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【016】タワー

バレンタイン、本当に最後(笑)。
征当ですよー。

拍手



**********


三年間の同居生活を来春で終えようとする五人は、 最後に全員で旅行をと大阪にやってきた。気分は修学旅行だ。
 
言い出しっぺは秀で、目的はもちろん大阪名物食いだおれだ。いつもは四人を見守りつつ後からついてくるスタンスをとる伸が珍しくそれには大乗り気で、計画は一気に進んで今日に至る。
 
大阪出身だから行き先に不満を言うかと思われた当麻も、しばらく帰省もしてなかったし案内するよと快く了承してくれた。海遊館やUSJにも行こうぜ、と企画は盛りだくさん。
 
征士は東京より西に旅行するのは初めてだと嬉しそうな顔。戦いの最中に行ったのは、あれは旅行ではないと断言する。
 
行きの新幹線の中から遼はもうテンションがあがりっぱなしで、海が見えたと言ってははしゃぎ、富士山が正面から見えたと言っては感動し、名古屋をすぎて雪景色になると、一度降りようと言い出して、伸に必死でなだめられる始末だ。
 
大阪に着くとUSJに直行し夕方まで楽しんだ五人は、くいだおれを心ゆくまで満喫し、最後に大阪の夜景を見ようという運びになった。
 
向かったのは通天閣。言わずとしれた大阪のシンボルタワーだ。
 
「あれが噂の通天閣かぁ。おおっ 光ってる光ってる!」
 
「ピンクか……。明日、新幹線に影響がないといいがなぁ」
 
通天閣の一番上に光るネオンサインがピンク色に光っている。
 
「何か意味でもあるのかい? あの色に」
 
その色で何かの情報を得たらしい当麻に、伸がたずねる。
 
「ああ。晴れなら白、雨なら青、ピンクは雪なんだ」
 
「明日は雪か」
 
嬉しそうな遼。
 
「積もっちゃ困るよ。新幹線が動かないと帰れないじゃないか」
 
「平気だよな、一日くらい学校休んだって! 雪じゃしょうがねぇじゃん」
 
秀はむしろ大歓迎という顔。
 
夕方までは天気も良く暖かだったのに、そこから急に曇って気温が下がってきている。
 
通天閣の入口にはイベントのスペースが作られていて、ちょっとした人だかりになっている。
華やかなピンク色で統一されたそこは、バレンタイン関連のイベントが行われているらしい。
 
「チューで入場料半額だってよ!」
 
「なんだ?」
 
「お! おもしれーな」
 
串カツ屋の見たことのない新メニューに見入っていて遅れた当麻と、それを連れに戻った征士が三人に追いつく前に、伸が遼と秀に素早く耳打ちをする。
 
「……わかった」
 
「……OK」
 
並んで向こうを向いている二人に、伸が声をかける。
 
「ねえ、征士、当麻。ここでみんなの前でキスをしてみせたら、入場料が半額なんだって。折角だから僕たちもやってみないかい?」
 
「ええ!?」
 
「キス……だと?」
 
「そう。五人でジャンケンして、負けた方から順番にペア組んでさ」
 
「やろうぜ、せーのっ」
 
征士と当麻が異論を唱える隙を与えず、秀がはじめる。
 
「ジャンケン、ポン!」
 
「アイコでしょ!」
 
征士と当麻がグー、他の三人がパーを出して、一回目の勝負はついた。
 
「まじかよ」
 
当麻が征士の顔を見る。
征士は。
若干の困惑を滲ませて伸の顔を見た。
伸はそんな征士をニヤッと見返す。
他には気づかれないように。
 
征士が当麻に対して友人以上の思いを抱いていることに、最初に気づいたのは伸だった。
それはまだ、戦いが続いていた三年前に遡る。
 
人付き合いが不器用で、仲間うちでも小さな行き違いが絶えなかった征士の言動が、当麻の存在によって随分と温かく変わったこと。
当麻への態度が他の仲間たちに対するものと、ほんの少し違うこと。
当麻への眼差しに、時折えも言われぬ感情が込められること。
 
これは恋なんじゃないか?
本人よりも先に気づいたのはさすが伸だし、自覚するより先に他人に気づかれるところは、さすが征士だ。
 
募る思いの持って行き場にほとほと困り果てた征士が、意を決して伸に相談を持ちかけ、自分でも整理のつかないその感情を伸が優しく解きほぐし受け入れてくれたときから、征士はずっと伸を信頼し、愚痴聞いてもらったり、人生相談に乗ってもらったりしていた。
 
征士が伸をちらっと見たのには、そんな経緯があったのだ。
 
図ったな?
 
伸はもう、知らんぷりを決め込んでいる。
 
「ほらほら、やっちゃって、やっちゃって!」
 
態度を決めかねている二人を、秀がぐいぐいとステージに押し出す。
 
「いいぞー!」
 
「早く行けー!」
 
思いもよらぬ男同士の出場に、見物の人だかりがわく。
 
ピンクに装飾された安っぽいステージの上で、モデル並みの美形の男二人が向き合う様は、何とも言えず滑稽だ。
 
「ほら、何やってんだよ! 後がつかえてるぞ。早く早く!」
 
遼が追い打ちの声をかける。
 
「仕方が……ない、よな?」
 
当麻は覚悟を決めたらしい。
 
「ああ……」
 
正面から間近に当麻の顔を見る。
三年間一緒に暮らしていても意外とない、近すぎるこの距離感に征士の心臓が跳ねる。
 
征士は当麻の両肩に手を置く。
 
「イケー!」
 
「早う、やってまえー!」
 
会場は更に沸く。
 
当麻は恥ずかしくて周りを見られないからなのか、少し目を潤ませてまっすぐ征士だけを見ている。
 
当麻とキスをする。
ずっとしたいと思っていたような、一度もそんなこと、考えたこともなかったような。
 
でも、こんなチャンスは絶対に最初で最後だろう。
 
征士は腹をくくった。
 
「目をつぶれ、当麻」
 
言われるままに、そそくさと当麻が目をつぶる。
それを見てから、征士は自分も目を閉じて。
 
テレビや映画でしか見たことのない、キス。
確か、こんな感じで……。
 
そっと首を傾けると、鼻と鼻がぶつからないように注意しながら、唇を寄せていく。
 
当麻が息を止めて、心なしか震えているのが伝わってくる。
 
唇と唇が、重なる。
 
 
 
 
「わーーー!」
 
「いいぞー!」
 
観衆がわっと沸く。
秀は指を指して、遼は腹を抱えて笑っている。
伸は、ニコニコと見守っている。
 
 
やめるタイミングが分からずに、しばらくそのまま唇を重ねていた征士だったが、当麻が息を止めていられなくなったのか肩を震わせたので、ようやく離れた。
 
拍手喝采の中、どんな顔をしていいかもよくわからず、笑っているような、泣いているような、怒っているような顔で、二人は仲間の元に戻った。
 
「おっ疲れー!」
 
笑いで涙を滲ませながら肩を叩く秀を、
 
「次、誰だよ。早く行けよな」
 
と、当麻が軽く睨む。
 
「いいんだよ。俺たち、こんな恥ずかしいことするくらいなら、正規料金でいいよなって、さっき決めたとこ」
 
「はあー!?」
 
「さー、いこいこ!」
 
混んできたから早く早く、と伸は三人をまとめて入口へと押す。
 
そして振り返ると、一人後に立ち止まっていた征士に片目をつぶって見せた。
 
征士もそれに笑って応え、後に続いた。
 
 
 
 
通天閣の展望台からは、大阪の夜景が実によく見えた。
 
何となく一人でそれを眺めていた当麻の隣に、いつの間にか伸が立つ。
 
「図っただろ」

当麻は夜景から目を離さずに、腹立たしいと言わんばかりの口調。
でもそれが照れであることは、もう伸にはわかっていて。
 
「まぁね。いい思い出になったろ?」

「……まぁ……、な」
 
覗き込む伸に、更にぶっきらぼうに答える。
頬が、赤い。
 
「あ、征士だ」
 
人混みの向こうから征士が二人を探してやってくるのが見える。
 
「悪いようにはならないと思うけど。ちょっと思い切ってみたら?」
 
当麻の肩をポン、と叩くと、伸は征士の来る方へ歩いて行き、すれ違いざまに征士にも何か一声かけたようだ。
 
緊張した面持ちの征士が、当麻の隣にそっと立つ。
 
広がる大阪の夜景。
バレンタイン色に輝いているのネオンサインの予報の通り、真っ白な雪がチラチラと舞い降りてきた。
 
 
 
 
おわり
 
**********
 
【あとがき】
 
チュー天閣のネタ提供aさん、ありがとー!
ちょっとでも萌えていただけたら幸いです。
2/16細部修正
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