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【022-02】洞窟 後

【R18】

後半です。
青受け触手、閲覧注意。

拍手

 
 
 
**********
 
 
意識を保て…!
 
思考を止めることが絶望に直結する。
あの骨の仲間入りをしたくないのなら、考えろ、考えろ。
 
射精はいつまでも続けてできるわけではない。
一旦できなくなればすぐ解放されるのであれば、あと数回の後まで意識を保っていれば、逃げられるはずだ。
 
ペニスへの刺激だけでは反応がやや鈍くなったからか、触手はまた当麻の身体の上をヌルヌルと縦横に這い回る。
 
「ぅあ…ああっ………せい…じ…」
 
脇腹を這う触手の感覚に身を震わせながら、当麻はまた征士を思う。
ここに入るときに感じた征士の気配。
あれはこの厄介な化け物がもたらした幻覚だったのか。
 
「あ…ああ…っ」
 
俺をおびき寄せるための餌。
おそらく性的な興奮を高めるガスだか波動だかで。
それによって俺が見る幻覚は、征士か…。
 
「はぁ…あっ」
 
粘液が背中を伝う感触さえ、今の当麻には身を震わせる刺激になる。
愛しい人から施される甘やかな愛撫のように。
 
化け物が征士を知って俺に見せるのではない。
化け物が与える刺激で俺の脳が勝手に見るのだ。
征士の姿を。
 
また違う感触の触手が顔を這い出す。
鼻の穴をねぶり、耳をねぶる。
すべての刺激が、当麻を更に欲情させる。
 
別の一本が唇をたどる。
まるでキスのように。
唇を割り、合間を滑り込む。
温かなそれが当麻の舌に絡みつく。
 
「んん……んっ」
 
征士とキスをしている。
征士の舌が俺の舌に絡まる。
征士…。
 
流れ込んでくるサラサラとした唾液を、自分のものと合わせて飲み込む。
飲み込み損ねた残りが口の端から流れ出す。
 
「せ…いじっ」
 
三度目の射精。
征士を思いながら達する自分。
 
薄々気づいてはいた。
でもずっと蓋をしてきたのだ。
許されない感情だと。
 
「はは…」
 
乾いた笑いが漏れる。
こんな形で思い知らされるなんて。
 
これは征士じゃない。
化け物だ。
征士じゃない。
 
そう自分に言い聞かせても、乳首を弾く、背を這い回る、そして口の中を蹂躙する刺激の全てが、本当は味わったことのない征士の指を、舌を連想させ、当麻を恍惚へと引きずり下ろしていく。
 
「あ…せ…いじっ」
 
ここで浸ってはいけない。
当麻は目を見開き、朦朧としている意識を現実に引きずり戻す。
 
気を取り直すたびに、触手はそうはさせまいと反作用的に活発に動く。
尻の谷間に潜り込み、すぼまりを見つけて刺激する。
 
「うっ…」
 
その刺激に全身がひくついたのを触手は感じ取ったのだろう。
集中的にそこをほぐしだす。
細い一本が入口から入り込み、チョロチョロと出入りを繰り返す。
二本になり、三本になる。
 
「いやぁあ…だっ…や…め…ぁあ」
 
不快だったのは、はじめの一瞬のみ。
生まれて初めての後孔への愛撫は、すぐにめくるめく快感へと変わり、当麻の思考を混沌へと押しやる。
 
「あ…あ…」
 
当麻の反応を喜ぶように、また別の一本が降りてくる。
 
「そんな…の…ぅあ…ああっ」
 
当麻の視界を横切っていった、ちょうどヒトのペニスほどの太さのある触手が、刺激に慣れ濡らされた後孔へと侵入していく。
いやらしい水音がたつ。
 
「いや…あ…っ」
 
目を固く閉じると同時に、我慢していた涙が頬を伝う。
半開きになった唇からはだらしなく涎が垂れ落ちる。
 
痛みはなく、ただひたすらに快楽であることが、まだ片隅で踏みとどまっている正常な思考を傷つける。
 
「あっ…ああっ…ん…あっ」
 
当麻の中にしっかりと打ち込まれたそれは、伸び縮みし、蠢き、執拗に刺激を続ける。
呆れるほどに反り返る当麻自身はまた精を放つ。
 
「ああっ…あ…ぅうああっ、征士…っ」
 
征士に抱かれ、征士のペニスを受け入れているという幻影に浮かされ、涙を流し、またそれを懸命に否定する。
 
正常な意識を取り戻そうとするたびに、自分の征士への思いの強さを認識させられる。
 
「もう…あ…征士、助けて…っ ああああ」
 
何度目の射精なのか覚えていることももはやできていなかったが、催淫の術を施されていてこそではあっても、よくもこう何度も達することができるものだと頭の片隅で呆れている。
 
いつになったら解放されるのか。
 
射精するたびに意識が遠のきそうになる。
そこを精神力だけで持ちこたえる。
諦めと不屈とが交錯する。
 
「ま…けねぇ…ぞ……」
 
全身のどこがどのように快感を感じているのかも定かではなくなってきた。
 
「ぅあ…あっ、んっ」
 
目の前は霞み、ただ聴覚だけが冴え冴えと、触手と自分自身がたてる水音と、口から耐えず漏れる喘ぎを聞いていた。
 
「征士…ぅっ」
 
射精の律動だけ感じて身体はわずかにひくつくが、もう一滴も出なくなった。
 
 
 
両脇で身体を支えていた触手がズルズルと動き、ほどける。
 
「…ぁ…」
 
当麻の身体は透明な粘液とともに、湖へと落ちる。
 
パシャン…と水音がたつ。
 
水に沈んでいく当麻に見えた触手の化け物は、動かしていた腕をだらんと脱力させて、静かになった。
 
意識が遠のいていく。
 
そのとき。
 
「当麻! いるのか!?」
 
征士の声。
 
これは幻聴?
それとも、現実?
 
その声が、途切れかけた当麻の意識の糸をもう一度強く引いた。
 
息を止める。
 
当麻と同じように、仲間を探し歩いていた征士は、水音とともに当麻の身体が湖に沈んでいくところにちょうど辿り着いた。
 
「当麻!」
 
征士はすぐに駆け寄り、腰の辺りまで水に浸かると、白骨遺体の隣に沈む当麻の身体を抱き上げた。
 
「せい…じ…」
 
当麻はまだ意識があり、すんでのところで水を吸い込まずにいられたらしい。
征士の顔を見ると、
 
「どうして…ここが、わかった?」
 
絶え絶えの息の中で聞いた。
 
「当麻が呼んでいる気がしたのだ。無事でよかった」
 
「無事でも、ないけどな」
 
はは…と当麻は力なく笑った。
そんな当麻を、征士は柔らかな微笑みで見つめ返す。
 
「不思議だった。穴を通って来る間、ずっとお前のことばかり考えていた。私を呼んでいたか?」
 
「呼んでた…かもな。ははは…それは良かった…」
 
征士の脳が見せる幻覚は、俺だったか。
もう一度空を見上げ、化け物が眠りにつき征士に害が及びそうもないことがわかると、当麻は緊張の糸が切れたのか、ふっと意識を飛ばした。
 
「当麻…」
 
征士は当麻の息が穏やかにあることを確かめた。
その裸体を両腕でしっかりと抱えると、人骨の転がる湖から岸へあがる。
力の抜けた当麻の頭から、足先から水が滴り落ちる。
 
征士は自分が出てきた穴の縁に当麻を抱いたまま腰掛けた。
天井から下がる物体は視界に入るが、それはもはや鍾乳洞の天井から垂れ下がるいくつもの石柱の一つでしかなく、征士の目には到底動き出すものには見えなかった。
びっしょりと濡れて額に張り付いた青い髪を、征士は指で梳く。
 
「疲れた顔をして…また一人で散々無理をしたのであろう…」
 
湧き上がる愛しさを隠しもせず、征士はその額にそっと口づけた。
 
 
 



おわり
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