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【041-03】初めての… 3 最終話

【R18】

征当初めて物語、最終話。
その1
その2



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**********



当麻に促されて征士がキッチンに手を洗いに行っている間、当麻はベッドにひっくり返っていた。
しばらく水音をさせた後で、征士はまた寝室に戻ってくる。
そして仰向けに大の字になっている当麻に真顔を向ける。

「無理に、しなくてもいいのだぞ? 当麻」

「は?」

当麻は目を見開いて、その青みがかった瞳だけを征士の方に動かす。
征士は続ける。

「別にその…入れなくてもいいのだ。今のような交わりで十分満足できる。あの雑誌にも書いてあっただろう。男同士で愛し合う者のすべてが、尻でセックスをするわけではないと」

「なんだよ。いやなのかよ」

仰向けになったまま、当麻はぶっきらぼうに言葉を投げる。

「いやではない」

「いやじゃないけど、良くもない?」

「いや…それは…。お前を抱きたいという気持ちはもちろんある。ひとつになりたいという欲も…ただ…」

「ただ? 何だよ」

「お前に無理を強いているのではないかと…。男同士なのだから、どちらがどちらでも良いわけだろう。なのに一方的に私がお前を抱きたいとわがままを言ったから…」

当麻は征士から視線を外さない。

「じゃ、お前がヤらせてくれんのか?」

「…それは…お前がどうしてもと言うのなら…一度くらい…いや、しかし…」

征士は珍しく、当麻の顔を見ずにもごもごとつぶやく。

「だろ? お固いお前には無理だ」

当麻は、よ、と上半身を起こす。
立ったままの征士を見て、ニヤリと左の口角だけを上げる。

「…なぜお前は平気なのだ」

「うーん…。半分は好奇心だな。なかなか体験できることじゃないぜ? 男とセックスするなんて。どういう感じがするものなのか、興味がある」

「…お前らしいな。…後の半分は何だ」

「後の半分は、お前と同じ理由だ。俺もお前とひとつになりたい。ただ方法が、お前よりも自由なだけだ」

どうだ、参ったか、と言わんばかりの当麻に、征士が思わず笑う。

「ま、せっかくだからやってみようぜ? 俺の覚悟を無駄にすんなよ」

当麻も茶目っ気たっぷりに笑う。

「わかった」

そう言って、征士はベッドの上に膝を抱える当麻の横に腰掛けた。

「それ、とって」

当麻の指した机の上には化粧品のような小瓶。

「これは…」

征士は言われるままに手にとって、その小瓶を見る。

「そ。潤滑剤」

「どこで買ったのだ?」

「通販だよ。パソ通で信頼できる人に、間違いのない店を教えてもらった」

征士は小瓶の蓋を開くと、手のひらに少量とろりと垂らしてしげしげと眺める。

「開いていたな。使ってみたのか?」

「使ってみたってほどでもないけど…」

今度は当麻が目を逸らす。

「できそうだったか?」

征士はそんな当麻を面白がって、顔を覗き込む。

「んー…微妙…」

征士とは反対の方向に瞳を泳がせた。
征士はローションを垂らした手をそっと握って指を濡らすと、座っている当麻の後ろから忍ばせる。
指先が触れる。

「まだ硬いな」

くるくると指で撫でながらなお覗いてくる征士から表情を隠そうと、当麻は征士の首に抱きついて唇を重ねる。

愛撫する方もされる方も不慣れで、散々重ねてきたキスさえもたどたどしくなる。
このままでは一向にほぐれていく様子のないそこに業を煮やして、征士は当麻の背中を無言で押して、うつ伏せになるように促す。

膝を折って尻を上げさせた形で、そこにそっと舌先をあてる。

「ちょ…っ、お前、そんなとこ…」

慌てて上げようとする当麻の頭を、征士は手のひらでそっと制する。

「お前だって口にいれたであろう」

優しい声で囁きながら、そっと舌を這わす。
びくり、と当麻の身体が震える。

「あそことそこは違うだろ?」

「たいして変わらん。風呂できれいにしたのではないのか?」

「した…つもりだけど…」

「ならば大丈夫だ。…しかし」

征士はふと一度そこから離れて、当麻の頭の方を見る。
ベッドに顔をうずめるようにしていた当麻も顔の向きを変えて目を合わせる。

「しかし、なんだよ」

「できそうかどうかと試すのも、風呂できれいにするのも、一緒にしたかったな」

征士がにやりと笑う。
当麻はいたたまれずに、またベッドに顔をうずめて

「馬鹿なこと言ってないでさっさとやれ!」

とわめく。

当麻に余裕がなくなると、自分に余裕が生まれてくるのが面白い。
征士はまた、舌と指で丹念に当麻をほぐしていく。

当麻の息がまた少しずつ上がってくるのと同時に、はじめは本当にほぐれるのかと心配なくらいだったそこが、柔らかくほころんでくる。
舌先を中まで侵入させると、またびくんと当麻が震える。

誰にも許したことのないところを、私には許してくれる。
おそらく自分でも自由にくつろげることのできなかったそこを、私ならこんなにも柔らかに解きほぐすことができる。
細かな動きが当麻を踊らせている。
何とも言えない満足感が征士を満たす。

舌を許し、指先を許し、もっと、もっと深いところまで。

いつの間にか更に欲しがっている自分に、当麻は驚く。
そこへの愛撫が心地いいものだなんて、自分で触ってみたときには想像もできなかった。
歴代の彼女たちと世間一般並みのことはやってきたつもりだけれど、それはなんというか攻略ゲームのような感覚で。
あれは本当に気持ちが良かったのだろうか。
気持ちが良いつもりになっていただけなのではないだろうか。

「…っ」

征士はそこに直接ローションをたらし、そっと指を差し込んでかき回す。
冷たさと、身体の中を指が動き回る刺激に当麻は背を仰け反らせる。
征士がすっかり柔らかくなったそこに、中指に合わせて人差し指も差し込もうとする感触がわかる。

「待て…もう……もう、大丈夫じゃないかな」

当麻は浅く息をつきながら、腕を立てて起き上がった。





「仰向けになれよ、征士」

言われるままに征士は、シングルベッドに身を横たえる。
自然、屹立する形になる征士のそれを、当麻はあまり見ないようにして腹の上に跨った。

「大丈夫なのか?」

征士は心配そうに見上げる。

「うるさい。ローションもっとつけて。俺にもお前にも」

腕を伸ばしてとった小瓶の中から手にとったローションを、征士はまず自分自身に塗りつける。
当麻の身体を口では心配しておきながら、嵩も硬さももうこれ以上ないくらいに期待してしまっているそれに苦笑しながら。
そしてもう一度ぬるりさらりとした液体をたっぷりと手にとると、温めるように手指に馴染ませてから、自分を迎え入れようとしているところに塗りつけていく。
いかにも気持ちよさそうに柔らかくなったそこに、もう指先は簡単に入る。
しかし一般より大きめらしい自分のものを苦痛なく埋め込むことが、本当にできるのだろうか。

不安気な征士の瞳と当麻の青い視線が交わる。

「頼むから、そんな顔すんな」

当麻は後ろから伸ばした右手を征士のものに添えて、その上にゆっくりと腰を下ろしていく。
征士は所在のない両手を当麻の腰に回してみたが、当麻の左手がそれを払う。

同じものを読んだのだからわかる。
入れられる方が主導をとるこの形が、当麻にとって一番負担が少ないだろうことは。
しかし軽口をたたきながらも内心は複雑だろう当麻の心境を思うと、こんな風に何もできない自分がもどかしい。
征士は当麻の顔をただ見つめる。

今まであまり見たことない角度で見上げる当麻の顔は、カーテンの色が映ってずいぶんと青ざめて見える。
伏し目がちに視線を横に向ける様は、繋がらんとしているところに意識を集中させようとしているようにも、目をつぶらないことで、意識を逸らせようとしているようにも見える。

先端が、触れた。

当麻がそっと目を閉じる。
そのままじわりと腰を沈める。
あたたかく包まれる感触は征士にとっては快感以外の何ものでもないのだが、当麻が眉間に皺を寄せ、下唇をきゅっと引き締めたのが見えると心配げな声をかけずにはいられない。

「当麻…」

「大丈夫。痛いわけじゃない…」

そう言って、当麻はひとつ大きく息をつく。
呼吸に合わせて今征士を飲み込みつつあるところが、締まったり緩んだりする。

目を閉じたまま息を整えながら、緩むタイミングを計っているのだろう。
緩く力が抜けたところで、当麻はまた少し腰を沈める。
それと同時に、やはり整った眉を寄せる。

「無理をしないでくれ…」

「違うんだ…痛いんじゃない。いや、全然痛くないワケじゃないけど…でもなんだか、ものが中に入ってくる感じが…」

当麻はまた、大きく息を吐いた。

「気持ち…悪いのか?」

「気持ち…いいのか、悪い…のか、わからん」

征士は目の前で頭をもたげかけている当麻のものに手をかける。
大きな手で優しく包み込んで、さする。

「…っ」

「しない方が、いいか?」

「いや…どうだろ…」

「私にできることがあれば言ってくれ」

「できること…。もうちょっと…小さくなんねぇかな、これ」

当麻が目を開けて、征士を見る。
目が合うと、眉を寄せたまま小さく笑う。

「それは難しいな」

征士も苦笑を返す。
ふっと当麻の力がまた少し抜けて、かなり奥まで沈み込んだ。

「ぅ…っ」

わずかなうめき声をあげて、当麻の息がまたあがる。

「征士…」

「なんだ」

「お前は…大丈夫なのか?」

「大丈夫も何も…。お前の中は熱くて気持ちがいい」

「そうか…それなら、よかった」

そういうと当麻はまた目を閉じて口を結び、一息に最奥まで沈み込んだ。



一番深いところまで繋がって、二人は同時に大きなため息をつく。
青く薄明るい空間はとても静かで、二人とも何となく、カーテンの向こうに見えるだろう景色を見るように、しばらく黙って窓に目を向けていた。




「どんな感じだ?」

征士から口を開く。

「ああ、うん。腹いっぱいって感じ」

そう言って当麻は満足げなため息をもうひとつついた。





そのうち、こみ上げるようなひどい異物感がましになってきたので、当麻は自分で少し腰を動かしてみる。
身体の中の征士に、中からこすりあげられる感触と、微かだが確実にそこにある痛みにぞくりとする。

もう一度身体を軽く上下させてみる。
今まで感じたことのない類いの快感に力が抜け、長くは続かない。

「動かして大丈夫なのか?」

征士がたずねる。

「大丈夫だが…力が入らねぇ」

「力なら抜いていろ」

腰の上でくにゃりとしている当麻の腰を、征士の両手が掴む。
掴んだその手で、当麻の腰を前後に揺すぶった。

「あ、馬鹿、やめろ!」

当麻は征士の腹に手をついて動くまいと抵抗する。

「痛いのか?」

征士が手を緩める。

「痛くないよ。そんなに痛くねぇけど、おかしくなりそうで…」

「ならば良かった」

そう言うと征士は再び鍛えられた両腕に力を込めて、それでいて優しく当麻の腰をゆすりはじめる。

「よせ、征士! …う…あっ」

静止の声が瞬く間に艶めいてくる。
下からも軽く突き上げられる。

「や……あっ…ぁ……っ」

「おかしくなっていいのだぞ」

「いやだ…っ、ぁ…ぅっ」

征士がまた手を緩める。
当麻は目を閉じたまま、肩で息をしている。
頬が紅潮しているのがはっきりとわかる。

征士はまた腕に力を込めると、当麻の腰を上へと持ち上げた。
まだ大きさを保ったままのそれが、ずるりと抜ける。
当麻はぶるりと身震いした。


刺激的な官能から突然に解放されて放心している当麻をベッドに横たわらせる。
征士は脚元からベッドに上がると、当麻の腰を軽く持ち上げて、昂ぶったままのものを入口へと押し当てた。

「痛くてダメなら言うのだぞ?」

もう一度ローションをまぶしかけてから、ゆっくりと当麻の中に押し入っていく。
痛みを伴わずに一つになることをかなえた当麻のそこは、二度目はもっと柔軟に征士を包み込んでいくが、やはり狭い。

「…っ…ぁあ」

懸命に堪えているのに漏れ出してしまう当麻の声は、苦痛ではなく快感であろうと征士は判断する。

きっちりと奥まで自身を納めると、ゆっくりと腰を打ちつけていく。

「ん…ぁあっ」

当麻は片方の手で自分の口を覆う。
征士はその上に覆いかぶさり、自分の手のひらを噛んで声を立てまいとする当麻の、その手と唇との隙間に舌をねじり混んでいく。

「んっ…ふっ…んんっ」

口内をひとしきりねぶりあげると、征士は身体を起こす。
次第に速く、強く突き上げていく。

「気持ちよければ…声を出せ」

「いや…あ…だっ……女みたい…で…恥ずかしい…だろ」

「あまり考えすぎるな…当麻。このようなことは考えてすることではない。男も女もない。私とお前だ。素直に…感じろ」

言いながら征士も息が上がってくる。
物理的な快感がなくても、初めて肌を重ねたという興奮だけで、当麻が自分にこんな行為を許したという事実だけで、そして今目の前のこの光景だけで、当麻の聞いたこともない息遣いだけで、もう何度でも達してしまいそうだった。

おそらく当麻も同じ気持ちでいてくれている。
繋がっているところから、全身から、それが伝わってくる。

「う……ぁあっ、征士!」

「そうだ当麻…つかまっていろ、私に」

「あ、ああ…あっ…征士…っ」

当麻の手が征士の両腕を握る。
大きく何回か突き上げると、触れられてもいない当麻の屹立から征士の腹に精が放たれた。

その後で、征士も当麻の体内に果てた。





征士はそのまま当麻の上に身体を預ける。
当麻は背中に長い腕を回して、その広い背中をそっと抱きしめた。

「やったなぁ…」

すっかり脱力して、のんびりした口調で当麻が言うと、

「やったな」

征士もそう言って、二人で静かに笑った。

「読んだり、人から聞くのとホンモノは、やっぱちょっと違うなぁ」

「そうだな」

そのままどのくらい、そうしていたのだろうか。
傾いた日が部屋に差し込んでくる。

先に征士が。
その後に当麻がシャワーを浴びて、さっぱりと着替えた。

当麻がシャワーを浴びている間に、征士はベッドカバーを洗濯機で回し始めたりしている。

「どうする?」

濡れた髪を拭きながら、当麻が聞く。

「ん?」

「帰んの?」

征士はちょっと考えて、

「このまま一人で帰るのも寂しいな。食事に行かないか? 」

と、当麻を誘う。

「いいな」

狭い玄関で、二人で靴を履く。
どこで何を食べようか?
相談しながら扉を開ける。

夕日に照らされながら、二人は肩を並べてアパートの階段を降りて行った。






おわり


**********




長々とおつき合いいただき、ありがとうございました。

ロマンチックじゃない、等身大の生々しい初めてが書きたかったんですよね。
成功しているかしらん。

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