たいいくのひ
since November 22th 2012
【021】ちらしずし
ひなまつり。
伸と征士が二人でただちらし寿司を作るっていう。
伸と征士が二人でただちらし寿司を作るっていう。
ただ、それだけ。
でも、征当です。
**********
「まずご飯を炊こう。十人前作るとして、まぁ、やたら食べるのもいるから八合くらいかな。お米研いでもらっていい?」
「ああ。八合だな」
「うん。…征士はお米研ぐのが上手だよね。他の料理だって、けっこう上手くなったじゃない?」
「ここへ来てから随分とお前やナスティに教えてもらった。そのおかげだ」
「はじめは何もできなかったもんねぇ。玉子を割ったことがないって聞いた時は驚いたよ」
「男子厨房に入らずな家で育ったからな」
「春から当麻と二人暮らしになっても、大丈夫そうだね」
「やはり…炊事係は私になるのだろうか」
「うーん。ここで当麻が料理してるの見たことないもんねぇ。あ、炊くときの水加減少なめね。あと、昆布入れて」
「昆布はこれか」
「うん、それ」
「まったくな。共同生活なのだから家事も皆で平等に分担すべきだったのに、結局伸にかなりの負担をかけてしまったな」
「まぁね。いいんだよ、半分は好きでやってるんだし、そういう性分なんだ。征士なんかよく手伝ってくれたじゃないか。あ、じゃあ次、人参と蓮根、皮むいてくれる? ピーラーどうぞ」
「ありがとう。だいたい当麻だって、ここへ来るまでは一人暮らしのようなものだったというのだから、料理だってできるはずだと思うのだがな」
「できるんじゃないかな、当麻は、やれば。でも必要に迫られないとやらないタイプだしね。それにそんな経緯もあれば、やっぱり誰かが作ったものを食べる経験もたくさんして欲しいって、こっちも思っちゃうしね」
「当麻はここで家族の経験をたくさんさせてもらった。それも伸のおかげだな」
「あはは。征士はすっかり当麻の保護者だね」
「保護しているつもりはないのだが…」
「してるしてる。保護っていうより、過保護? 気をつけて先手を打っていかないと、これから先、家事全般を征士がやることになっちゃうよ」
「心掛けよう。…皮はむけたが」
「じゃあ、人参はこうやって薄切りにしてもらおうかな。終わったら蓮根ね。蓮根は…こんな感じで。飾り切りにする分もあるから、半分とっておいて」
「わかった。…しかしここでの生活ももうすぐ終わりかと思うと、さみしいものだな」
「そうだね。…なんか面白いな。征士がそんなこと言うの」
「そうか?」
「うん。みんなと一緒にいたいとか、さみしいとか言わなさそうだったよ。出会った頃は」
「………そうかもしれんな。そのような感情は極力抑えて、表に出さぬことが美徳だと思っていた」
「なんで変わったんだろうね。やっぱり当麻?」
「いや、それは皆のおかげだろう。あえて言えば、遼や秀が手本なのではないかな」
「確かに! 彼らはほんと感情表現が豊かだからなぁ。うらやましいよ。あれだけ自分を出せるっていうのは」
「そうだな。…伸、残しておく蓮根はこんなものでいいか?」
「そうだねぇ…もうちょっと少なくてもいいかな? このくらい。…切るのも早くなったねぇ、征士」
「刃物の扱いには才能があるのかもしれんな」
「じゃあ、才能のあるところで飾り切りね。まず蓮根の穴に沿って、丸く花びらになるようにこういう風に刃を入れていくんだよ」
「やってみよう」
「へー、ほんとにうまいじゃん。…そうだ、穴って言えばさぁ、キミたちセックスするときって、どうしてるの?」
「う…わっ。いきなりなんだ。真剣に包丁を使っているときに驚かせるのではない。失敗するではないか」
「あー、ごめん、ごめん」
「蓮根の穴でそんなことを連想するのか、お前は。…これでよいか」
「上等! この切りくずはこっちと一緒に煮るからね」
「ほう、無駄がないな」
「で、それ、薄切りにして」
「…これくらいか?」
「うん。いいよ」
「ああ、綺麗に花のようになるものだ。面白い」
「初めてやったようには思えないよ。けっこう器用じゃない」
「教え方が上手いのだろう」
「ま、それもあるけどね。それはこっちで酢と塩を入れたお湯で茹でるんだ。あ、その絹さやの筋をとってくれる?」
「承知した」
「で? さっきの質問の答えは? そーゆーこと、やってるんでしょ、キミたち」
「…忘れてなかったか」
「おあいにくさま」
「……どうしてそう思うのだ? その、そういうことをしているのではないかと…」
「どうしてだと思う?」
「音でも…聞こえるのか? 気をつけているつもりなのだが…」
「あははは。相変わらず嘘がつけないねぇ、征士。…安心して。聞こえてないよ。音も、喘ぎ声も」
「あえ…」
「はい、絹さや終わったら、次これ。海老の殻むいて、背わたとって」
「………」
「聞こえないんだけどさ、なんとなくわかるんだなぁ。キミたちが二人で階段を降りてきた時に、なんていうの? あのあとでーすって、感じ?」
「……そう、なのか…」
「いや、僕以外の二人は気づいてないと思うけど。ナスティはどうかなぁ。大人だからなぁ」
「………」
「で? ほら、男同士でどうやってるのかなーって、興味あるんだけど」
「…答える筋合いはない。ほら、海老は終わったぞ」
「すごいね、征士。海老の殻むいて背わた取れって言われただけで、ここまでできるんだもん。たいしたもんだよ。まぁいいや。さっきのことは、当麻に聞くから」
「…やめてくれ」
「じゃあ、教えて?」
「それはその…」
「その?」
「……いや、やはり人に話すことではないな、すまん」
「あはは。でもそこが征士らしくていいや。じゃあ征士が切った人参と蓮根を、ささがきにしたごぼうと、戻して切った干し椎茸と、油抜いて切った油揚げと、ね、これ全部一緒に出し汁で煮るよ」
「味付けは?」
「砂糖と醤油だね。汁気がなくなるまで煮て…。二人暮らしならここまでをたくさん作っておいて、冷凍しておくと便利だよ」
「男が二人だけの家庭で、ちらし寿司など作るか?」
「作りなよー。ただでさえ男二人でむさ苦しいんだからさ。こういうもので彩らないと」
「むさ苦しいか…そうだな」
「ま、ご本人たちはバラ色なんでしょうけど? 」
「そのように見えるか?」
「そうじゃないの?」
「少なくとも私は嬉しいのだが…」
「当麻だって、最近は特にものすごーく嬉しそうに見えるよ。尻尾がついてたら、あの鼻歌と一緒にずっと振ってる感じ?」
「そうか」
「いやー、やっぱり手つきがいいよ。ほんと、うまくなったなぁ、征士」
「…やはり炊事係か」
「征士がよければ、それでもいいんじゃない? 当麻のためにご飯を作るのって、やりがいあるよ。美味しそうにたくさん食べてくれるからね。…じゃ、絹さやと海老は塩茹でして…。征士は玉子割ってくれる?」
「ああ。これ全部か?」
「うん、全部。玉子たっぷりが、当麻も喜ぶだろう?」
「…伸も当麻のために料理をするのが楽しそうだな」
「え? まぁ、そりゃ…って、やだな。キミと話してるからであって、別に僕は当麻のこと、なんとも思っちゃいないよ? ご飯の作り甲斐があるっていうだけだよ?」
「わかってる」
「ほんとかなぁ」
「…薄焼き玉子は失敗すると台無しだから、伸がやってくれ」
「え? こないだオムライスで上手にできてたけど? ま、いいか。じゃあ見ててね」
「……」
「…で、ひっくり返して…」
「……」
「……はい、一枚」
「…鮮やかな手さばきだな。流石だ」
「もー、大袈裟だなぁ。……あ、ご飯炊けたみたいだね。じゃああそこにあけてくれる?」
「わかった……あ…つっ。…よ、………と」
「で、合わせといた寿司酢を混ぜながら、うちわであおいで一気に冷ます!」
「よし!」
「うまい、うまい」
「結構な力仕事だな、これは」
「そうだよ。煮えた具も、広げて冷ますからね。こうやって…。心配? これからのこと」
「…ああ、さみしさにつけ込んで、無理に付き合わせているのではないかと思うときが…まあ、たまに」
「なに? 当麻の様子でそう思うの?」
「……いや、違うな。私が勝手に不安がっているだけだ。結局お互いの実家にも、ルームシェアのために同居すると言っているし、色々と不安定だしな」
「そうだね」
「いつまでも一緒にいられればいいとは思っているが」
「うん。…具、合わせようか」
「ちらし寿司らしくなってきたな」
「そうだね。じゃあ、綺麗にならして…。蓋しておこうか」
「飾り付けは?」
「用意だけしておいたら、あとは食べる前にしよう。イクラと刻み穴子はあるから、あとは蓮根と絹さやと、海老だね」
「豪華だな」
「ナスティのひなまつりのお祝いだからね。さあ、これだけじゃないよ。蛤の汁も、サラダもデザートも作らないと」
「まだまだあるな」
「掃除部隊はちゃんとやっているだろうね?」
「さっきから物音がしなくなったな…」
「あーっ、秀、当麻! 寝っ転がって休んでるんじゃなーい! ナスティが帰ってくるよ!」
「ははは」
「まーったく、しかたがないなぁ、あの子たちは! …先が思いやられるね、キミたちの生活も」
「たまには愚痴を聞いてくれ」
「うん」
「さあ、次は何をすればいい?」
「じゃあね、…………」
おわり
**********
私もちらし寿司を作らねば!
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