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【026-02】春はすぐそこ 2

当麻の話を書くと、その時征士さんはどうしてたかな、とか、その後征士さんはどう受けたかな、とか、書きたくなってしまいます。

こちら が1です。

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***********
 
 
「伯母様、もう幾度も申し上げているつもりですが、私は見合いをする気はないのです」
 
以前に比べて数は少なくなってきたが、見合いの話は途切れずやってくる。
 
実家に持ちかけられる縁談だけでなく、職場でもシングルと知れるとどこからともなくそんな話が舞い込んでくる。
 
会ってみるだけと言われても、会ってしまえば今度は断る理由が必要になるわけで。
 
まったくもって、煩わしいことこの上ない。
 
交際するとか、結婚するとか、そういう面倒をおしてまで情熱を傾けたくなる人が、いいタイミングで目の前に現れないというだけなのだ。
 
淡泊なタチなのは認めるが、それでもたまにいいなと思う人物は、相手のいる人だったり、失恋して心を傷めている最中で働きかけることが躊躇われたり。何か一歩進めない理由がいつも、ある。
 
要するに縁がないのだ。
 
目の前にいる父の姉は、自分の弟が婿に入ってやっとつくった跡取り息子が、四十歳目前になっても更にその跡取りを作ろうという意思の見えないことについて、まるで自分に責任があることのように心配なのらしい。
 
できれば私などにかまっていないで、自分の行き遅れの娘(私の従姉妹だが、何もかもが伯母にそっくりなのだ)の心配をしていていただきたい。それとも、そこからの現実逃避なのだろうか。
 
迷惑な話だ。
 
先程から伊達家の長男として跡取り息子を作ることの世界的社会的意義について語っているらしいが、私にはもうただ口をパクパクさせているだけの服を着たカピバラにしか見えない。
 
そんなものをいつまでも見ていても仕方がないので、庭の木に一羽の目白が来ているのを、何となく眺めていた。
 
ふと、頭をよぎる。
思ってはならない相手への思いに、名前を付けることもせず、きっちりと蓋をして心の奥底にしまい込んである箱。
空想上のその箱は、二十年以上たった今も妙な現実感をもってそこにあり、こんなときにふとその存在を主張する。
 
ポケットの中のケータイが鳴る。
 
「失礼します。仕事の連絡かもしれません」
 
警察官という一般人にもわかりやすい職業のため(といっても、世間一般のイメージと現実とはずいぶんと違うものであるのだが)、仕事だと言えば皆がそれを最優先にして構わないと思ってくれることは便利だ。
 
私はポケットからケータイを取り出しながら、縁側に出て開いていた障子を閉め、伯母に声が聞こえない程度の距離を取るべく、縁側を移動する。
 
さっき眺めていた目白が、私と目が合ったのに飛び去らずにさえずっている。
紅梅の蕾がずいぶんと膨らんできた。
 
「当麻か、久しぶりだな」
 
電話の主は、昔の戦友だった。
 
今となっては現実だったのかどうかも怪しまれるような不可解な出来事に巻き込まれた我々五人。
かけがえのない大切な仲間たちだが、遠方なこともあり、自分の無精もあり、もう長い間連絡もとっていなかった。
 
「ああ、こちらは変わりない。お前も相変わらず、まだ一人か」
 
こんな私でも自分だけが独り身でいることが心細いのだろうか。
そして、向こうもそうなのだろうか。
私たちは滅多にしない連絡の最初に、いつだって必ずそこを確認せずにはいられないらしい。
 
相変わらず一人だ、と当麻は笑う。
箱が、カタン、と音をたてる。
それには気づかないことにする。
 
用件は仙台に遊びに来たいので案内をしろということだった。
 
五月になれば寒さの苦手な当麻でも耐えられるだろうから、連休の終わった頃にということになった。
仕事も一息つく頃だ。
 
全部で二、三分の簡単な近況報告をして、電話を切る。
 
雪の残る庭のさっきの目白の隣にもう一羽飛んで来て、何やら話をしているように見える。
そのすぐ傍らにある紅梅の蕾がひとつ、ほころびかけている。
 
客間からは伯母と母の笑い声が聞こえてくる。
もう顔を出さずに解放してもらおうかと思案しながら、陽に温んだ縁側を渡る。
 
春は、そぐそこだ。
 
 
 
 
おわり
 
***********
 
 
なんか進展あるといいな。
やっぱり!
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