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犬のいる生活

闇天。
悪奴弥守×当麻です。


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久しぶりによく降る雨は、一昨日の昼前頃からずっと降っている。
昨日からずっと居座っているにも関わらず、大好きな当麻との散歩に出られない九十郎は、不貞腐れた犬のようにソファにふんぞり返っている。

「つまらん」

当麻と言えば、締切の迫る論文の仕上げに、雨が降り始める前からかかり切り。
カップラーメンの昼飯を啜りこんで以来、もう小一時間、空いたカップや箸を放置したままのテーブルで、パソコンと睨めっこだ。

「当麻は俺のことなど、どうでもいいのであろう」

九十郎が、どこの誰が聞いてもくだらないと断じる類の悪態をつく。

「何を言っているんだ。俺は九十郎サンを……」

当麻はちらりと九十郎の顔を見て、それからまたパソコン画面に目を落とした。

「親兄弟よりも、大切に思っている」

そう思っているとはとても聞こえない、平坦な口調で当麻が言う。
そしてまた、雨音を伴奏にカチャカチャとキーボードを叩いたり、マウスを操る音だけが響く。

ピンポーン

玄関のチャイムがなった。
やれやれと腰を上げて、九十郎が玄関へと出向き、ドアを開けて来客の応対をする。

二、三言、言葉のやり取りが聞こえてドアが閉まり、小さな箱を抱えた九十郎がリビングに戻ってきた。

「当麻には兄弟がいたのか」

今まで聞いたことがなかったが、と、驚いた調子で九十郎。

「いない。親もいない」

答える当麻は、眉をしかめて画面を見たまま、目線を寄越しもしない。

「いない誰かから、ほら、包みが届いているぞ」

九十郎は伝票の貼ってある小さな小包をテーブルの端に乗せてから、当麻の方へ滑らせる。
当麻はそれを少し大袈裟に、面倒くさそうな顔をして受け止める。

「おかしいな。俺は木の股から生まれてきたはずなんだが……。何を送って来たんだ。お袋のやつ」

開けてみろ、と当麻は九十郎へ、再びテーブルに小包を滑らせた。
床へと落ちかけた紙に包まれた小箱を九十郎がすんでで受け止めて、ガサガサと開く。
包み紙の中の箱からは、青い、犬の首輪が現れた。

「ああ」

当麻がやっと、九十郎に顔を向けた。

「大きな犬を飼い始めたって、教えたからな。電話で」

はっはっは、と当麻が笑う。

「誰が犬だ」

何か美味いものでも出てくるのかと、半ば期待していた九十郎は、仏頂面で革製の首輪をテーブルに放り投げた。
当麻が重い腰を上げる。

「雨の中でも良ければ、散歩に行くか」

途端に九十郎の顔が明るくなる。
頭の上にピンと立った耳と、ブンブン振られた尻尾が見えるようだ、と当麻にはおかしくて堪らない。

強かった雨は、小雨になってきたようだ。
せっかく直った飼い犬の機嫌が斜めにならぬよう笑いを噛み殺しながら、当麻は上着に袖を通した。



おわり
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