たいいくのひ
since November 22th 2012
【029】苺のタルト
緑青小話。
aさんの美味しそうなタルト、青い子に食べさせたよー。
**********
よかったよ(笑)。
aさんの美味しそうなタルト、青い子に食べさせたよー。
**********
征士が大切そうに箱を抱えて帰ってきた。
「おかえり。なんだ? それ」
「ああ、土産だ。お前に。そうっと持て。傾けるなよ」
玄関で征士はその箱を当麻に手渡す。
「お、けっこう重いな。見てもいいか?」
「ああ。フタを開けるのはテーブルにおいてからがいいぞ」
征士が靴を脱いでいる間に当麻はいそいそとその箱を抱えてダイニングに行き、テーブルにおく。
白くて浅目な正方形の箱に、赤いフタがかぶせてある。
お店で買ったものというよりも、手作りの何かを綺麗な空き箱におさめたようだ。
開ける前にそんなことを当麻が考えて中身を想像していると、スーツ姿の征士もダイニングに入ってきた。
「なんだ。まだあけてないのか」
「中身、当ててみようか」
当麻がいたずらっ子の顔をする。
「どうぞ?」
「この重さの感じと香りはなぁ…タルト! ホールの、苺の載ってるやつ!」
どうだ? と当麻の青い目が征士を覗く。
「ご名答! さすが甘味王だな」
「当たり?」
征士が赤いフタをとると、そこには真っ赤な苺がびっしりと並んだタルトの愛らしい姿。
フタをしていても少し香っていた苺の甘い香りが室内に広がる。
「うっわー! 美味そう!!」
破顔する恋人に、征士は目を細める。
「どうしたんだよ、これ。誰かの手作り?」
「ああ。同僚のちょっとした失敗の片付けを手伝ったら、お礼にと作ってきてくれたのだ」
上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながら征士が言う。
「女?」
「そうだが?」
急に口をへの字にする当麻に、目を丸くする征士。
可愛いヤキモチに、征士はふっと微笑む。
「…可愛い彼女さんと食べて、と言っていたぞ?」
「彼女ぉ? なんだよ、彼女がいるって言ってんのか?」
「たまについつい惚気てしまうのでな。彼女とは言ってないぞ。向こうが勝手に女だと思い込んでいるだけだ」
「何を話しているのか、怖いんですけど」
「別に? 日常の些細なことをほんの少し、コミュニケーションの肴にしているだけだが」
征士はさらっと涼しい顔。
きっと職場でもそんな顔で、小っ恥ずかしい惚気を堂々としゃべっているに違いないと、当麻は顔の赤らむ思い。
いや、実際に少し頬が苺の色に染まる。
「女の作ったものなら食べないのか?」
「そんなこと言ってないだろう?」
そう言いながら、当麻はタルトに飾られた真っ赤な春の果実をつまみとって口に入れる。
「うわっ。甘! いい苺だなぁ、これ」
「こら、行儀の悪い。礼を言わなくてはならないからな。私にも一切れ切り分けてくれ」
「了解ー! 征士のいれたコーヒーが合うな、これには」
「了解」
征士が着替えて戻るとタルトは大皿にうつされて、苺一粒分の幅に器用に鋭角に切り取られた一片が小皿に取り分けてある。
「私の分はこれだけか?」
若干言葉に不服を滲ませた征士に、今度は当麻が目を丸くする。
「もっと食えるの?」
「食べて見なければわからないが」
言いながら征士は小さなケトルに水を入れ、火にかける。
「えー、俺の取り分が減るー」
当麻は残りほとんどの大皿の方に、当たり前のようにフォークを差し込む。
苦笑いしながら征士はコーヒーミルに豆を入れる。
カリカリと豆のひかれる音とともに、砕かれたコーヒー豆とフォークを入れられて更に鮮やかな苺の香りで部屋が満たされる。
「おい、コーヒーが入るまで残しておけよ」
「急いでくんないと無理。これ、美味すぎ」
「急いでは美味いコーヒーが入らん」
征士はフィルターに豆をうつして、ほんの少しずつケトルの湯を注ぐ。
真剣なその眼差しを今度は当麻が見つめる。
そんな、春のひととき。
おわり
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twitterで見せていただいた、超美味そうな手作りの苺のタルトに寄せて!
ただaさんの苺のタルトを当麻に食べさせたかったんですー。
季節を問わずただ仲のいい二人でございますよ。
よかったね。おわり
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twitterで見せていただいた、超美味そうな手作りの苺のタルトに寄せて!
ただaさんの苺のタルトを当麻に食べさせたかったんですー。
季節を問わずただ仲のいい二人でございますよ。
よかったよ(笑)。
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