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【002-04】しるし (4)  最終話

この話はこちらの続きです。
最終話です。

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**********





「こう言っちゃなんだけど、なんだか良かったよ。苦しんでるんだね、当麻も」

「…良かった?」

当麻が怪訝な顔で僕の顔を見る。

「うん、良かった。一方的にあいつが可哀想な展開なのかなぁって思ってたからさ」

「あいつって…」

「…実はさ、僕、先月あいつに会って話を聞いてたんだ」

「あいつって、誰だよ」

当麻の言葉は打って変わってぶっきらぼうだ。
でも僕は、あの時最後まで当麻の名を言わなかったあいつのことを思い出し、なんとなく自分から彼の名前を言ってはいけないような気がした。

「…ずっと仲の良かった友達に、好きだと言われたような気がするって」

当麻の頬と耳がパッと赤くなる。
その反応、あの時のあいつにそっくりだ。
ふと、二人は似てるところがあるな、と思う。
二人とも変なヤツだしね。

「だから、さ。僕は今日、キミと話したかったんだよ、当麻」

当麻は、どういう表情をしたらいいかわからないという顔で、窓の外をを見つめていた。


* ※ * ※ * ※ * ※ * ※ * ※ * ※ * ※ *


当麻はそのまましばらく黙っていたが、深いため息をひとつつくと、また口を開いた。

「好きだと言われたような気がするって言ったのか? …気がするって、そいつ」

「うん、そう言ってたね」

「あんなに勇気を出して、あんなところまで出かけて、一生分の気持ちこめて好きだって言ったのに、なんだろうなぁ、その伝わってないっぷりは!」

そう言って頭の後ろに両手を組んで、椅子の背にう~ん、と伸びた。
苦々しいという口調だが、明るくなった。

当麻が話してくれて、あいつのいう「友人」が当麻だったとはっきりしたら、僕は自分の中にもっと嫌悪感のような、彼らの状況を受け入れられない感情が生まれるんじゃないかと思っていた。

僕はそれが一番怖かったのかもしれない。

でも実際、こうやって当麻も悩んでいる姿を見ると、なぜだかそんな戸惑いや心配は消えて、ただこいつらの力になってやりたいと思えた。

「そりゃあさ、好きって言ったんだろうけど、でも彼女がいますっていうんじゃ、わけがわからないだろ。しかも滞在時間六分ってなんだよ」

そこまで知ってるのか…と、窓に映った当麻が、すねた目で僕を見ている。

「俺だって、わけがわからないんだよ」

「自分の気持ちが?」

「気持ちは…わかるよ。好きなんだよ、あいつが」

「キミが男が好きだなんて知らなかったよ?」

「俺だって知らねぇよ。っていうか、女がいいよ…なんであいつなんだろうなぁ、俺」

「その…さ、どういうところが好きになったわけ?」

僕は直に当麻の顔を覗き込んで聞いた。

「なんだよ急に、気持ち悪いな………お前、そっちのケ…あんの?」

当麻は自分のことをすっかり棚に上げて、気持ち悪いものを見るような目で、僕を見る。

「ないよ! ないから聞いてるんだよ。悪いけど」

僕は可笑しくなって、もう気を遣うのも遠慮するのもやめた。
大切な秘密を明かしてくれた親友たちに敬意を表して、僕も今、僕の気持ちはここで正直に全部さらけ出してしまおうと思った。

「どこが好きだなんて、そんなのわかんねぇよ。ただ…一緒に戦って、一緒に暮らして、本当にあいつのいろんな顔を見てきて…。泣いたり、笑ったり、怒ったり、どれを思い出しても、俺はあいつのことが好きだなぁって思うんだ。伸だってそうだろ?」

「いや…僕は、別にそんなに…?」

「あ、いや、そうじゃなくて、彼女!」

当麻はまた真っ赤になって怒る。
ごめんごめん、わかってるよ。

「そんなに情熱的に好きだって気持ち、うらやましいよ」

僕は素直に思ったまま言った。

「…彼女と別れても仕方ないなんて、言うなよ、伸」

ああ、それでさっきそんなに、その話に食いついていたんだなぁ、と思う。
男同士であるこの二人に比べたら、実家に帰るとか帰らないなんて、そりゃ小さな問題だなと思う。
そんなことで別れるなんてって思ったのかな、当麻は。

「好き、と、愛してる、が違うんだとしたら、多分、俺はあいつを愛している、と思う」

こんなにも自分の気持ちを話してくれる当麻は初めてだ。
アルコールの力もあるんだろうけど。
いや、もしかすると、ここまで自分の気持ちについて考えることが、こいつにとって初めてのことなのかもしれない。

「ていうのはさ、あいつに気持ちを打ち明けてみて、初めて気が付いたんだ。だからその後、彼女とも別れたし…その、彼女にはさ、悪いことしたなって思うけど」

「へー、悪いなんて思うんだ」

「思うよ。傷つけた。でも…そうなると思ってたって言ってたな。今回も。ダメなヤツだよなぁ、俺」

「でも、わかって良かったじゃん」

「…そうだな。俺はあいつじゃなくちゃ、ダメみたいだ。このまま一緒になることができなくても。このまま死んじゃっても、また生まれ変わって、俺はどうせあいつに出逢って、あいつのこと愛しちまうんだと思うんだ」

当麻の口からそんなロマンチックなセリフが出てくるとは思わなかった。

あいつが、当麻を変えたんだと思う。



* ※ * ※ * ※ * ※ * ※ * ※ * ※ * ※ *



「ただ、どうせ生まれ変わるんなら、男と女に生まれたいけどなぁ。まったく男同志なんて、面倒臭くてかなわん」

「もう迷いはないんだろう?」

「ま、そうだな」

そう言った当麻の顔は、すいぶんとさっぱりした顔だった。

しかし、だ。
ここで自己完結してどうする。
ここでこの話を終わりにしてはあいつが浮かばれない。

「向こうはずいぶん混乱したようだったけどねぇ。自分の気持ち言うだけ言って、自分だけなんだか整理がついて、あいつの気持ちも聞かないで帰ってきちゃったんだろう?」

「いや…うん、そこまでが精いっぱいで、なんだかもう、あいつの答えを聞くのが怖くて…。だって、どうしようもないだろ? 男に好きって言われたってさ。俺だったら、困るよ」

もしかしてあれ以来、こいつらは本当に何の連絡も取りあっていないんだろうか。

「それに…もし、万が一だぞ? ずっと一緒にいられるようになったとしても、どうしたら男の俺が、男のあいつを幸せにしてやれるのか、わからないし…。その前に俺自身がよくわからないっていうか…」

「そりゃあ相手が女だってわからないよ。どうすれば幸せになれるのか。相手が幸せだなって思ってくれるのか…。男とか女とか、関係ないんじゃない?」

「うーん、そうかぁ」

まったく当麻って、こんなふうに愚痴愚痴悩むヤツじゃなかったと思うけど。
…そんなことより。

「そんなことより当麻。先月キミが仙台に行った後、キミたちはなんにも連絡を取り合ってないわけ?」

「ああ…うん」

「あの六分以来、まったく?」

「…ああ」

「電話もメールもしてないの?」

「…ああ」

「まったく、もう…信じられないな!」

僕は思わずガラに合わない大きな声を出してしまった。
男同士だということはさておき、(「さておき」できるようになっている僕自身に驚きだけど)すっかり大団円に両想いのくせに、この二人はいったい何をやっているんだろう。

「で、キミは一体どうするつもりなの? あの悩める綺麗なお姫様を」

あの伏し目がちだった美しい横顔を思い出しながら。

「どうって…」

「お姫様はキミの態度さえはっきりすれば、栄転の話を受けて東京へ出てくるって言っていたよ」

「え?」

「本社行きの話をもらって、悩んでいるところだったみたいだよ。でもキミの気持ちが自分にないのに、東京に行くのは辛いって」

「ちょ、待って、それって、それってどういう…」

今日何度目? その真っ赤な顔。

「……そういうことなんじゃないの? 僕に聞かないでよ」

この弟たちは。
世話が焼けるったらありゃしない。
こんな面倒臭いややこしい事情を勝手に作り出しておいて、僕がこうして一肌脱がなきゃ、お互いの気持ちに気づくこともなく、二人とも悶々と暗い一生を送ったに違いない。

まったくどこまで面倒見なくちゃならないんだか!

「あいつはどうして伸にそんな話するんだよ、まったく、恥ずかしいじゃないか」

そう言うと、当麻は改めて恥ずかしくなったのか、くしゃっと髪をかきあげた。

それは僕も、あれ以来、ずっと考えていたことだった。
あいつはどうしてあの時、僕に大切な心の内を話してくれたんだろうって。

「たぶん…キミと幸せになりたいっていう気持ちがあるから、僕に打ち明けてくれたんじゃないのかな。不安と、背中を押してほしい気持ちと、きっと両方だったと思うよ」

「…そうか」

「そもそも六分で話し逃げじゃ、キミに話なんかできないじゃないか」

「…まぁ、ね」

「そうだよ。この週末にはお姫様をさらいに行った方がいいよ。ていうか、すぐに電話でもなんでもしてあげなよ。早くしないと、悩んで悩んで死んじゃうかもよ」

当麻はちらりと時計を見る。
9時を少し、過ぎたところだ。

「…終電、間に合うかも」

言い終わらないうちに、当麻は立ち上がる。

「終電って…まだ早いよ?」

「いや、あいつんとこ」

「いまから行くの? 仙台に?」

「ああ、行ってみる。ありがとう、伸」

当麻はあわててポケットから財布を出そうとする。
僕は笑って止めた。

「いいよ、急いで行きなよ。その代り、後でちゃんと報告聞かせて」

「うん。ありがとう、じゃ」

あっという間に当麻は行ってしまった。
なんだか憎たらしいほど爽やかに笑顔を残して。

窓の外、氷雨はいつの間にか雪になっていた。
路面はもうシャーベットのようになり、その上に真っ白な雪が積もり始めている。

新幹線、間に合うといいな。
首尾よく会えるだろうか。
終電で行くんだから、今回は六分ってことはないだろう。

僕も今夜は彼女に会いに行こう。
でもその前に…。

結局あまり食べずにのこってしまったつまみをつつきながら、
僕はおせっかいついでに、もうひとつ世話を焼いておくことにした。
ここまで悩ませられて世話をさせられて、これで会えなくてうまくいかないなんて、冗談じゃない。

ポケットから携帯をとりだして、アドレス帳を開き、通話ボタンをおす。

「……あ、征士? うん、僕。今、電話大丈夫? キミ今、仙台にいるよね? ……」






おわり


**********


【あとがき】



ひゃ~、終わりました。
長々と駄文にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。

長いのは苦手です。
脳の容量が少ないため、読んでる(書いてる)うちに、はじめを忘れてしまうから…orz

『しるし』は、『2012年 初夏』の後すぐ? 終わるか終わらないかに書き始めたんです。
でも全然スラスラいかなくて。
はじめは会話だけで書き進もうとして、挫折して、まったく知らない第三者目線はどうか…と書き直して、挫折して。
ごく普通の地の文にしても、どうもうまくいかなくて、前半は5回くらい書き直しましたかねぇ(遠い目)
でもなんとなく話の中身はまとまっていたし、気に入っていたのでがんばった。
結局、伸兄さん目線になりました。
伸目線で当麻を見るのが、私にはしっくりいくみたいです。
でも征当なんですけどね~。

当征なのでは? と思われる方もいらっしゃいましょう。
私も読み返してみてそう思った! お姫様だし(笑)。
でも、この後行き着く先は、あくまでも当麻受!
だからやっぱり征当なのです。
…すみません、ヘンタイで。


私の中で当麻は「愛されたい!」と渇望しているキャラです。
求め続ける系。
征士はここでは悩んでいるけど、実際はもっと地に足が着いて満たされているイメージです。

タイトルの「しるし」は大好きなミスチルの名曲です。
この夏まで特にお気に入りでもなく、何の気なしに聞き流していた歌でした(メロディは秀逸なんだけど、歌詞がよくわかんない歌は苦手)が、鎧が走り出したハートで聞いてみたら
「これは当麻が征士を想ってる歌だ~!!!」
と、ドはまりしてしまいました。
通勤の車の中で「だ~りん、だ~~~~~り~~~~ん」と熱唱しながら妄想しました。

あ、東京から仙台へ行く金曜日の最終新幹線は21時44分ですよ。
2012年現在ですが。
東京→仙台、ホーム滞在6分、仙台→東京(終電)も2012年の日曜日の実際のダイヤです。
そんなことをわざわざする人は当麻しかいないですね。
改札出てたらタイムアウトですからね。
調べていたら、仙台に行きたくなってしまいました。

あ、あとがきまでダラダラと長くなってしまいました。
最後までありがとうございましたm(_ _)m

後日談みたいの、またちょこちょこいくかもです。
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