年も気づかぬまま募らせてきた互いへの想いを確かめ合うことができたのは、お互いに一人暮らしの学生生活も一年経った、つい先月のこと。
好きだという言葉と初めてのキスは、ほぼ同時に交わされた。

それからは逢瀬のたびに、最後は必ず二人どちらかの部屋にたどり着いてキスを重ねてきた。
もうすぐ二十歳になる二人。
ただ触れ合うだけのキスではあっという間にもどかしくなり、互いの深いところへ、もっと深いところへと貪り潜っていく。
情欲の水位は見る間に上がっていく。

堤防が決壊したのは、つい半時間前のこと。

征士のキスが当麻の唇からそれて首筋に這う。
背中に回された鍛えられた右腕が当麻をかき抱き、左手がシャツのボタンを外しはじめる。
そして、そのままベッドに倒れ込んだ。

(きた…!)

当麻は閉じていたまぶたに更にギュッと力を入れる。
征士の身体が重くて、熱い。
熱を持った唇が舌とともに当麻の首筋を這い上がると、そこから身体中に稲妻が走る。

「あ」

と、ひとつ、艶めいた吐息が当麻の口から洩れた。

征士を瞬時にゾクリと欲情させたその音に、驚いたのは当麻本人。
閉じていた目を見開き、おもむろに上半身を起こす。
そして征士の呆気にとられた顔には目も向けず、

「帰るわ」

と早口で一言うち投げて立ち上がり、湯気が出そうなほど真っ赤に茹で上がったまま、振り返りもせず玄関まで行くと、そそくさと靴を履いて、あっという間に出て行ってしまった。

バタン、と閉まったドアを征士はしばらく見つめていたが、ため息をひとつつくと立ち上がった。
小さなシンクの下にある備え付けの冷蔵庫から、冷えた缶ビールを一本取り出す。

一方、飛び出した当麻は、その勢いでアパートの外階段を駆け下りると、ふとそこで立ち止まる。

「こんな状態じゃ帰れねーっつーの」

持ち主がこんなにショックを受けているのに、すぐには元気を失わない分身が恨めしい。
降りてきた階段を見上げて、征士が部屋から出てこないことを確かめると、一番下の段に腰掛けて深いため息をついた。
まだ心臓の鼓動が速い。
両手で包んだ頬が熱い。

立ち上がったまま缶ビールを開けると、圧縮された空気が抜ける音と同時に、熱くなっていた身体の芯の温度が急激に下がる。
征士は缶の中身の三分の一ほどを一息に喉に流し込んだ。
今当麻が出て行ったばかりのドアに目をやる。
喉の冷たさが引いていく間じっと見つめていたが、思いついたように歩み寄るとドアを開け、外階段を覗いた。
座り込んでいる当麻の背中が見えて、ほっとする。

「まだ、いたか」

階段の下で丸まっている背中に声を掛ける。

「……」

当麻は振り返ると、情けない顔で征士を見上げた。

「今、帰ろうかと思ってたとこ」

同じタイミングで毒気が抜けたらしい。

「お前も落ち着いたなら、もう一度上がってきてくれないか。話がしたい」

当麻は返事もしないで征士の顔を見ていたが、征士がそれだけを言って部屋に入ってしまうと、のろのろと立ち上がり、今降りてきたばかりの階段を足取り重く上っていった。

バツが悪い顔で当麻がドアを開けると、正座した征士の背中が待っていた。

当麻はさっき履いたばかりの靴をまた脱いで、仕方なく征士の向かいに回り、向かい合って正座する。
テーブルには当麻の分の缶ビールもおかれている。

征士はまっすぐに当麻を見ている。
その視線に耐えられず、当麻は下を向いて、

「…ごめん」

と一言ぼそりとつぶやく。
征士は自分のビールを手にとると、残りを一息に飲み干してテーブルに置き、もう一度当麻を正面から見つめて言った。

「私は…当麻、お前とキス以上のことをしたいと思っている」

「…うん」

うつむいたまま聞いている当麻は、まるで説教される子どものようだ。

「お前と一線を超えたい。お前を抱きたいのだ、当麻」

「…うん」

「言っている意味は、わかるか?」

「………わかってる…と、思う」

抱かれるということ。
さっきあのまま征士に身を委ねていたら、たどり着いていただろう結末。
わかってる。
ちょっとだけなら想像だってしてた。
ただ自分のあの反応が、あまりにも想定外だったというだけで。

「本当にわかっているのか? あれだぞ? お前の…」

「いや大丈夫マジほんとわかってるからオネガイそれ以上言うなっ」

あろうことか行為の詳細を大真面目に説明しようとする征士の言葉を、当麻は悲鳴に近い声で必死に遮った。
思わず上げた顔からは火が出んばかり。
心臓が口から飛び出しそうだ。

「…そうか。わかっているならいいのだが…」

征士だってそれなりに恥ずかしいのだが、当麻のあまりのうろたえように、つい落ち着いているような気持ちになってしまう。
それでもいくらかの緊張と興奮から、畳み掛けずにはいられない。

「…どうだろうか。当麻」

「…どうだろうと…言われても…」

紫の瞳は、相変わらずただまっすぐに自分に向けられている。
当麻は慌ててまた下を向く。

「私のわがままなのは承知だ。やはり…受け入れられないだろうか」

ほんの少しだけ、悲しげに征士のまつ毛が下がる。

「や、あの…受け入れられないってわけじゃなくて…」

当麻は慌てて言葉を繋ぐ。

「なくて…なんだ?」

当麻は征士の方を見ないようにして目の前のビールに手を伸ばすと、プルタブを開けて一口飲んだ。

「そういうことってさ…」

「………」

「こうやって膝を付き合わせて話し合うことじゃないんじゃないのかなぁ…」

征士が眉をしかめる。
話の展開が予想外だ。

「どういう意味だ?」

当麻は相変わらずうつむいたまま続ける。

「面と向かってそんな風に真面目に聞かれても困るっていうか…」

「真面目がいけないか」

「いや、そうじゃないんだけど…」

「………?」

征士の眉間の縦皺が更に深まる。

「お前、女にもそういう風に聞くのかよ」

「…は?」

当麻は上目遣いに征士の顔を見る。
まったくわかっていなさそうな征士の表情に、またため息をつく。

「今からお前を抱きたいんだけど、いいですかって面と向かってこうやって聞くのかよ。そーゆーのって、その場の雰囲気と勢いで何とかするもんだろう?」

「………だから、さっきはそうしようとしたつもりだ。お前が逃げたのではないか」

征士は憮然として答えた。

「………だから、謝っただろ…」

当麻はまた完全にうつむいてしまった。
今度は征士が大きく息を吐いた。

当麻は自分を拒絶しようとしているのではない。
どうしていいのかわからなかっただけなのだ。
そのことがわかったから気は軽くなった。

「今からやり直せるのか? さっきの続きを」

「今から……は、ちょっと…無理かも…」

うつむいたままごにょごにょと当麻は答える。

「そうか」

征士は優しい口調でそう言うと正座を崩し、脚を胡座に組み直した。

「女ならとお前は言ったが、実際お前は女ではないし、さっきのことは、やはり性急だった。…すまん」

頭を下げる。

「いや…」

「こういうやり方は野暮なのだろうが…。それでもやはりきちんと話をした方がいいように思う。大切にしたいのだ、当麻」

大切にしたい。
相変わらずのド直球に、不覚にも当麻は射抜かれそうになる。
そんな征士が、やっぱり好きだと思う。

「あの…」

当麻は顔をあげて、征士を見る。

「なんだ」

「俺はそれでも…いいと思ってる」

当麻は征士ほど酒には強くない。
ついさっき一口飲んだビールがもう効いて、元々赤かった顔が首まで赤く染まっている。

「それ…とは?」

征士は身を乗り出す。

「その…なんてーの? お前は気にしてるみたいだけど、俺はどっちだっていいんだ。……いや、違うな。さっき征士が言ったろ? 一線超えたいって。俺も、そう思ってる。で、征士がその…俺のこと抱きたいっていうなら、別にそれでもいいんだ。逆なら逆で、それでもいいし…」

そこまで言って、当麻はまたビールを一口飲んで、続ける。

「そう、や、あの、やってみなくちゃわかんないけどな。あー、なに言ってんだろ、俺。征士わかるか? 俺がなに言ってんのか」

「わかる…と思う」

「やなんだよ、俺。こういうのは言葉にしてもこんがらがるばっかりで、ちっとも論理的にならねぇだろ…恥ずかしいしさ」

そう言うと当麻は視線を横に泳がせて、急に所在なさげな顔をする。
真っ赤になって恥ずかしがる顔もそうだが、普段の自信ありげな表情と時々見せるこんな表情とのギャップが可愛いらしい、と征士は思う。
しかもそれを見られるのは当麻にとって特別な自分なのだということが、ここ一ヶ月の付き合いでようやくわかったので、余計に嬉しい。

「…では、どうしたらいい?」

柔らかに微笑んでそう返すと、当麻の顔はもう好奇心と探究心でいっぱいの、いつもの当麻になっている。

「多分、そんなに簡単にいくもんでもないと思うんだ。男同士ってのは…その…気持ちも、ヤリ方も」

「ああ、そうだな」

「俺もさっき、自分で自分にびっくりしちまったし…。だからもう少し時間かけて準備しないか? 一緒に」

「…わかった。一緒に、だな」

「ああ、一緒に」

一緒に。

やっと目を合わせて笑い合うことができた。
征士がもう一本ビールを出してきて、二人で飲む。
二人とも、とにかく喉が乾いていた。

「もう遅いし明日も早いから、今日は帰るよ」

当麻が立ち上がる。

「そうだな」

玄関まで征士が見送りに出る。
ドアを開ける前にもう一度、どちらからともなく触れるだけのキス。

「また連絡する」

「ああ、待っている」

さっきとは違う清々しい顔で、当麻はドアを出て行った。



**********



全部で三話。
残りはぼちぼち。
この後は【R18】なお話になります。
エロいかどうかはともかく…(笑)
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